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[宮地陽子コラム第85回]ジャマール・クロフォードがシアトルの先輩から学んだ“メンター”を持つことの重要性

Jamal Crawford Timberwolves

突然のトレード

ジャマール・クロフォードが、ロサンゼルスに戻ってきた。5シーズン在籍したロサンゼルス・クリッパーズは、ことあるごとに「このチームで引退まで過ごしたい」と言っていた思い入れのあるチームだ。思いに反して、突然トレードで出されてちょうど5か月後の12月6日、ミネソタ・ティンバーウルブズのユニフォームを着て、ステイプルズ・センターのコートに立ったのだ。

5か月たっても、まだトレードを告げられたときの失望は忘れられなかった。

「この世界はビジネスだから、そういったこと(トレード)が起こるのはわかっている。でも好きになることで傷つきやすくなってしまうんだ。僕はこの街とファンを大好きになっていた。すべてを捧げたつもりだったから、トレードの衝撃でそれだけ傷ついてしまった」と、クロフォードは言う。

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トレードに失望したのはクロフォードだけではなかった。チームに残った元同僚たちも、寂しい思いは同じだった。

クリッパーズのヘッドコーチ、ドック・リバースは、クロフォードの場合は、単にコート上の戦力だけでなく、ロッカールームでのベテランのメンター(指導者、助言者)として、いなくなった穴を感じると言う。

「彼はクリッパーズのフランチャイズだけでなく、チームメイトたちに対しても多くの助けとなってきた。バスケットボールが大好きで、バスケットボールについて話すのが大好きな選手なんだ。個々の選手にとって大事な存在だった。オースティン(リバース)にとっては特に、とても大事な存在だった。彼(クロフォード)はバスケットボールについて知識が深く、とてもいい先生だった」。

Jamal Crawford Austin Rivers
試合前に一緒にウォームアップをするクロフォードとリバース

リバースの息子で、クリッパーズ所属のオースティン・リバースは、クロフォードを「これまでにチームメイトだった選手の中でも最高のチームメイトだった」と言う。

「一人の若者としても選手としても、彼の存在はとても大きかった」。

オースティンの言葉を聞かされると、クロフォードも感慨深そうに言った。

「彼(オースティン)にいい影響を与えることができたことを願っている。どの若手選手に関してもそう思っているけれど、彼については特にそう思う。僕らのロッカーは(クリッパーズ時代)隣同士だったんだ。(オースティンが)ニューオーリンズにいたときの状況や、クリッパーズに来て、ものすごく努力し、選手として成長して開花するのをずっと見てきた。コート外でも成長するのを見てきた。そういったことは、いつでも楽しいことだし、僕にとってもとても価値を感じることなんだ」。

 

シアトルの後輩から慕われるクロフォード

NBAの中には、オースティン以外にも、クロフォードをメンターと慕う若手選手は多い。なかでも、アイザイア・トーマス(クリーブランド・キャバリアーズ)、ザック・ラビーン(シカゴ・ブルズ)、デジャンテ・マレー(サンアントニオ・スパーズ)など、同じシアトル近郊出身の若手選手たちとの結びつきは強い。

みんな、クロフォードをメンターとして頼り、信頼している。面倒見がよく、夏になるとシアトルでプロアマ大会を開催しているクロフォードは、彼らが高校生の頃から気にかけて面倒を見てきただけに、家族のような存在なのだ。

Jamal Crawford Isaiah Thomas
アイザイア・トーマスら同郷の後輩のメンターになっている

たとえば、クロフォードが卒業したのと同じレイニアビーチ高校に通っていたマレーは、ギャングの多い地域で、自分自身も問題児だったことがあったと認めたうえで、そんな彼に、高校時代、毎日のように連絡してきて、励ましの言葉をかけてくれたのがクロフォードだった言う。

「彼は昔の僕を見ているようだったんだ」とクロフォードは1年前、『ESPN』の記者に語っている。

そんなクロフォードにも、若いときには年上のメンターがいた。なかでも、クロフォードに特に大きな影響を与えたのが、シアトルとも縁があるゲイリー・ペイトンとダグ・クリスティの2人だった。

クロフォードが子供のころに当時シアトルを拠点としていたNBAチーム、スーパーソニックス(現オクラホマシティ・サンダー)のスター選手だったペイトンと、同じ高校出身のクリスティ。クロフォードが現在開催している夏のプロアマ・トーナメントも、元はダグ・クリスティが開催していた大会を引き継いだものだった。

「ゲイリー・ペイトンとダグ・クリスティの2人は僕にとって大事なメンターだったんだ」と、クロフォードは振り返る。

Jamal Crawford Doug Christie

Jamal Crawford Gary Payton
ダグ・クリスティ(写真上)、ゲイリー・ペイトン(写真下)らシアトルの先輩から学んだ伝統を次世代にも伝えている

 

メンターを持つことの重要性

クロフォードがペイトンやクリスティから学んだことで一番大事なことは何だったのだろうか。そう聞くと、クロフォードは躊躇することなく「メンターを持つことの重要性だ」と即答した。

「彼らは、僕が考えていたことをすべて実現させる手助けをしてくれた。『君ならできる』と励ましてくれ、正しい方向に向けて背中を押してくれ、そこに到達するのにどうしたらいいのかを見せてくれた。それは僕にとってとても恵まれたことだった。彼らがいてくれたから、メンターの重要性がわかり、僕も次の世代の選手たちにとって同じような存在であろうと思ったんだ」。

クロフォードから多くを学んだ若手選手たちも、若い頃のクロフォードと同じように励まされ、メンターの重要性を感じ、自分たちも次の世代に知識や思いをつないでいこうとすることだろう。シアトルからNBAチームが消えて久しいが、たとえチームがなくても、確実にバスケットボールの伝統は引き継がれている。

文:宮地陽子  Twitter: @yokomiyaji

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