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[宮地陽子コラム第78回]渡邊雄太&八村塁――NBAを目標に掲げる日本人選手たちの2016-17シーズン、そして夏の挑戦

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渡邊「悔いが残るシーズン」

渡邊雄太(ジョージワシントン大)は、先日まで行なわれていたNCAAトーナメントはあまり見なかったという。大学に入ったときから目標としてきた舞台だが、今年も手が届かないまま、3年目のシーズンが終わった。

「しかも、最後、僕のミスでA10トーナメント(所属のアトランティック10カンファレンス優勝を決めるトーナメント大会)を終わらせてしまったので、悔しさが残ったシーズンだった」と振り返る。

今シーズンのジョージワシントンはレギュラーシーズンの成績が特別よかったわけではなく、NCAAトーナメントに出場するにはA10トーナメントで優勝するのが最後に残された手段だった。大会準々決勝のリッチモンド戦残り5秒、1点差を追い、シュートを決めれば逆転という場面で、渡邊はドリブルからのジャンプシュートという得意の攻撃パターンに持ち込もうとしたのだが、シュートに行く前にボールを奪われてしまった。相手のファウルにも見えたが、笛は鳴らなかった。

Yuta Watanabe

その悔しさもあって、毎日のようにテレビで流れていたNCAAトーナメントの試合は見たくなかったのだと、本音をのぞかせる。それでも、日本人NCAA選手の仲間、八村塁がいるゴンザガ大の試合は気になって、何試合か見た。自分が3年間かけても出られないでいる場に、控え選手とはいえ、1年目から到達した八村。見ていて複雑な気分にならないのかと思いきや、むしろ、同じ日本人NCAA選手の同志として素直に、すごいことだと喜んだという。

「自分が(ジョージワシントン大)1年のときからずっと目標としてきた舞台に、ああやって日本人が立ってプレイしているのは、やっぱりすごいと思いますし。しかも準優勝なんて、普通できない貴重な経験。塁自身は(もっと試合に)出たかったと思いますし、納得したシーズンではなかったと思うけれど」と、八村の気持ちも推し量る。そのうえで、自分自身が本気で目指してきたからこそ、渡邊にはNCAAトーナメントに出場するというのがどれだけすごいことなのかを、誰よりもわかっている。

「ゴンザガは本当に強かったんで。当たり前のようにトーナメントに出て、当たり前のように勝ち上がっていた。自分たちにできなかった分、外から見ていると、本当にすごいなという一言」と感嘆する。

同志の頑張りは、自分の刺激にもなる。

「来年こそは…。来シーズン、塁は試合に出てくる機会ももっと増えると思うんで。お互いにトーナメントに出て、お互い、刺激しあえればと思っています」。

来年をイメージしていた八村

今シーズンの八村の試合を取材する中で、毎試合、見逃せない場面があった。試合前、スターターが紹介された後にチームでコート中央に集まる場面だ。選手たちが跳びはね、試合に向けての士気を高める中で、八村はいつも、どの選手よりも高く、元気に跳びまわっていた。

八村にその理由を聞くと、こんな答えが返ってきた。

「来年はこの時間帯に試合をやるじゃないですか。その中で、自分の身体に覚えさせるという感じで(跳んでいます)」。

試合の準備をし、毎試合、いつ出てもいいようにメンタル面で準備をしながらも、実際に出る機会は少なかった。しかし、次のシーズンは、この時間にベンチに座るのではなく、コートで走りまわるのだということを忘れないように、試合前に思い切り跳びはねていたのだ。

Rui Hachimura

渡邊も言っていたように、八村は強豪の一員であっても、試合に出られない自分に満足していたわけではない。それでも、1年目のシーズンを登録外で過ごし、勉強にだけ集中するよりは、試合に出なくてもベンチに入りたいと希望し、その決断をしたのも自分自身だった。だからこそ、限られた機会の中で、いかに来シーズンに向けて準備するかが課題だったのだ。

レギュラーシーズン中も、NCAAトーナメントでも、ベンチで試合を見ながら、常に、「来年になって自分が出たら」と想像するようにしていた。

「コーチたちからも、『来年は期待しているぞ』と言われるので、自分が来年プレイしているところを想像しながら、試合を見て、試合の応援をしているっていう感じです。来年のことをイメージしている中で、通用するというところも感じられた」と、自信をのぞかせる。

U-19日本代表へ臨む八村

NCAA1年目からローテーション入りし、3年目の今シーズンは中心選手として活躍する渡邊。強豪ゴンザガで、1年目からNCAAトーナメント出場、全米準優勝というすばらしい経験をした八村。日本を飛び出てアメリカの高い競争の中に飛び込んだ2人は、約半年、密度の高いシーズンを送った。

NCAAの世界で、日本ではできなかったような経験をしているというだけでもすばらしいのだが、忘れてはならないのは、2人とも現状には満足していないということだ。渡邊は大学最後のシーズンでのNCAAトーナメント出場を目指し、八村はローテーション入りしてチームに貢献できるような選手となることを目指している。

5月半ばに春学期が終わった後、八村は日本に帰国してU-19代表強化合宿と海外遠征に参加し、7月にはU-19ワールドカップ(エジプト・カイロ)に出場する予定だ。ゴンザガのコーチたちも、今シーズン、ほとんど試合に出る機会がなかった八村がエースとして日本代表の戦いをすることで、来シーズンに向けて試合勘を取り戻すいい機会だと、後押しをする。

そして、八村自身は、U-19ワールドカップの戦いを来シーズンにむけての準備としてだけでなく、その先の目標への一歩とも考えている。3年前、U-17代表として世界選手権に出場し、アメリカ相手に惨敗しながらも、1人で25点をあげたこと、そして大会得点王となったことで、八村のアメリカへの扉が開いた。今度も、新しい世界への入り口としたいのだという。

「19歳っていうのはNBAのドラフトにかかる年。(大会には)NBAのスカウトもたくさんいると思うんですけれど、そういう中で自分のプレイを出すということが大事。もちろん、チームの勝ちも大事なんですけれど、そういうところでどれだけ見せられるかが大事なんじゃないかなと思います」(八村)

「この夏が一番大事」と語る渡邊

一方、渡邊も、彼なりに、NBAという目標に近づくために何が必要なのかを真剣に考えている。八村のようにアンダー世代で世界大会に出る機会がなかった渡邊は、まだ本格的にはNBAスカウトのレーダーにかかっていない。それだけに、大学でプレイできる最後のシーズンにどれだけ結果を出し、NBAチームに認められるような選手になるかが大事になってくる。そのためには、自分自身がさらに成長する必要があると痛感しているのだという。

「この夏が一番大事。この夏の成長次第で、本当にNBAに行けるかどうかも変わってくると思う」と渡邊は言う。

「(課題は)体重をもっと増やさないといけないということと、得点の取り方。今シーズン中、ディフェンスはある程度コンスタントに相手のエースを抑えられていたんですけれど、オフェンスに関してはいいときと悪いときの波が大きかった。それだと、まだまだNBAは遠い。このオフシーズンに得点の取り方をしっかり身につけて、波がなく得点に絡んでいけるとNBAも見えてくるのかなと思っています」。

NCAAは4月3日にチャンピオンが決まり、NBAより一足早くシーズンが終わった。春学期が終わると、2人にとって、来シーズン、そしてその先の目標に向けて大事な夏がやってくる。

文:宮地陽子  Twitter: @yokomiyaji

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著者
宮地陽子 Yoko Miyaji Photo

スポーツライター/バスケットボールライター