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[2016 NBAファイナル コラム]13年ぶりのファイナルに意気込むリチャード・ジェファーソン(宮地陽子)

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NBAファイナル第3戦、クリーブランド・キャバリアーズのヘッドコーチ、タロン・ルーが、ケビン・ラブ(脳しんとうで欠場)に代わってスターターに抜擢したのはリチャード・ジェファーソンだった。

「リチャード、きょうは君がスタートだ」とルーHC。

「OK」とジェファーソン。

試合当日の昼間に交わされた簡単な会話で、ファイナル第3戦のスターターの役割が告げられた。ジェファーソンにとって実に13年ぶりの、ファイナルの舞台での先発だった。

15年前にNBAに入り、ニュージャージー・ネッツ(現ブルックリン・ネッツ)の一員として1年目からファイナルに出場したものの、ロサンゼルス・レイカーズ相手に敗退。翌年も2年連続でファイナルに出場し、今度はスターターとしてサンアントニオ・スパーズと対戦したが、またも敗退。それからファイナルの舞台に戻ってくるのに13年の年月がかかった。その間に、若手の点取り屋は、いぶし銀の脇役ベテラン選手に変貌していた。

「バスケットボールが変化し、求められることも変わってきた。キャリアの中で、スコアラーである必要があったときもあった。今はディフェンダーで、正しいプレイをし、ノーマークのシュートを打つことを求められるような選手だ」と、ジェファーソンは自らの役割の変化について語る。

かつてのスター選手にとって、脇役を受け入れるのは簡単なことではないのではとも思うが、ジェファーソンの考え方はとてもシンプルだ。

「正直言ってこれは簡単なこと。簡単にできるとは言わないけれど、簡単な仕事だ。1つか2つのことに集中するように言ってもらえたら、『OK、それならできる』と言える。みんなが自分の仕事をきちんとやることができれば、すべてのことが、さらに簡単になる」。

ジェファーソンをラブの代わりにスターターで起用するというルーHC判断に対して、試合前には懐疑的な声もあった。第1戦と第2戦でスモールラインナップが失敗していただけに、ラブより8cm近く身長の低いジェファーソンを用いるより、長身シューターのチャニング・フライか、昨シーズンのファイナルでスターティングセンターとして存在感を示したティモフェイ・モズゴフを起用したほうがいいのではないかとの意見も多かった。

それでも、ルーHCは、35歳、NBA15年目のベテランのジェファーソンを選んだ。

「彼のフィジカルなところがいい。ボールをキャッチし、まっすぐドライブすることができ、オフェンスが停滞したときにはボールを持たなくても動くことができる。第2戦でもいいプレイをしていたから、彼でいくことにした」とルーHC。

実際、情けない戦いぶりでキャブズが大敗した第2戦で、戦う気概を見せた数少ない選手の一人がジェファーソンだった。それを見逃さなかったルーHCの起用が当たった。

第3戦、試合開始から2分半、ジェファーソンがコーナーから決めた3ポイントシュートでキャブズは9-0のリードを取り、第1クォーターの残り4分18秒にジェファーソンがベンチに下がったときには、点差は13に広がっていた。最終的に30点差でキャブズが勝利をあげ、ジェファーソンは、今プレイオフで自己最長の33分13秒に出場、9点、8リバウンド、2アシスト、2スティールを記録し、勝利に貢献した。

長いプレイタイムに、ジェファーソンは試合後、「今シーズン初めてコールドタブに入った」と言う。歳を取ったことを認めたのか、それとも、シーズンを通して一度もコールドタブに入る必要がなかった若さを暗に示唆したかったのかはわからないが、どちらにしても、そうやって笑いを取るのが彼流のコミュニケーションだ。チームのつなぎ役として大事な役割を果たしているのがうかがえる。

ジャーニーマンのジェファーソンは、2012年3月から翌シーズン終わりまでウォリアーズにも所属していたことがある。当時のメンバーにはすでに若き日のステフィン・カリー、クレイ・トンプソン、ドレイモンド・グリーン、ハリソン・バーンズらがいた。若い頃から努力してきた姿を知っているからこそ、そして、ベテランとして、ほんの少しでも彼らの成長の手助けができたと自負しているからこそ、彼らのこの2シーズンの成功は嬉しいという。

「ウォリアーズは選手もスタッフもよく知っている。だから、彼らが成功するのを見るのは嬉しい。謙虚に、努力しているのを見るのも嬉しい。あれほどいい人たちに、いいことが起きるのは納得だ。でも、今は彼らの勢いを止めようとしているけれどね」。

第3戦のキャブズ大勝を受けて、ラブが脳しんとうから復帰しても、ジェファーソンをスターターに残したほうがいいのではないかとの声もある。そんなことを問うメディアの質問に、少しでもラブへの批判を引き出そうとするニュアンスを感じると、ジェファーソンはきっぱりと否定した。

「ケビンはチームの重要なメンバーで、僕らがここまで来られた大きな理由のひとつだ。最初の2試合は、チーム全員がいいプレイをしなかった。それを1人の選手の責任にするのはフェアではない。これはチームの問題なんだ。(第3戦に)ケビンはロッカールームで僕らを誰よりも応援していた。コーチ・ルーがどうするかはわからないけれど、僕らはケビンと共に戦い続ける」。

「僕も、そのときの状況に応じて準備はできている。チームが必要とすることを何でもやるだけだ。それがいつでも僕のモットーなんだ」。

文:宮地陽子  Twitter: @yokomiyaji

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NBA日本公式サイト『NBA Japan』編集スタッフ