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[宮地陽子コラム第74回]ルーク・ウォルトンが語る“トライアングルオフェンスの真髄”

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Luke Walton

1990年代のシカゴ・ブルズ、2000年代のロサンゼルス・レイカーズで一世を風靡し、合計11回の優勝の原動力となったトライアングルオフェンス。しかし、フィル・ジャクソンがヘッドコーチを引退したことで、システムとしてのオーラが消え、面倒くさい戦術として嫌われるようになり、最近では古臭いオフェンスと批判されることも出てきた。ニューヨーク・ニックスの球団社長に就いたジャクソンがトライアングルオフェンスに固執したコメントをすると、眉をひそめる人たちも増えている。

確かに、ミネソタ・ティンバーウルブズでのカート・ランビス、ニックスでのデレック・フィッシャーなど、ジャクソン以外のコーチが何度かトライアングルオフェンスを導入しようとして失敗に終わっている。いずれのときも、選手の間での抵抗が大きかった。

しかし、トライアングルオフェンスは本当にジャクソン以外のコーチが採用するのは難しいのだろうか? 本当に今の時代に合わなくなってきているのだろうか?

そんなことを考えさせられたのは、12月半ば、ニックスがロサンゼルスでレイカーズと対戦したとき、試合前会見でルーク・ウォルトン(レイカーズのヘッドコーチ)がトライアングルオフェンスについて聞かれ、語ったからだった。

現役時代にジャクソンのもとでトライアングルオフェンスを習得したウォルトンに、ニックス番記者から、ジャクソンが採用していたトライアングルオフェンスと、今のニックスがやろうとしているオフェンスはどれぐらい違うのかという質問が出た。

これに対してウォルトンは「まったく(違う)」ときっぱり断定。その上で、違うと言った理由を、こう説明した。

「ニックスはトライアングルのもの(動き)をやってはいる。確かに、トライアングルオフェンスの形からセットプレイをコールすることはできて、ニックスはそれをやっているように見える。ただ、トライアングルの真髄は(ディフェンスを)読むことだ。最初から何をするか(どういう動きをするか)を決めてやるオフェンスではなく、ディフェンスがやることに反応してやるオフェンスだ。今のニックスはそれをやっているようには見えない。それよりは、特定のアクションをコールして、トライアングルでやるような動きをしている」。

このやり取りを受け、次の日のニューヨークの新聞(ニューヨーク・ポスト紙)にはこんな見出しが出ていた。

【ホーナセックのニックスのオフェンスは、フィルのトライアングルを捨てた:ウォルトン談】

確かに、今、ニックスが用いているオフェンスは本格的なトライアングルオフェンスではない。カーメロ・アンソニーら、中心選手たちの間での抵抗が大きい中で、トライアングルオフェンスを本格的に導入するのは無理がある。

しかし、本当にニックスは「トライアングルオフェンスを捨てた」のだろうか?

むしろ、選手に抵抗が少ない形で、少しずつトライアングルオフェンスの要素を組み入れる努力をしているのではないだろうか?

ウォルトンが語ったような、「トライアングルオフェンスの真髄」を持つようなオフェンスに発展させるためのアプローチのひとつなのではないだろうか?

その答えが出るのは、もう少し先になりそうだが、ひとつ言えるのは、ジャクソンがこだわっているのは、三角とか四角とか、そういった形式的なことではなく、ウォルトンが語った「真髄」の部分だということ。今年2月、フィッシャー解雇の後にジャクソンがツイッターに投稿した文章にもこうあった。

 

 

「グループ全体が含まれるようなシステムであるべきだ。それをどうやって成し遂げるか、そのやり方として△システムがあるが、グループ全体でのプレイを含むような他のシステムを除外するものではない」

一方、先の会見で、別の記者から、「レイカーズのヘッドコーチに就任したときにトライアングルオフェンスを採用しようと思わなかったか」と聞かれて、ウォルトンはこう答えている。

「考えなかった。トライアングルをやるためには、それに向いた選手が必要だ。今、このチームにいる選手たちにとっては最高のシステムではないと判断した。だから、フロアをスペースで広くとり、3ポイントショットを打ち、アップテンポなタイプの、より現代的なゲームをやっている。トライアングルは、このチームの選手には向いているとは思わなかったからね」。

今のレイカーズにとって、トライアングルオフェンスの何が難しいのかと聞かれたウォルトンは、若いレイカーズの面々が、チームディフェンスに苦労している例を挙げ、トライアングルオフェンスも同じことだと説明した。


ジャクソンがレイカーズのHCだったときにウォルトンは選手としてトライアングルオフェンスを体得。2009、10年の2連覇に貢献した

「トライアングルオフェンスにとっては、ディフェンスを読んで動くことが重要だ。一番大きなチャレンジは、導入するのに時間がかかるということだ」。

「(コーチ陣の間で)よく話しているのが、私たちのディフェンスの問題だ。それは、決められたディフェンスのシステムの中で、たとえば相手の攻撃を特定の方向に行かせるように仕向けるといったことをしているときに、すべてのポゼッションで5人全員が同じ考えをもってやらなくてはいけないのに、ポゼッションによって1人か2人の選手がミスを犯してしまってしまうからだ。それによってディフェンスすべてが崩壊してしまい、相手にイージーショットを与えてしまう」。

「トライアングルオフェンスもそういうオフェンスだ、3人が正しいやり方をしていても、1人が何をやっているかわからなくなってしまうと、オフェンス全部が崩壊してしまう。多くの時間と、毎日繰り返し続けることで、本当に理解する必要がある。一度理解すれば、すべてが常識として理解できて、とてもシンプルなのだけれど、そこまで到達するのに時間がかかる」。

ウォルトンの話を聞いて、漠然と、この人は将来的にはトライアングルオフェンスのようなオフェンスを追求していきたいのではないだろうか、と感じた。そのときに、オフェンスを「トライアングル」と呼ぶかどうかは別にして、トライアングルオフェンスで学んだ本質を体現するような、そんなオフェンスだ。そして、今のレイカーズにとっては、ディフェンスのときに一体となって動けるようなチームに成長することが、その目標のための一歩目となると考えているのではないだろうか。

文:宮地陽子  Twitter: @yokomiyaji

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著者
宮地陽子 Yoko Miyaji Photo

スポーツライター/バスケットボールライター