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[宮地陽子コラム第42回] アジアの血を受け継ぐレイカーズの期待の星、ジョーダン・クラークソン

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引退間近のコービー・ブライアント、復帰をかけたスティーブ・ナッシュ、ドラフト7位指名のジュリアス・ランドル──。今シーズンが始まる前に、ロサンゼルス・レイカーズ周辺で話題となっていたのは、彼らだった。しかしナッシュはプレシーズン公式戦に出ることなく引退、ランドルは開幕戦で足を骨折、ブライアントはシーズン途中で肩を痛めて離脱してしまった。

話題がなくなり、まるで気の抜けたソーダのようになってしまった“レイカーランド”に突然現れたのが、期待の星、ジョーダン・クラークソンだった。突然といっても、レイカーズに入ったのは去年6月。ワシントン・ウィザーズに180万ドルを払って獲得したドラフト2巡目(全体46位)指名選手で、シーズン序盤はほとんど出番もなく、注目もされていなかった。

転機となったのは1月、ブライアントが肩の手術を決意したとき。ブライアントの今季中の復帰がなくなったことを受けて、ヘッドコーチのバイロン・スコットは、残りのシーズンで若手選手たちに経験を積ませることを選び、その一人がクラークソンだった。

偶然、高校時代に住んでいて、今も両親が住むサンアントニオでの試合が、クラークソンにとってはNBA初スタートとなった。この試合で11点、4アシストと活躍。その後、試合を重ねるごとに成長を見せた。オールスター級の選手を相手にしても物怖じせずに向かっていく彼に、レイカーズのファンは希望を見出した。オールスター後の28試合でのスタッツは平均16.7点、5.4アシスト。3月にはウェスタン・カンファレンスの月間新人賞も受賞している。

4月のクリッパーズとの“ホーム&ホーム”2連戦ではクリス・ポールとマッチアップ、最初の試合でクリッパーズのディフェンスに封じ込められて2点、3アシストに終わったが、試合の映像を研究して対策を考え、2日後の試合では20点、6アシストをあげた。

「この(ポイントガードの)ポジションはエリート選手が揃っているから、きちんと準備をしないと弱点をさらされてしまう」とクラークソン。その言葉でわかるような真摯な姿勢も好感度が高い。

坊主頭に、芯の強さを表すような凛々しい眉毛。活躍した日も浮かれることなく、ほとんど表情を変えることなく淡々と語る姿。見ていると、修行し始めたばかりのお坊さんのように見えてくるときもある。

クラークソンにアジアのイメージが沸いてくるのは、実は自然なことだ。彼の母はフィリピン人。彼自身はフィリピンには行ったことがないというが、それでも母の国を誇りに思っていて、フィリピン代表として国際大会にも出たいとの意思も表明している。そのためには国籍の問題やFIBAからの許可が必要だが、その第一歩として、5月には初めてフィリピンを訪れる予定だという。

「(フィリピン代表として)出られるように手続きをしているところなんだ。エージェントといっしょにフィリピンにも行くつもりだ。(FIBAから)免除を受ける必要がある。(帰化枠では)もうアンドレイ・ブラッチェがいるからね」と、クラークソンは言う

ところで、彼の名前にはちょっとしたエピソードがある。彼の父、マイク・クラークソンは、自分と息子の名前をあわせることで、殿堂入り名選手の名前になるようにと、息子に“ジョーダン”とつけたのだという。

「マイケル・ジョーダンの全力でプレーする姿と、決意の強さが好きだったんだ」と父は言う。クラークソンにとって、ジョーダンは物心がつく前の選手だと言うが、父が大事にする価値観が息子にも受け継がれていることは確かだ。

レイカーズにとって期待していたようなシーズンではなく、当初の話題はどれもフェイドアウトしてしまったが、クラークソンが成長していくところを見ることができただけでも、今季のレイカーズを取材できてよかったと思うのだった。

文:宮地陽子  Twitter: @yokomiyaji

 

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