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[2016 NBAファイナル コラム]“MVPに選ばれた理由”を示したステフィン・カリー(宮地陽子)

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NBAファイナル第4戦、MVP男、ステフィン・カリー(ゴールデンステイト・ウォリアーズ)が復活した。ウォリアーズのヘッドコーチ、スティーブ・カーがそのことを確信したのは、第2クォーター半ば、カリーがウォリアーズのベンチ前で打った難しい3ポイントシュートが、高い弧を描いてリングに吸い込まれるのを見たときだったという。

「まったく、あれを決められる選手は、地球上にそう多くはない」とカーHCは感嘆する。

「あれを決めたということは、それだけ彼が自分のプレイにいい感触を持ち始めたということだ」。

確かに、難しいシュートだった。ゴール下からアンドレ・イグダーラが出したパスは、ディフェンスの手に弾かれて不規則な動きをし、予定よりだいぶ手前に落ちた。走りこんでボールをリカバーしたカリーは、そのままコーナーに入り、と同時にシュート体勢に入った。慌ててカバーに出てきたチャニング・フライが伸ばした手先をかわすために、いつもより高くシュートを放ったのだった。イレギュラーなパスにすぐに対応し、瞬時に状況を判断して、打つことができるギリギリのタイミングと軌道を計算。他の選手なら、シュートを打てないか、打ってもブロックされるか、あるいはリングにも届かずに落ちているところだが、カリーは、それをヒョイっと決めてみせた。

「でも、まぁ、彼はステフィン・カリーだから」とカーHCは、難しいシュートを簡単に決めたことをそう言って納得していた。

この同じセリフを、世界中のNBAファンが、今シーズン何度口にしたことだろうか。信じられないようなシュートを見て驚いたときでも、「でも、まぁ、彼はステフィン・カリーだから」と言えば誰もが納得するような、そんな世界をカリーは、この2年で作り出してきたのだ。

スプラッシュブラザーズの相棒、クレイ・トンプソンも言う。

「彼とはこれまで5年間、いっしょにやってきて、見てきたけれど、このリーグの他の誰が打っても“バッドショット”(シュートセレクションが悪い)と言われるようなシュートを打ってくる。ステフは距離も出せるし、ボールハンドリングもある。何しろ、彼は僕らのMVPなのだから」。

もっとも、このファイナルの第3戦まで、NBAファンはそんなカリーをほとんど見ることができなかった。キャブズのディフェンスに徹底マークされたということに加え、第1戦と第2戦はファウルトラブルで出場が限られ、第3戦はターンオーバーを連発し、カリーらしい活躍がなかった。第3戦では、いつもとは違うタイミングでベンチにカリーを下げたカーHCが、「大丈夫か?」と聞く場面まであったほどだ。

まだチームが勝った第1戦と第2戦はよかった。しかし、第3戦に大敗した後には、「カリーは本当にMVPに値する選手なのか」と疑う声、批判する声も聞こえてきた。MVP級の選手は、どれだけ相手に厳しくマークされた状態であっても、ファイナルの大舞台で印象に残る活躍してこそ本物だという意見は根強い。

第3戦後、MVP級の活躍ができていないことに懸念を持っているかと聞かれたカリーは、こう答えた。

「チームが勝つために自分が何もできなかったことに、失望はしている。人の期待に応えられるかどうかではなく、自分の期待に応えられるかどうかという意味で、それができていなかった」。

第4戦を前に、珍しく批判にさらされたカリーに何かアドバイスをするかと聞かれたカーHCは、カリーはアドバイスするまでもなく、批判されることもスター選手であることのひとつと理解しているから大丈夫だと太鼓判を押した。

「ステフの素晴らしいところのひとつは、地に足がついているということ。彼は、称賛されるのと同じように、批判をされるものだということも理解している。大舞台で2試合ほど調子が悪かったから、批判もされる。でも、そういったことに対応できる選手だ」。

カリーはその信頼に応えて、第4戦で批判を吹き飛ばす活躍をした。カーHCですら驚いたシュートを含め、7本の3P、合計11本のフィールドゴールを決め、38点、6アシストでチームを率いた。

「彼はステフ・カリーなんだ。彼がMVPになったのには、それなりの理由がある。身体面で試合を支配するようなサイズや力強さはないから、その分、スキルで支配しなくてはいけない。それは簡単なことではない。シュートは入らないときもあるものだ。でも、彼は自分自身、自分のシュートを信頼している。打ち続け、今夜はそれが入ったんだ」(カーHC)

文:宮地陽子  Twitter: @yokomiyaji

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NBA日本公式サイト『NBA Japan』編集スタッフ