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渡嘉敷来夢インタビュー「やっぱりメダルが欲しかった」(宮地陽子)

Ramu Tokashiki

9月21日(日本時間22日)、WNBAプレイオフ1回戦で、シアトル・ストームはアトランタ・ドリームに85-94で敗れ、シーズン終了を迎えた。渡嘉敷来夢にとっても、短いようで長い2016 WNBAシーズンの終了だった。

開幕からオリンピックでの中断までは、同じポジションに入ったルーキー、ブリアナ・スチュワートの陰に隠れ、プレイタイムが激減。果たして、このままWNBAで続けることが渡嘉敷にとってプラスになるのだろうかという懸念も持つほどだった。

そんな流れを変えたのがリオ五輪での日本代表の活躍だった。予選ラウンドでオーストラリアやフランスなど、世界の強豪相手に互角に戦い、フランス相手には勝利をあげた。3勝2敗で決勝トーナメント進出を決め、他国からも注目を集めた。準々決勝では王者アメリカ相手に第3クォーター頭まで接戦を戦い、アメリカを本気にさせた。

そんな日本の活躍、その日本を率いる大黒柱の渡嘉敷のプレイを、ストームのヘッドコーチ、ジェニー・ブーサックは全試合映像で見ていたという。オリンピックでの渡嘉敷のプレイを研究し、ストームでもその活躍を引き出すようにオフェンスを修正した。

そのこともあり、オリンピック後の渡嘉敷は出場時間もスタッツも伸び(※)、何より試合での存在感も大きくなった。若いストームも成長を見せ、オリンピック後は6勝4敗の成績(通算16勝18敗)で、プレイオフ出場権を獲得したのだ。プレイオフでは1回戦で敗れたものの、ストームにとっても、渡嘉敷個人にとっても、来シーズンに向けての希望を感じられるシーズンだった。

シーズン終了の2日後、シアトルでの生活を終え、帰国の準備をしていた渡嘉敷に電話でインタビューした。

※渡嘉敷来夢 リオ五輪前後のWNBAスタッツ
五輪前:平均11.6分、4.3点、1.8リバウンド(レギュラーシーズン21試合)
五輪後:平均16.5分、7.3点、3.8リバウンド(レギュラーシーズン10試合+プレイオフ1試合)


──まず、簡単にオリンピックを戦っての感想からお聞きしたいのですけれど……。

オリンピック……忘れちゃったな……。

──忘れちゃいましたか(笑)。目標に掲げていたメダルには届かなかったものの、決勝トーナメントまで残り、アメリカとも対戦し、メダルを取れなかった以外は願っていたような大会だったのではないですか?

はい。それは思うんですけれど、やっぱりメダルが欲しかった。決勝トーナメントに行くことは、自分自身、当たり前だと思っていたので。本当にメダルが欲しかったなと思います。

──個人的には、オリンピックで手ごたえはありましたか?

うーん。個人的に手ごたえというのはあまりないですかね。また次に向けて頑張ろう、またもっとうまくなるために頑張りたいなって思いました。

──オリンピック後、WNBAの後半戦では、オリンピック前より思い切りがよくなったように見えましたが、オリンピックから戻ってきて、自分の変化というのは何かありましたか?

自分で感じるのは、日本にいる自分がシアトルに来たかな、という感じですかね。日本代表の渡嘉敷来夢がシアトル・ストームに来たぞ、っていう感じはしました。

──シーズン前半はそうではなかった?

そうだったんですけれど、起用法も含め……(力を発揮できなかった)というのはあります。日本代表でプレイして、自分も日本代表では中心の一人なので、そこで自分が攻めなきゃという(意識でやっていた)のが、シアトルに帰ってきたときにも残っていたかな……という言い方でもいいと思うんですけれど。

──試合での起用法も、オリンピック後は変わりましたよね。オリンピック後のジェニー・ブーサックHCのインタビューで、オリンピックの日本の試合は全部見て、そこでの渡嘉敷のプレイや何が得意なのかを研究し、ストームのオフェンスもそれに合わせると言っていました。

そう(コーチ)本人からも言われました。

──コーチが日本の試合を全試合、きちんと見てくれたというのは後半戦に向けてプラスだったのではないですか?

はい。それは嬉しいですね。やっぱり、自分を理解してくれようとしてくれているっていうのは嬉しいですし、それに自分も応えなきゃいけないなとは思っています。

──コーチが言っていたオリンピック後の変化ですが、試合を見た感じでは、オリンピック前は外からばかりだったのが、オリンピック後はインサイドのプレイが増えように見えました。プレイしていて、一番変わったことは何ですか?

そうですね、一番違ったのはそこです。インサイドに入っていっていいという感じになったので。だから本当にプレイの幅も広がり、自分自身の持っているものを出していいんだっていう環境になったかな、とは思います。起用の仕方が自分にうまく合ってくれたので。来シーズンも(同じように)使っていただけたら、またいいプレイができるのかなとは思います

──チームメイトもオリンピックを見ていたでしょうし、(アメリカ代表の)スー・バードやブリアナ・スチュワートとは対戦したわけですけれど、オリンピックによってチームメイトの見る目も変わったりしましたか?

いや、変わっていないんじゃないですか? そこはわからないですけれど。

──オリンピックの活躍で、それまで以上に信頼されたということもあるのかなと思ったのですけれど……。

いや、チームメイトはいつも信じていてくれています。お前が必要だっていうのをすごく言ってくれるので。チームメイトが(オリンピックの)試合を見ていたかどうかはわからないんですけれど、でも、オリンピック前から『監督が何と言おうと、お前のプレイをすればいいから』って、みんな言ってくれていました。

──オリンピック後は全体にプレイタイムが増えていましたが、9月2日のシカゴ・スカイ戦序盤でスターティング・センターのクリスタル・ラングホーンが目を怪我したために22分出て、そのラングホーンが欠場した次の試合(9月4日アトランタ・ドリーム戦)ではスターターに抜擢され、28分出ましたよね。1試合とはいえスターターで出られたっていうのは……。

すごく嬉しかったです。5番(センター)の控えってほかにもいるじゃないですか。その人じゃなくて、自分をスタートに使ってくれたっていうのは、すごく嬉しかったです。なので、それに応えなきゃと(思いました)。スタートとして自分のバスケであったり、ストームのバスケットを表現できるのは嬉しかったですね。また、いつもと違った出方で、すごく緊張したんですけれど。

──オリンピック後はチームも成績をあげて、プレイオフ出場権を争い、見事獲得したわけですけれど、WNBAでのプレイオフ出場権をとるための争いというのは、やってみてどうでしたか?

とりあえず全試合勝ちたいと思って戦いました。プレイオフには絶対に行けるというか、行きたいと思っていたから。そういった面ではタフな試合でもありましたし、(プレイオフ出場権争いをしていた)終盤になって、『本当にこのリーグ、タフだな』って思いました。去年と一番違うところは、そのプレイオフ争いに参加できたことであったり、プレイオフに出場できたっていうこと。それが一番大きいかなと思います。

──タフだなっていうのは、対戦相手が? それとも遠征? シーズン終盤のストームは厳しい遠征続きで、その中で連勝していましたよね。

遠征もそうですし、対戦相手も、自分たちと順位を争っているところと戦ったじゃないですか。なので、終盤になってこう来るのか(こういう対戦があるのか)という……。最初はあまり(どこが順位争いの相手なのか)わからないじゃないですか。でも(試合をするごとに)わかってくる感じとかが、いよいよだなっていう気持ちにさせられました。

──チームが勝つために、自分が貢献できることも、その戦いの中でつかみ取ったのではないですか?

そうですね。自分はエネルギーがあるので、それを短時間で出して。自分のそういったエネルギーがチームにとって、すごく必要なことだっていうのは理解できるようになったので、後半、それがアジャストできるようになりました。

──そうやってつかんで出たプレイオフを戦っての感想を聞かせてください。

勝ちたかったです、本当に。勝てたゲームだったとも思うので。来シーズンは、こういう悔しい思いはしたくないなって思います。

──シーズン全体を振り返ると、プレイタイムは去年より減ったけれど、フィールドゴール成功率も上がり、36分換算で考えると得点も少し増え(14.3点→14.7点)、リバウンドも約1本多い(5.7本→6.8本)。いろいろと苦労したけれど、手ごたえがあったシーズンだったのではないかと思うのですが、自分ではシーズンを振り返ってどうですか?

日本では経験できないことを、すごく経験したなっていう感じですね。5分だったら5分間の中で、自分のエネルギーをすべて出し切らなくてはいけないっていうことであったり、大事なところで(試合に)出されたり。今、(自分のプレイが)必要だから出ているんだっていうときに、200%でやることの難しさというか……。でも、それが自分にとってすごくいい経験になったので、そこが次に生きるのかなって思います。自分のバスケット人生ですごいプラスになったシーズンだったと思います。

──どうもありがとうございました。この後、日本に戻ってのご活躍、そして来シーズンまたWNBAで見られることを楽しみにしています。

文:宮地陽子  Twitter: @yokomiyaji

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