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[2016 NBAファイナル コラム]レブロン・ジェームズが信じ続けた“特別な選手”(宮地陽子)

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NBAファイナル第5戦、レブロン・ジェームズとカイリー・アービングが揃って41点をあげ、キャブズを勝利に導いた後の記者会見で、こんなやり取りがあった。

シーズン通してキャブズを取材してきたクリーブランドの記者たちが、アービングにジェームズとのコンビの息が合うようになったと感じ始めたのがいつ頃からだったのかを、聞き出そうとしていた。

1人目の記者が、これまで2シーズンの間、コンビが本当にうまくいくのかと周囲から言われ続けてきたことに触れ、その中で、この第5戦のようにお互いにぴったりとうまくいくやり方を見つけたのはいつだったのかを聞いた。

アービングはその問いかけに対して、あえて何月頃とか、シーズンのどのあたりといった答え方はせず、別の表現で答えた。

「他の人たちが言うことを気にしなくなったときだ」。

そう言ったあとに、、ロッカールームの中のことだけを考えることでどんな状況も乗り越えられると語り、「信頼し合うようになったことは大事だった」とも強調した。

少しして、別のクリーブランドの記者が、2人のコンビの息が合うようになった時期を具体的に聞き出そうと、改めてアービングに質問した。

記者「プレイオフでしたか? レギュラーシーズンの終わり?」。

アービング「正直言って、特定の日付はわからないんだ」。

記者「それなら何月ぐらいだけでも」。

アービング「うーん、3月かな。……3月、いや、やっぱりわからない。大事なのは今のことだけだから。ちゃんと日付とか答えられなくてごめん」。

記者「シーズンの最後の3、4週間ぐらいのことだったのではないですか?」。

ここで、やり取りを聞いていたジェームズが口をはさんだ。

ジェームズ「そうだ、その頃だよ。いや、僕がチームに戻ってきてすぐのことだった。すぐに息が合うようになったんだ」。

アービング「そうだ、そうだ。彼が戻ってくると発表してすぐのことだった(笑)」。

若いアービングは、あくまで聞かれたことに対して生真面目に答えようとし、そんなアービングに、適当にごまかして答えることを教えるジェームズ。2人の性格や関係がうかがえる興味深いやり取りだった。そして、最終的には、アービングはあくまでジェームズの手のひらの上で踊っているのだという印象も抱いた。


第5戦でジェームズとアービングはそれぞれ41得点。同一チームの2選手が40得点以上をあげたのはNBAファイナル史上初の出来事だった

ESPNのデイブ・マクメナミン記者によると、ジェームズは第4戦の試合開始直前、コートの上で、アービングに「Be special」(特別な選手になるんだ)と言ったのだという。ジェームズからアービングに与えたミッションであり、チャレンジでもあった。

その第4戦では、アービングは途中までは好調だったものの、試合終盤にシュートを決めきれず、チームを勝利に導くことはできなかった。試合後のアービングは、勝ちきれなかったことを反省しながらも、ジェームズのリードに従い、アグレッシブに攻めることで活路が開けるという感触は得たと言っていた。そんな第4戦があってこその、第5戦の活躍だった。

だからこそ、第5戦後の会見で、ジェームズは真っ先に、アービングがいかに特別な選手で、どれだけすばらしいプレイをしたかを称賛した。

「ここにいる、とても特別な選手が見せたプレイは、僕がこれまで実際に見た中で、トップクラスにすばらしいものだった」とジェームズ。マイアミ・ヒートでドウェイン・ウェイドらと共に2度の優勝を果たしているジェームズからのこの言葉は、今のアービングにとって、最大級の賛辞だった。どのようにすばらしかったのか聞かれたジェームズは、こう語った。

「とにかく落ち着いていた。落ち着いて48分間やっていた。試合に出たのは40分だったけれど、ベンチに下がった8分も、とにかく落ち着いていた。必要な場面でのシュートを続けて決め、チームを率いていた。ディフェンスでもすばらしかった」。

去年のNBAファイナルでジェームズは、アービングとケビン・ラブ抜きで、1人で残りの選手を率いて戦わなくてはいけなかった。そのときの経験から、どれだけ1人で頑張ってもリーグの頂点に立つことは厳しいことを痛感していた。優勝するには自分以外に「特別」な選手が「特別」なプレイをすることが必要だと感じていた。そして、今のキャブズではそれができるのはアービングだと信じていた。

周囲からは、41点を取る活躍をしてもほとんどがアイソレーションのプレイだったという批判や、これがあと2試合続くわけがないと懐疑的な声も出ている。しかし今は、ジェームズもアービングも、そんな外野の声に耳を傾けている時間はない。アービングが言ったように、2人のコンビがうまく機能するようになったのは、外野の声に耳を傾けなくなり、チームメイトやコーチの言うことだけを信じてプレイするようになってからだったのだから。

文:宮地陽子  Twitter: @yokomiyaji

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NBA日本公式サイト『NBA Japan』編集スタッフ