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[宮地陽子コラム第38回] LAに帰還したパウ・ガソルが示したレイカーズへの思い

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1月29日にステイプルズ・センターで行なわれたロサンゼルス・レイカーズ対シカゴ・ブルズの試合前、レイカーズのスタッフ(レ)、ブルズのスタッフ(ブ)と、そして数名のメディア(メ)の間で、こんな会話が交わされた。

(レ)「うちから行った彼はどうだい? なかなかいいやつだろ?」。

(ブ)「そうだね。本当にいい人だ。いい人過ぎるところがあるのが玉に瑕だけれど」。

(メ)「そうそう。コート外では人のよさはすばらしいけれど、試合に出ているときはいい人すぎるところがマイナスになるよね」。

レイカーズやブルズのファンなら、誰のことを話していたか、名前を出さなくてもすぐにわかることだろう。そう、去年夏にフリーエージェントとしてレイカーズからブルズに移籍したパウ・ガソルのことだ。

どこに行っても、相手がチームのスタッフでもメディアでも、愛想がよく、丁寧に対応するいい人だ。移籍後、初めてレイカーズのホームゲームでロサンゼルスに戻ってきたこの日も、数歩歩くたびにスタッフやメディアから「お帰りなさい」と声をかけられ、そのたびに丁寧に応対していた。

「コート上でいい人過ぎる」という声は、時にもっとアグレッシブに、敵対心をむき出しなぐらいのプレーをしてほしいという周囲の期待の裏返しでもある。かつてコービー・ブライアントは、映画のキャラクターに喩えてガソルに「ブラックスワンになれ」と言ったこともあった。コート上では人格が変わるぐらいの激しさを見せてほしいという、これも期待の裏返しだった。

もっとも、いつ、どこに行っても、コート外でもコート内でも、パウはあくまでパウであり、それが彼の良さでもある。レイカーズからトレードされそうになり、それが破談になった後も、また、マイク・ダントーニ・ヘッドコーチのもとで役割が変わってフラストレーションを感じていたときでも、少なくとも表面では変わることなくパウであり続けた。そのことで、チームメイトやスタッフ、メディアから敬意を勝ち取った一面もある。

この前の日に、肩の手術を受けたばかりのコービー・ブライアントが、ガソルに会うために、痛みを我慢してステイプルズ・センターまで来たのも、レイカーズが移籍したガソルに感謝するTシャツを作って観客に配り、試合前にセレモニーを行なったのも、そんな敬意の表れでもあった。

以下は、試合後の囲み取材から──。

──試合前のセレモニーについて。

「試合前に多くの喝采を受けたことで、様々な感情が沸いてきて、集中するのが難しかった。試合に集中するのに少し時間がかかってしまった。残念ながら、試合に勝つだけのプレーをすることができなかったけれど。今夜のなかで残念なところだ。でも、レイカーズの組織、そしてファンにはとても感謝している。応援してくれる気持ちを表してくれて、すばらしかった」。

──試合前のコービーとの会話はどうでしたか?

「よかった。彼がわざわざ来てくれたことに感謝している。来るとは思っていなかった。手術したばかりなのに、僕に会うために来てくれたというのは、ありがたいことだ。予想外の贈り物だった。彼は手術を受けたばかりで、痛みがまだあった。だから、すぐに帰って休むように言ったんだ。彼に会えただけで、すばらしい驚きだった。今後も連絡を取り合い、またいつか会ってゆっくり話をすることもあるだろう」。

──レイカーズはあなたに感謝するTシャツを作って迎えていました。試合前、ハイライト映像が流れた後に一人でセンターコートに歩いていったとき、どんな気持ちでしたか?

「圧倒されていた。どういう感じで迎えられるかは予想できなかったんだ。(歓迎されて)感傷的になった。すばらしかった。ファンから感謝してもらい、応援してもらえて、愛情を示してもらえることは、とても嬉しい。何年も、このファンの前でプレーできたことを感謝している。ここで多くのことを経験した。レイカーズには、このセレモニーやTシャツを用意してくれたことを、とても感謝している。全体として、さっきも言ったようにすばらしい経験だった。ただ、試合の負け方で残念な思いが残ったけれど」。

──シカゴに移ったことは今でもよかったと思っていますか? ブルズでの時間を楽しんでいますか?

「楽しんでいる。あの時点で、正しい移籍だったと思う。僕ら(ブルズ)はすばらしい状況にあり、可能性があるチームだ。まだ、継続的に最高の力を出せていないけれど、それでも、すばらしい状況だ。僕もモチベーションを高く保つことができ、活力を感じ、高いレベルでプレーできている。今、自分ができていることをとても喜んでいる。僕にとって、パーフェクトな状況だ」。

──レイカーズで成し遂げたことが、チームの伝統の一部として人々の記憶に残ることは、あなたにとってどれだけ大事なことですか?

「人々は僕たちがチームとして成し遂げたこと、僕がどれだけチームや地域に尽くし、貢献したかを覚えてくれている。もっとも、覚えているかどうかは、その人たち次第だ。僕自身は思い出に感謝し、ファンからの応援や敬意に感謝するだけだ。あとは、残りの人生、自分らしくあり続けるだけのこと」。

──レイカーズでの最後の2年ぐらいはあなたにとってつらい時期だったと思いますが、そこから離れたことで、レイカーズで経験したポジティブなことだけを考えられるようになったのではないですか?

「間違いなくそうだ。長い間、ひとつの場所にいると、いいときも厳しいときもある。僕が、そして僕らが経験したのもそういうことだ。それだけ長くここにいたからね。すばらしい経験をしたときの思い出を大切にするようにしている。つらいときがあったから、よかったときをさらに大切に感じることができる。今は、今の瞬間を大事に過ごし、先を見て、今の機会を楽しんでいるけれど、ここ(レイカーズ)で過ごした数年間の経験はとても特別で、今までの僕の選手生活の中でもっともすばらしい時間だった」。

文:宮地陽子  Twitter: @yokomiyaji

 

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