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[宮地陽子コラム第81回]ザック・コリンズ――ゴンザガ大学1年でNBA入りも「簡単な決断ではなかった」

Zach Collins Blazers

昨シーズン、ゴンザガ大学で八村塁と同じ1年生チームメイトだったザック・コリンズ(現ポートランド・トレイルブレイザーズ)にとって、今年4月1日、NCAAファイナル4のサウスカロライナ大戦は、大学1年間で最も大きな試合となった。運命を変えたと言うと大げさだが、少なくとも、時間を早回しすることになった試合だった。

コリンズは、高校時代にはマクドナルド・オールアメリカンに選ばれたほどの有望選手。ゴンザガ大でも、7フィート(213cm)の長身でオールラウンドの能力を持つ選手として注目されており、毎試合のようにNBAスカウトが試合を見に来ていた。

それでも、NBAに入るのはもう少し後だろうと思われていた。何しろコリンズは、ゴンザガ大での1シーズンで一度もスターターとして出場したことがなく、平均出場時間わずか17.3分、平均10点の控えセンターだったのだ。

コリンズ自身も、当初は1年でプロに転向するとは思ってもいなかったという。

「ゴンザガに行ったときには、ワン&ダン(大学1年終了時にプロ入り)とは思ってもいなかった。シーズン終盤、特にファイナル4が大きかった。NCAAトーナメントではいいプレイができていたし、ファイナル4の試合(準決勝)ではシーズン最高の試合を戦うことができた。それを多くの人に見てもらえたわけだからね」。

Zach Collins Rui Hachimura
コリンズと八村はゴンザガ大の同級生。1年目の昨季はNCAAトーナメント決勝まで勝ち進んだ

全米が注目するファイナル4の舞台、サウスカロライナ大戦で、コリンズは23分出場し、14点、13リバウンド、そして6ブロックをあげた。スターティング・センターのプリゼミック・カナウスキーとのツインタワー起用だった時間帯もあり、3ポイントショットを決めるなど、“ストレッチ4”(外角ショットも打てるパワーフォワード)としてプレイできる器用さがあるところも見せた。

「プロ入りするかどうかは、シーズン後に、自分がドラフトのどのあたりで指名されそうかというのを見て考えた。僕の夢はNBAに行くことだったから、この機会を生かしてプロになることを決めたんだ」。

もっとも、単にドラフト予想サイトでの順位が高かったという理由だけでプロ転向を決めたわけではないという。

「家族といっしょに、いろいろなことを調べた。ドラフト予想だけでなく、これまでにワン&ダンでプロ転向した選手たちがどんなキャリアを送ったのかとか、さらには彼らがバスケットボールを引退した後にどういう人生を送ったのかとか、そういったことをすべて調べて、多くのことを考慮した。簡単な決断ではなかった」。

それだけ多くの角度から調べ、検討した上で、最後に大事にしたのは、その決断に自分が満足できるかというものだったという。

「どんな決断であれ、それに自分が満足できるかどうかということを大事にした。そう思えたし、今でも決断には満足できている」。

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プロ転向を決めた選手にとって、次に待っている大きな決断は代理人選択だ。コリンズは、最終的に雇ったマーク・バートルステインのほか、大手のワッサーマンとBDAとも会い、それぞれじっくり話を聞いてから決めた。

「会ったのはその3つのエージェントだった。何人ものエージェントと話したわけではないけれど、実際に話したエージェントとはいろいろなことを話した。これも難しい決断だった。誰が自分のことを本当に考えてくれて、誰がお金目当てなのかわからないからね。これも、家族に相談して決めることができたのはありがたかった。いろいろと情報を教えてくれ、すべてのことに、両面からの見方を出してくれて、本当に助かった」とコリンズは言う。

ブレイザーズが自分に興味を持っていたことは、ドラフトの前から知ってはいたという。それでも、ドラフトでは何があるかわからない。実際、ブレイザーズが持っていたドラフト指名権は15位と20位。15位ではコリンズを指名することができないと判断したブレイザーズは、事前にサクラメント・キングスと交渉した上で、この2つのドラフト権で指名したジャスティン・ジャクソンとハリー・ジャイルズの交渉権をトレードで出し、キングスが10位で指名したコリンズを獲得した。コリンズが指名について知らされたのは、NBAコミッショナーのアダム・シルバーが壇上でコリンズの名前を呼びあげる1分半ほど前のことだったという。

「ドラフトの日は、とにかく、その経験を楽しむようにしていた。メディアの対応をしたり、他のドラフト指名候補選手たちといっしょに過ごしたりしていた。でも、実際にドラフト指名までのカウントダウンが始まったら、緊張してきた。エージェントといっしょにテーブルに座っていて、彼が、『この人(チーム)が君に興味を持っている』『この人も興味を持ってくれている』と教えてくれていた。指名を知らされたのは、(10位指名で)アダム・シルバーが出てくる1分半ぐらい前だった」。

「名前を呼ばれて、すごく嬉しかった。と同時に、指名されたことで安心した。すばらしい経験だった」。

NCAAトーナメントからプロ転向の決断、そしてドラフトと、嵐のような2か月半を送ったコリンズは、あっという間にNBAでの開幕を迎えようとしている。もっとも、ブレイザーズのニール・オルシェイGMは、コリンズに即戦力としてのプレッシャーをかけるつもりはないと言う。地元メディアのインタビューで、オルシェイはこう語っている。

「彼がこのリーグでとてもいい選手になることは間違いない。そう思ったからドラフト指名順を上げて指名した。いい選手になるかどうかの問題ではなく、それがいつなのかという問題だ」。

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ドラフト1巡目指名の2選手をキングスに譲って獲得したコリンズにオルシェイGMも期待をかけている

オルシェイは、チームにおけるコリンズの立ち位置を、今ではチームの中心選手となったCJ・マッカラムと比べる。コリンズと同じように2013年の1巡目10位で指名されたマッカラムは、1シーズン目は38試合に出場しただけで、2シーズン目もまだベテランの控えに甘んじていたが、3シーズン目にはデイミアン・リラードと共にチームを担う中心戦力となった。

「10位というドラフトロッタリーの順位で指名された選手は、普通は若手中心の再建チームに行くことが多いが、彼は最近4年連続でプレイオフに進出し、さらに先に進もうとしているチームに加わった。だから、出場機会は最初から与えられるわけではなく、彼自身が奪い取らなくてはいけない」。

ゴンザガ大が、シーズン前のファンイベント『クレイジネス・イン・ケネル』でファイナル4出場のバナーを披露したとき、コリンズはその様子を遠征先のロサンゼルスで、インターネットを通して見ていた。

「ファイナル4のバナーは写真を見たけれど、クールだった。ゴンザガは新しい選手たちが入ってきて、今年もいいチームになってきていると聞いている。いつでも強いから、今年も問題ないと思う」。

1年前、大学1年として初めてゴンザガのユニフォームを着たコリンズは、今度はブレイザーズのユニフォームを着てコートに立っている。

「今の僕の目標は、調子の波がないように、毎日しっかりやること。そして、シーズンを通して成長することだ」。

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