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[宮地陽子コラム第96回]FIBAワールドカップと東京オリンピックを目指す新生アメリカ代表、選手選考と予選の戦い方

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Gregg Popovich Demar Derozan USA National Team

デュラントやハーデンも合宿に参加

7月25~27日に、ネバダ州ラスベガスでアメリカ代表候補のミニキャンプが行なわれた。参加したのは、ケビン・デュラントやジェームズ・ハーデンなど豪華なNBAオールスター選手たち。4月に選ばれていた35人の候補選手の中から、故障や私用で欠場した選手たちもいたが、20人前後のNBAのトッププレイヤーたちが集まり、汗を流した。

この代表メンバーで出場する大会はまだ1年以上先の、来年8~9月のFIBAワールドカップだ。そのため、今回は新代表ヘッドコーチとなったグレッグ・ポポビッチと選手たちの顔合わせが一番の目的だった。

「戦術ではなく、人間関係。選手やコーチの間に仲間意識と関係を築くことが今回の目的だ。新しく代表に加わった選手たちには、国のためにプレイするということがどれだけ特別で名誉なことなのかということも理解してもらった」とポポビッチHCも言う。

ポポビッチHCによると、レブロン・ジェームズやステフィン・カリーら今回のキャンプに出席しなかった選手たちも選考面でマイナスになることはなく、2019年のFIBAワールドカップ、2020年東京オリンピックの代表チームは現在候補の35選手を中心に組まれる見込みだ。

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予選と本戦は別チームで戦うことに

もっとも、この10年間、オリンピックやFIBAワールドカップで毎回優勝しているアメリカ代表も、まだ両大会の出場権を得ているわけではない。他国と同じように、FIBAワールドカップ・アメリカ予選を勝ち抜かないといけないのだ。

「私たちが2019年の中国でのワールドカップに出るためには、出場権を取らなくてはいけない。その点ではジェフ・バンガンディがすばらしい仕事をしてくれていて、出場権を勝ち取るように予選を戦ってくれている」。

ポポビッチHCがそう言うように、アメリカ予選を戦っているのは、今回ミニキャンプを組んだのとはまた別のチームだ。ニューヨーク・ニックスやヒューストン・ロケッツでヘッドコーチ経験があり、現在は解説者として活躍しているジェフ・バンガンディがヘッドコーチを務め、主にGリーグの選手からなる代表チームを率いて戦っている。

予選の試合のうち大半がNBAのシーズン中に行なわれるために考えられたやり方だ。2人のヘッドコーチ、バンガンディとポポビッチの間では密にコミュニケーションは取られていて、予選を戦うチームに参加していた選手のうち3人が今回のミニキャンプにも参加していたとはいえ、基本的には予選と本大会はまったく別チームで挑むわけだ。

ニューヨーク・タイムズ紙のNBAライターで、アメリカ代表の事情にも詳しいマーク・ステインは言う。

「FIBAがこういう予選のやり方を選んだ理由は理解している。多くの国にとっては、予選の試合をシーズン中に行なうことはいいことだからね。マヌ・ジノビリ(アルゼンチン)と話したときに、本番の、何かがかかった試合をホームで戦ったことがないと言われて驚いた。そういう点からはすばらしいことだ」。

「ただ問題は、バスケットボールはサッカーではなく、NBAはサッカーのようにインターナショナル・ブレーク(国際試合のための休暇期間)を設けることは絶対にないということだ。NBA選手は6月と9月のウィンドウ以外の予選を戦うことは決してないだろう」。

「そのなかで、アメリカは最善のやり方をとった。Gリーグの選手たちを、いいコーチが率いること。実際、これで出場権は取れるはずだとは思うけれど、かといって絶対確実というわけでもない。ただ、他の選択肢があるのかどうかもわからない」。

Basketball USA National team
ミニキャンプにはラッセル・ウェストブルックやポール・ジョージら多くのNBAトッププレイヤーが参加 Photo by Getty Images Sport


9月のW杯予選はGリーグ選手中心のチームに?

NBAシーズン後の6月に行なわれた予選試合でも、アメリカ代表はNBA選手を起用しなかった。厳密にいえば、1人だけロサンゼルス・レイカーズと2ウェイ契約中のアレックス・カルーソはいたが、それ以外の11選手はGリーグ所属の選手だった。そしてメキシコシティで行なわれたメキシコ戦に敗れ、アメリカ地区1次予選最初の黒星を喫している。

NBAトレーニングキャンプ直前に行なわれる9月の予選も、同じようなチームになりそうだ。これは、USAバスケットボール(アメリカ協会)とNBAのオーナーたちとの間の約束によるものなのだと、アメリカ代表総責任者のジェリー・コランジェロは言う。

「リーグ(NBA)オーナーたちと私たちの間で、(予選では)NBA選手たちを使わないという共通認識があります。ただ、他の国は(6月と9月には)NBA選手を使っているわけで、私たちもこれで確定というわけではありません。何人かNBA選手が参加するかもしれませんが、トップレベルの選手というよりは、2ウェイプレイヤーなど、参加することでその選手にとってもプラスになるような選手を起用することを考えています」。

「この予選システムは、どの国にとってもプレッシャーとなっていますが、私たちの場合、苦労したのは、(国際試合で)競うだけの経験がある選手を見つけることでした。それでも配られたカードで戦うほかなく、新しいルールになった今、私たちはこのやり方で戦わなくてはいけません。予選が行なわれているウィンドウの時期に試合に出られる選手を見つけることは大きなチャレンジですが、できる限りのことをしているところです」。

「ここまでは(5勝1敗で)まぁまぁの状況というところです。でも、まだ(ワールドカップの)出場権を獲得するためには、(2次予選6試合のうち)あと3~4試合は勝たなくてはいけないと思っています」。

世界でもとびぬけた人気と実力の持ち主であるアメリカ代表が、万が一にでも、ワールドカップやオリンピックに出場できないということになったら、大会の価値が下がるほどの痛手であることは間違いない。FIBAとしては、選手層が厚いアメリカなら予選落ちすることはないという賭けに出ているのだろうが、その運命を握っているのは今回ラスベガスに集まったようなNBAのスーパースターたちではなく、ほとんどの人が名前も知らないGリーグの選手なのだ。かなり、危険な賭けにも思える。

コランジェロに、アメリカとして2020年以降に予選の戦い方を変えるつもりはないのかと尋ねると、変えることを検討するべきなのはアメリカではなくFIBAのほうだと強調した。

「FIBAは新システムのプラスとマイナスを検討し、どこかの時点でそれをすべて検討し、それがいいシステムなのか、修正や変化が必要なのかを判断する必要があると思います。もっとも、その決断がされるのは少し先のことになるだろうと思っていますが」。

文:宮地陽子  Twitter: @yokomiyaji

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著者
宮地陽子 Yoko Miyaji Photo

スポーツライター/バスケットボールライター