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[宮地陽子コラム第46回] ロッドマンとカーを彷彿させるドレイモンド・グリーン

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現ゴールデンステイト・ウォリアーズのヘッドコーチ、スティーブ・カーがまだ現役の選手で、初めてのNBAファイナルに出たとき、当時シカゴ・ブルズでチームメイトだったビル・ウェニントンから与えられた“賞”があった。

“モス・オブ・ザ・イヤー”

モスは蛾のこと。あまり嬉しくない名前の賞だが、いったいどんな意味があるのか、当時のウェニントンの言葉を引用しよう。

「メディア・モス、メディアと仲良しという賞だ。テレビカメラの照明がついたらスティーブはいつでも明かりに向かって羽ばたいていくからね」。

そう言うと、ウェニントンは両手のひらを羽のようにパタパタと動かしたものだった。確かに、カーは現役の頃からメディアの間で人気者。取材にはいつも協力的で、的確なコメントをするから、テレビカメラや記者たちが集まるのも当然だった。もっとも、当時カーは、お喋りなウェニントンこそ、その称号にふさわしいと反論していたけれど。

そんな話を思い出したのは、今のウォリアーズにも“モス・オブ・ザ・イヤー”の称号にふさわしい選手がいるからだ。いつも賑やかで、まるで口から先に生まれたかのようなドレイモンド・グリーンだ。

グリーンのまわりには常にメディアが集まり、質問が続く限り、グリーンも答え続ける。時には、言いたいことを話すために自分で自分に質問して答えることまである。思ったことをストレートに口にするから、話も面白い。小さい頃から母親に「人の後ろをいくのではなく、リーダーになりなさい」と言われて育ったそうで、幼稚園の頃から、人前で立ち上がって発言することを恐れない子供だったらしい。

カーとは少し違うタイプだが、確かにウォリアーズ一番の“メディア・モス”だ。6月4日(日本時間5日)から始まるNBAファイナルの期間中は、毎日のように全世界のメディアが周りを囲むのは間違いない。

カーHCいわく、コート上のグリーンは90年代後半のブルズのチームでいえば、デニス・ロッドマンのようなのだと言う。エネルギッシュなプレーでチーム全体に活力をもたらすところが似ているらしい。

今シーズン、スターターに昇格したグリーンは、カーHCからのそんな期待を理解し、自分の役割として自覚しているようだ。NBAファイナルでは、レブロン・ジェイムズを抑えるために先頭に立つ覚悟があると明言する。

「よく言われるように僕がこのチームの“鼓動”なのだとしたら、チームがそのチャレンジに応えられるようにするのが自分の役割。チームが僕の姿勢や情熱を反映するのでなければ、自分のことをリーダーとは呼べない」。

「もちろん、相手はレブロンだ。でも、僕らだってたまたまファイナルに出てきたわけではない。それだけの理由があってここまでやってきたんだ。相手がレブロンだからといって、自信が足りなくなるようなことはない」。

いかにもグリーンらしい、頼もしい言葉だ。NBAファイナル中もこの調子で、コート外ではカーの、コート上ではロッドマンの後継者としての活躍に期待したい。

文:宮地陽子  Twitter: @yokomiyaji

 

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