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[渡邊雄太 独占インタビュー]目標のNBA入りについて「可能性はあるとは思っています」(杉浦大介)

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Yuta Watanabe

日本バスケットボール界期待の星、渡邊雄太が最大の目標であるNBAに向けて動き出している。5月19日にジョージ・ワシントン大を卒業した渡邊は、21日にブルックリン・ネッツのワークアウト(コーチやスカウトの前で行なう能力チェック)に参加。さらに24日にはワシントン・ウィザーズともワークアウトを行なうなど、NBAからも注目される存在になっている。

大学4年生時にはアトランティック10カンファレンスのディフェンシブ・プレイヤー・オブ・ザ・イヤー(最優秀守備選手賞)にも輝いた俊才は、田臥勇太以来、日本人史上2人目のNBAプレイヤーになれるのか。サウスポーのオールラウンダーにとって、NBAドラフトが行なわれる6月21日までが極めて重要な時間になりそうだ。

ネッツとのワークアウトを終えた後の21日午後、ブルックリンのホテルで渡邊にじっくりと話を聞いた。バスケットボール・キャリアの分岐点にいる23歳の言葉は、今後への希望、不安、そして期待感にあふれていた。

Yuta Watanabe

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NBAの6チームと面接

――まず最初に、卒業おめでとうございます。

ありがとうございます。実は卒業式にあまりこだわりはなかったので、行かなくても良いくらいの気持ちだったんです。ただ実際に行ってみたら、あれは出て良かったなと思いました。セレモニーを(本拠地だった)チャールズ・E・スミスセンターでやったときはいろいろ思い出しましたね。

――3月8日、A10トーナメント2回戦で負った右足首の捻挫はもう問題ないですか?

まだ完全ではなく、腫れは少し残っています。ただ、今日もやっていてそんなに問題はなかったですね。最後にちょっと痛みが出てきていたんで、終わった後に随分長いこと治療をしてもらいました。でも、もうほとんど大丈夫かなという感じ。90%くらいは回復してますね。

――3月上旬にケガして、動けるようになったのはいつ頃でしょうか?

バスケットボールができるようになるまでには6週間くらいかかりました。けっこう長かったです。ジョギングができるようになってからはスムーズだったんですけど、それまでが時間が必要でした。

――捻挫が完治しなかったために4月下旬のポーツマス・インビテーショナル・トーナメント(以下PIT ※注1)への出場は叶わなかったわけですが、それでもNBAチームと直接話すためにポーツマスに足を運んだそうですね。

NBAの6チームと面接をさせていただきました。インタビューは1回30分くらいでしたね。

※注1:有望選手たちがバージニア州ポーツマスに集まり、NBAのエグゼクティブ、スカウトの前で腕試しする毎年恒例のイベント

――少し時間が経って、今、カレッジキャリアをどう振り返りますか? 最大の目標だったNCAAトーナメント進出は叶わなかったわけですが、すべてを出し切ったという意味で納得できる4年間だったのでは?

やれることは全部、自分的にはやったと思います。トーナメントに出るという目標は達成できませんでしたが、だからといって後悔とかはないです。特に4年生時にA10カンファレンスのディフェンシブ・プレイヤー・オブ・ザ・イヤーを受賞したというのは自分の中ですごく意味があることでした。3年生、4年生の2シーズンはずっと相手のエースとマッチアップし、それがカンファレンス内で評価してもらえたというのは嬉しかったです。

――今後の目標はとにかくNBAということでブレはないですか。

はい、それはもちろんです。

ネッツとウィザーズのワークアウトに参加

――確認すると、現時点ではネッツ、ウィザーズの2チームからワークアウトに呼ばれているということですね。

今のところはその2チームです。今日(21日)はネッツでやらせてもらい、24日にはウィザーズのワークアウト。その後のスケジュールとしては、ワッサーマンのエージェンシーがあるロサンゼルスで練習して、29日には『プロ・デー』があります。(ワッサーマンが)プロのスカウトやGMを招き、その前で僕たちが練習をするイベントです。

――プロ・デーは近年、大手のエージェントがよく開催するイベントですね。

僕の代理人は6月にイタリアで行なわれるNBAドラフト・コンバイン(NBAグローバルキャンプ)にも呼ばれるだろうという話をしてくれています。なので6月の頭にイタリアに行くことになります。イタリアでのコンバイン自体は3~4日と短いと思うので、帰ってきたら、僕に興味を示してくれているチームがいくつかあるということなので、あと6つくらいはワークアウトをすることになるだろうと。6月はかなり忙しくなりそうかなという感じです。

※注:その後、本人がNBAグローバルキャンプ2018に参加するためイタリアへ行くことをツイッターで発表。NBAも日本時間31日に公式リリースを発表し、渡邊の名前の入ったリストを公開した。

――ハードですが、それだけ声がかかるというのは凄いことですね。それではネッツのワークアウトの詳細について話してもらえますか?

朝7時から始まったんですが、まず朝食を摂っている間に心理テストのような、僕たちがどういう人間なのかを調べるテストがありました。質問は300近くあって大変でしたね。その後に身体に悪いところがないか、フィジカルのチェック。さらにジャンプ力、走力、アジリティのテスト。それからワークアウト、ランチ、そして面接という順番でした。朝7時に行って、帰ってきたのが夕方4時だったので思ったより長い時間でした。ほとんど1日がかりでしたね。

――参加したのは何選手だったんでしょう?

1回のワークアウトはいつも6人。それはどこのチームも同じで、ガード2人、フォワード2人、インサイド2人で、僕はフォワードの1人として参加しました。シカゴのNBAドラフト・コンバインに呼ばれた選手が4人もいたので、一緒にやったのはかなりレベルの高いグループだったと思います。

――その中でも手応えのあるプレイはできたんでしょうか?

けっこう僕が目立てたんじゃないかなと。ディフェンスは1on1、3on3の両方で良いところが見せられました。オフェンスでもオープンで打ったシュートをしっかり決めて、ドライブもできました。ただ、最後のシューティングドリルだけはひどかったんですけどね。ムービングからのシュートはいつも練習していたんですけど、今日は本当に全然入らなかった。それを除けばかなり良かったと思います。

――カレッジのシーズン後半からジャンパーの調子は良かっただけに、それは残念でしたね。

ノーマークからのシュートなので、さすがにもっと決めないと。あれでは全然ダメですね。

――ワークアウトの前に“ここを見せたい”と思っていた部分は?

まずはディフェンス面ではしっかりアピールし、シュート力も見せておきたいと思ってました。シューティングはひどかったのであまり言えないですが、1on1や3on3のときは難しいシュートも高確率で決めていたので、そっちだけを見ると実戦の中での成功率は高かったはずです。

「1対1のときは1本も決められていません」

――渡邊選手はもともとチーム重視の献身的なタイプ。とにかく目立たなければいけないこういったワークアウトは実は得意ではないのかなと思っていました。

もう本当に全員がNBAという目標に向かってバリバリやってくる。このワークアウトに関しては、“チームのために”と思いながらというのは一切なかったです。自分がアピールしていく中で、例えば3on3のときにボールのないところでチームメイトを生かす動きとか、そういうのはやったりはしました。ただ、“彼らにも良いプレイをして欲しい”とか考える余裕はなく、自分のことが精一杯という感じでした。

※この日参加したメンバー
SG グレイソン・アレン(デューク)
SG デアンソニー・メルトン(USC)
SF ジェフェリー・キャロル(オクラホマ州立)
SF 渡邊雄太(ジョージ・ワシントン大)
PF チメージー・メツ(USC)
C ヤンテ・マーティン(ジョージア)

――参加者のリストを見ると本当にハイレベルなメンバーですが、ドラフト上位指名候補のグレイソン・アレンもいたんですね。

はい、アレンはワークアウトの後に話しかけてきてくれたり、良いやつでした。3on3はずっと同じチームでやったんですが、彼のシュート力は凄かった。アレンはシュートはかなり入れていたんですけど、僕も負けじとシュートは決めました。

――アレン、メルトン、マーティン、メツという4人はシカゴのNBAドラフト・コンバインにも呼ばれた選手たちです。この中で目立てたというのは大きいですね。ディフェンスもそういったメンバーの中でも通用するという自信がついたのでは?

1対1のときは1本も決められていません。ディフェンスが止めたらオフェンスにまわり、オフェンスは決め続ける限りはずっとオフェンスできるというルールでした。僕がディフェンスしたときは常に勝ってオフェンスにまわることができていたので、ディフェンスは全部止められていたはずです。

――シュート以外に課題だなと思った部分は?

(ネッツ首脳陣との)最後の面接のときに言われたのが、「もっと力をつけないと」ということでした。いわゆる“Strength”ですね。それはずっと僕の課題で、これまでずっとやってきましたし、たぶん今後どのレベルでプレイするにしても永遠に課題でしょう。引き続きやっていくしかないなという感じです。

「ここまで来ると自分一人の戦い」

――こうしてNBAの入口につながる扉の前に立ったわけですが、特別な緊張はなかったですか?

自分でもびっくりしたんですけど、昨日の夜は全然寝れなかったんです。寝つきは良かったんですが、3時くらいにぱっと目が覚めて、あと3時間半後くらいに起きなきゃいけないんだって寝ようとしたら、それ以降は全然寝れなくて。心臓も急にばくばくしてきて、それは今まであまりなかったことでした。初めてのワークアウトだったので、緊張はするだろうなと思っていたんですけど、夜中の意味のわからない緊張感はびっくりしましたね。

――これまで日米両方で様々な大舞台に立ってきましたが、それでもやはりNBAの第一歩というのが大きかったんでしょうか。

ここまで来ると自分一人の戦いです。カレッジでもNITトーナメント決勝やA10トーナメントといった舞台は踏んできましたが、これまでは常にコーチやチームメイトがいてくれた。自分が信頼できる人たちが周りにいてくれたおかげで緊張はそんなでもなかったんですが、今回は自分がダメなプレイをしたらそこで終わり。周囲に支えてくれる人がいない中でのプレイということで、自分の中でも思うところがあったのかなと思います。

――現在助けてくれる人となると代理人になりますが、多くのエージェンシーから声がかかった中で、最終的にワッサーマンを選んだ理由は?

ワッサーマンが開催するプロ・デーにすごく魅力を感じました。エージェントを決めるときに、当時の足首の状況ではPITにはまず出られないと思ったんです。だとすれば、自分がNBAのスカウトやGMの前でプレイする機会が限られてくる中で、プロ・デーはそのチャンスを与えてくれるので。NBAに行けなかったときに言い訳だけはしたくない。ダメだったときにはそれが自分の実力だったと言い切りたい。ポーツマスに出られていればとか、もっと機会があればとか、そういう後悔はしたくない。自分のことを評価してもらって、ダメだったら実力がなかったというだけのこと。その機会という意味で、プロ・デーは良いなと思いました。あと、代理人になった人に会ったときの印象も良かったですね。この人なら任せて大丈夫だと思えたので、彼を選びました。

――ネッツのワークアウトに話は戻りますが、場所はチームの練習施設で行なわれたんですよね。ワークアウトを見ていた人の中で知っている顔はいましたか?

ヘッドコーチはいなかったと思うんですけど、ショーン・マークスGM、アシスタントGM、アシスタントコーチは出席していました。ショーン・マークスGMとは最後に少し話す機会があって、「すごく良かった」と言ってもらえました。良い印象は残せたかなと思います。あと、施設内でジェレミー・リンとも話せました。デマーレイ・キャロルは「今日はアジアン・デーか」なんて言ってましたね(笑)

「この1か月が本当に勝負」

――今後、こうしてワークアウトをこなしていって、ドラフトの日はどこで過ごすつもりですか?

たぶんアメリカにいるでしょうけど、現状、僕がドラフトにかかる確率っていうのはほぼないと思います。そこに関してはそれほど気にはしていません。

――ドラフトにはかからないと考える理由は?

シカゴのコンバインには呼ばれていないし、ポーツマスでもプレイできていないとなると、なかなか僕のプレイを見てもらうチャンスがなかったですからね。今日のネッツのワークアウトが初めてでした。ウィザーズのワークアウト、今後のプロ・デー、イタリアでのコンバインでの活躍次第では、可能性も見えてくるんではないかと思いますけど、現状では(ドラフト指名は)ないかなという感じです。

――それについては想定内という感じですか?

(ジョージ・ワシントン大の先輩の)パトリシオ(ガリーノ)にしても、タイラー(キャバナー)にしても、ドラフト外からサマーリーグで活躍して、まずGリーグに行って、そしてNBAと契約という流れでした。僕もたぶん同じような道を辿るというか、状況的には僕も彼らと似たような状況にいると思います。だから、ドラフトにかからなかったとして落ち込むことは一切ないです。良い道標がいてくれるので、どんな状況にも対応できます。

――ドラフト外のシナリオを想定すると、サマーリーグで力を出して、NBAに飛び込むというのが理想の展開でしょうか?

トレーニングキャンプに呼んでもらって、最終ロスターに残るっていうのが当面の目標です。それがダメだった場合、タイラーが受け取った2ウェイ契約(※注2)といったチャンスを探っていきます。それも叶わなかったときには、別の方法を見つけていく形ですね。

※注2:2ウェイ契約(Two-Way Contrat)は2017-18シーズンからNBAで採用された新制度。基本はNBAチーム傘下のGリーグチームでプレイするが、1シーズンに45日間だけNBAでのロスター登録が許される。各チームは2人と2ウェイ契約を結ぶことできる。これによってロスターに登録できる選手数は15人から17人になった。

――Gリーグ以外に海外でプレイする選択肢はやはり頭に入れてますか?

NBAがダメだった場合にはGリーグ、もしくはヨーロッパでできたら良いなと思っているんですけど、そのあたりはこれから考えていきます。今はまずNBAを目指してやっていきます。時間が迫ってきたときには考えなければいけないと思っています。

――現時点で、何らかの方法でNBAに辿り着けるという手応えは感じていますか?

手応えというか、可能性はあるとは思っています。5月末から6月のドラフトまでのワークアウトが本当に大事な時期になってくる。この1か月が本当に勝負。そこでわかるという感じですかね。

文:杉浦大介  Twitter: @daisukesugiura
カバーフォト: ワシントン・ウィザーズ

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著者
杉浦大介 Daisuke Sugiura Photo

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。