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[宮地陽子コラム第39回] コービーの"恋唄"とウェストブルックの"返歌"

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Russell Westbrook Kobe Bryant 2012 London Olympic

勝手な想像だが、あれは恋歌と返歌だったのではないかと思っている。

NBAオールスターの朝、コービー・ブライアント(ロサンゼルス・レイカーズ)が The Players Tribuneのサイトに、オールスターゲームでの姿勢についての文章を掲載した。たとえオールスターゲームであっても、勝負を気にしないかのように装ったり、“受け身のアグレッシブさ”(ブライアントの表現)で満足するのではなく、常に勝負に行き、MVPを獲りに行くのが自分のやり方だ、という内容だ。

「スマートフォン世代の奴らは舞台を分かち合うのかもしれないけれど、自分は、自分のやり方を変えるつもりはない」と宣言した。

もっともブライアント自身は、ファン投票でオールスターには選ばれていたものの、肩の故障で欠場。開催地のニューヨークにも行っていなかった。それでも、オールスターゲームの朝にこの文章を載せたということは、“スマートフォン世代”の若手オールスター選手たちも見ることを想定してのことに違いない。そして自分と同じメンタリティで試合に挑む選手がいるかどうかを確かめるために、興味深く試合を見ていたはずだ。

そんなブライアントの期待に応えるように、試合開始から獲物(MVP)狙いを隠そうとしなかったのがラッセル・ウェストブルック(オクラホマシティ・サンダー)だった。前半だけで15本中13本のシュートを決めて27点、試合を通して、オールスター記録に1点だけ足りない41点をあげた。

試合後、ウェストブルックは言った。

「自分のアプローチはいつも同じ。アグレッシブに、競う気持ちでプレーした。それ以外のやり方を僕は知らない」。

オールスターというお祭りの舞台で、しかも、ポイントガードでありながら、一人でやりすぎだったと思う人もいるかもしれない。しかし、そんな空気を読んだことをするのは、彼のやり方ではなかった。それは、ブライアントが誰にともなく投げかけたチャレンジという名の恋歌に対する、ウェストブルック流の返歌のように思えた。

オールスターゲームの翌日、アメリカではブライアントのインタビュー番組が放映された。前もって収録されたその番組で、ブライアントは、子供の頃からマイケル・ジョーダンを見て育ち、同じような激しさ、競争心を持つようになったと語っていた。

さらに、若手で同じような情熱を持っている選手は誰かと聞かれると、ウェストブルックの名前を挙げた(もっとも、この時が初めてではなく、以前から何度となく、同じようなコメントをしたことはあった)。

「ウェストブルックは、僕のように容赦なく、攻撃的なプレーをする。彼は僕のプレーを見てきたんだ」。

ジョーダンからブライアントに受け継がれたものが、今、ウェストブルックが引き継ごうとしている。血のつながりや、チームメイトとしてのつながりがなくても、こうやって伝えられていくものがあることに、感動すら感じる。

もちろん、ウェストブルックには未知数なところがある。そのひとつは、頂点に立っても、まだそのメンタリティをキープできるかどうか、だ。

ジョーダンは6回、ブライアントは5回のNBA優勝を果たしているが、二人とも、それで満足はしていない。

先のインタビュー番組でブライアントは言った。

「本当は7回優勝できるはずだった」。

ファイナルまで進みながら、優勝を目の前に敗れた2004年と2008年のことだ。特にボストン・セルティックスに敗れた2008年のことは、今でも思い出すだけで歯ぎしりするほど悔しくてしかたないらしい。その翌々年に、同じセルティックス相手に優勝することでリベンジを果たしているが、それでも、負けた事実は消えない。

一方、NBAファイナルで一度も負けたことがないジョーダンは、誰かに倒されるまで続けられなかったこと、ファイナルで負ける経験をしないままにチームが解体してしまった悔しさを、2年前のインタビューで語っていた。

「誰かに倒されたら、(優勝することが)どれだけ難しいことかを理解することができた。でも、それは起こらなかった。だから残りの人生ずっと決着がつかないまま、7回優勝できたかもしれない、8回、9回できたかもしれないと思い続けて生きていかなくてはいけない」。

負けても悔しく、負けることを知らないままでも悔しい。だからこそ、ジョーダンもブライアントも「同じようにのろわれた性格」(ジョーダン談)なのだ。

果たしてウェストブルックは、この二人と同じように「のろわれた」性格なのか。それを知るためにも、まずは一度、ウェストブルックが優勝する姿を見てみたいと思うのだった。

著者
宮地陽子 Yoko Miyaji Photo

スポーツライター/バスケットボールライター