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[宮地陽子コラム第36回] 他チームとは異なる76ers独自の"成績表"

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クリスマスから新年のホリデーシーズンが終わりに近づく中、ロサンゼルスに最下位チームがやってきた。1月3日にクリッパーズと対戦したフィラデルフィア・76ersだ。4勝27敗、シーズンを通してタンキング(わざと負けること)の象徴のように言われているチームだが、実際に現場で戦うコーチや選手たちが、どんな姿勢で、どんな考えでプレーしているのかを知りたくて取材に行ってきた。

試合結果から書くと、76ersは36点の大差で負け、シーズン28敗目を喫した。

試合後、ブレット・ブラウン・ヘッドコーチの囲み取材では、印象的な言葉がいくつかあった。それらの言葉から、今の76ersの空気を読み取ってみたいと思う。

■「試合が長すぎた」

長すぎた、といっても、オーバータイムになったわけではない。ふつうに4クォーターで終わった試合だったが、それでもブラウンHCが「長すぎた」と言ったのは、今の76ersにとって、という意味だ。

実際、第3Qまではそれなりに競うことができていた。第3Qが終わった時点での点差は9点。第3Q途中では、一時4点差まで追い上げたときもあった。序盤のリードにクリッパーズが気を緩めた面もあるが、76ersもオフェンスではパスを回し、攻守にハッスルしたプレーで、いい戦いをしていた。

しかし第3Q終わりから第4Qにかけて、ターンオーバーがかさみ、失点が続くと、集中力が切れたように点差が開いていった。第3Qまでのターンオーバー数は14本だったのに、第4Qには7本のターンオーバーから15失点したことにも、第4Qに集中力がなくなったことがうかがえる。

ブラウンHCは言った。

「これは、私たちによく起こることだ。36分間はきちんとプレーできる。でも、それを続けられないことが多い。36分間のプレーは誇りに思っている。多くのいい兆候が見られた。でも最後には水門が壊れてしまった」。

40分の大学の試合なら、36分間の集中で勝てるかもしれないが、48分のNBAの試合は、それでは勝てないのも仕方ないことだ。

■「私たちの成績表は、他のチームとは違う」

つまり、他のチームのように試合の勝ち負けや、試合全体の出来で評価するのではなく、若くて成長中のチームなりの評価の基準があるというわけだ。いいプレーが36分しか続かずに、結果は敗戦であっても、その中でよかったところを認め、伸ばしていくような評価の仕方をしなくてはいけないということだ。

「私たちは、成長を判断しようとしている。うちには多くの20歳の選手がいる(実際には20歳が2人、21歳が3人)。NBA史上で一番若く、経験のないチームなんだ」。

たとえば、20歳選手の一人で、2013年ドラフト1位指名選手(昨季は故障で全試合欠場)のナーレンズ・ノエルについて、こんなことを言っていた。

「選手が成長し、大人の男になり、NBAの全体図を理解するのには時間がかかる。ナーレンズは20歳になったばかりだ。バスケットボール経験も浅い。彼は安定して上向きの成長を見せている。私たちは時々、欲張って、もっと早く起こってほしいと思うけれど、彼の気持ちは正しいところにあり、競争心もある。彼のスキルを伸ばし、エネルギーをきちんと使えるように助けることが大事だ」。

「彼の選手の価値を決めるのはモーター、エネルギーだ。エリート級のアスリートで、スキルも上達している。でも、エリート級のモーターがなければ何も成し遂げられない。それが私たちの今のミッションだ。彼のルーキーシーズンをコーチするうえで、そこに一番の力を注いでいる。それ以外のことは、あとからついてくるのだから」。

■「西海岸遠征から学んだことは、NBA全体図の現実だ」

今回の西海岸遠征を、76ersは5連敗で終えた。ポートランド、ユタ、ゴールデンステイト、フェニックス、そして最後にロサンゼルスでクリッパーズ。その前にオーランド・マジックとマイアミ・ヒートに連勝して、少し自信を持ち始めていた若いチームに、ウェスタン・カンファレンスのチームは厳しい現実を見せつけた。

単に東より西のほうが競争のレベルが高いという話ではない。NBAの頂点に立つということは、これだけの強豪の中で競い、勝ち抜かなくてはいけないという現実、つまり、自分たちの現在地と目標地との距離を見せつけられたわけだ。

かつて、スパーズでアシスタントコーチを務めていたブラウンHCは、その厳しさをよく知っている。でも、これは選手たちが皆、それぞれ自分たちで体感しなくてはいけないことだった。

「選手たちにも、そういう話をした。クリッパーズ、ポートランド、ゴールデンステイトらを相手に試合すると、5月終わりまで試合している可能性が多いチームがたくさんあることがわかる。中には6月まで戦っているチームもあるかもしれない。これが現実だ。ステフ・カリーやクリス・ポールのような選手を見たり、フェニックス・サンズの爆発的な得点力を見たりすると、これが私たちのリーグの現実だとわかる。うちの選手たちも、そこに行きたいと思っている。チームとしても選手としても、対戦相手から学ぶことを選べればと思う。成長して学ぶこと、それが、私たちの今の成績表だ」。

文:宮地陽子  Twitter: @yokomiyaji

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