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[宮地陽子コラム第37回] ウォリアーズのロッカールームに掲げられたスローガン

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取材でNBAアリーナに行き、ホームチームのロッカールームに入ると、まず、全体をぐるりと見渡すのが習慣になっている。どこかにチームらしさを示すものや、記事のヒントになるようなものが転がっていないかを探すためだ。つい先日、ゴールデンステイト・ウォリアーズの本拠地、オラクル・アリーナでウォリアーズのロッカールームに行ったときには、それは簡単に見つけられた。部屋の正面、大型テレビの横に掛けられていたスローガンが目に飛び込んできたのだ。

"mUSt be jUSt about US"

直訳すると「大事なのは“自分たち”だけであるべきだ」、つまり「チーム第一」というわけだ。他の単語の中に隠れた“US”(=自分たち)を、大きく太字にすることで、ビジュアル的にも"US"が3つ並んで見える、洒落たレイアウトだった。

実は、これは昨シーズンから掲げられていたものらしいが、まさに、今シーズンのウォリアーズの強さの理由を的確に表したスローガンだと感じた。

実際、この日(1月19日)の試合でウォリアーズは、まさにスターターから控えまで全員が活躍し、デンバー・ナゲッツ相手に43点差をつけて圧勝し、リーグ最高の成績を33勝6敗に向上させた。

試合後、全員が活躍できるようなチームの雰囲気について聞かれたヘッドコーチのスティーブ・カーは、こう語った。

「試合後、選手たちに、『私はこれを、当然なことだと軽く考えたりはしていない』と言ったんだ。

NBAで、これほどまでにお互いのために戦い、毎晩のように無私の姿勢を示しているグループは珍しい。(試合によって)得点をたくさん入れない選手や、シュートを多く打たない選手が出てくるけれど、そのことを誰も気にする様子もない。(控えも含めた全員が力をあわせて戦うことで)ステフ(カリー)やクレイ(トンプソン)が多くの時間プレーしすぎることを避けることもできて、それによって彼らの体力を温存することもできる。

一番大きいのは、全員がそれぞれチームへの献身を示してくれていることだ。シーズン頭にアンドレ(イグダーラ)が控えから出ることを受け入れたこと、そしてその後、デイビッド(リー)も同じように控えの役割を受け入れたことが、チーム内にそういった雰囲気を作り出した。彼らはチームメイトたちが、このグループが特別だということがわかっていたのだと思う。

そういったことが、シーズンが進むにつれて築かれていくのを見るのは本当に楽しい」。

カーは、そう言って"US"のメンタリティを実践する選手たちを称賛したが、実際にはその空気は選手たちだけが作り出したものではない。

たとえば、新人ヘッドコーチとしてチームを率いて、これだけの好成績をあげていることを聞かれるたびに、カーは「元々よかったチームを引き継ぐことができた私は、NBA史上で最も幸運なコーチだ」と言い、自分の手柄にしようともしない。ロン・アダムズやアルビン・ジェントリーら、ベテランのアシスタントコーチたちにも、頼るべきところは頼って、コーチ陣もチームとして機能させている。まさに、カー自身が"US"のスローガンを体現しているのだ。

以前、レイカーズのヘッドコーチが、シーズン途中でマイク・ブラウンからマイク・ダントーニに代わったとき、ロッカールームに掛かっていた"パウンディング・ザ・ロック"の額がそのまま残っていたことが、レイカーズの中途半端なシーズンの象徴のように思えたと書いたことがあった

そのときと正反対のことを言うようで我ながら都合がいいと思うけれど、ウォリアーズのロッカールームに、マーク・ジャクソン時代からあった"US"のスローガンが今も掛けられていることに、ヘッドコーチが交代しても昨季のよさを残したまま、継続しつつ、さらに上に築き上げることができている現ウォリアーズの強さの一端を感じるのだった。

文:宮地陽子  Twitter: @yokomiyaji

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