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[宮地陽子コラム第44回] 好調クリッパーズの“パパたちの幼稚園”

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ロサンゼルス・クリッパーズ対サンアントニオ・スパーズは、1回戦としては贅沢すぎるほどの好シリーズだった。それは、見ているファンやメディアだけでなく、実際に戦っている選手やコーチたちも感じていたようだ。第7戦の残り2分頃、スパーズのティム・ダンカンが、クリッパーズのヘッドコーチのドク・リバースに近づき、「これ、本当に1回戦?」と聞き、リバースも「まさにそう思っていたところだ」と返したという。

そんな名勝負の中で評価をあげた選手を一人挙げるとしたら、クリッパーズのブレイク・グリフィンではないだろうか。シリーズ7戦の平均で24.1点、13.1リバウンド、7.4アシストとオールラウンドに活躍し、第7戦では、シリーズ2度目のトリプルダブルを記録している。少し前まで、審判の笛や相手のフィジカルなプレーに切れてテクニカルファウルを吹かれるなど、メンタル的な弱さを見せていたことも多かったが、このシリーズでは王者スパーズに負けないぐらいの平常心を保って戦い続けていた。

そのグリフィン、第7戦で勝利した後の記者会見場に、1歳9か月の息子を抱いて出てきた。クリッパーズの選手たちはよく息子たちを試合後のロッカールームに連れてくるのだが、グリフィンが自分の息子をロッカールームや会見場に連れてきたのは、この日が初めてのことだった。

勝利の後の会見を息子とともに経験する喜びについて聞かれたグリフィンは言った。

「すばらしい気分だ。3、4年前から、毎試合後にロッカールームに大勢の子供たちがいるのを君たちもみんな見てきたと思う。今、息子は、ここで何が起きているのか何もわかっていないし、隣に誰が座っているのかもわかっていないけれどね」。

それを隣で聞いていたクリス・ポールは、「ブレイクは(クリッパーズのロッカールームを)“ダディ・デイケア”と呼び始めた張本人だったんだ」と言い、グリフィンは「今度は僕の番というわけだ」と付け足した。

クリッパーズの試合後のロッカールームが“ダディ・デイケア”(パパたちの幼稚園)になったのは、4年前にクリス・ポールがチームに加入してからだ。家族愛の強いポールは、忙しいスケジュールの中で息子と共に過ごす時間を確保するために息子を毎試合に連れてきていて、試合後にロッカールームで着替える間にも息子と共に過ごす時間を大切にしている。

以前、ポールはこう言っていた。

「次の日に学校があるからと、子供を連れてこない選手も多いけれど、僕は妻に、これだけは僕のわがままを通してほしいと言っているんだ。息子も試合が大好きだし、僕も、試合後には息子の顔を見る必要があるんだ」。

ポールの息子に加えてマット・バーンズの双子の息子たち、ジャマール・クロフォードの息子もロッカールームの常連組。去年秋、離婚の話し合いをしていたバーンズの双子の息子たちの姿がロッカールームになかったときは、バーンズだけでなく、ポールの息子も寂しそうだった。シーズン途中からロッカールームに双子たちが戻ってくると賑やかさも戻り、と同時にバーンズの調子も上がってきたのだから、NBA選手といえども、家族と仕事が密接につながっていることがよくわかる。

「バスケットボールは僕らがやっていることであり、僕らの人格のすべてではない」とポールは言う。

コーチによっては、試合後であってもロッカールームに子供たちが入ることを禁止しているチームもある。各アリーナには家族のためのファミリールームもあり、子供たちもそこで待つのがふつうで、クリッパーズのようにまで日常的に“ダディ・デイケア”状態なチームは珍しい。

ポールは、子供たちが走り回るロッカールームの好影響について、こう言う。

「(子供たちがいることで)物事を深刻に受け止めすぎないように、正常な感覚を持つことができるんだ」。

そんなポールの家族との結びつきを間近で見てきて、子供たちの成長を親戚のオジサンのように見守ってきたグリフィン。息子を会見場に連れてきたのは、彼の選手として、人間としての成長の表れなのかもしれない。

文:宮地陽子  Twitter: @yokomiyaji

 

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