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[宮地陽子コラム第72回]サンズの若き指揮官、アール・ワトソンHCが重視する“心のコネクション”

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フェニックス・サンズのヘッドコーチ、アール・ワトソンは現在37歳、今季のNBAヘッドコーチの中では2番目に若いヘッドコーチだ。彼自身、13シーズンNBAでプレイし、2年前に引退したばかり。直後の2014-15シーズンにサンズのアシスタントコーチとしてコーチのキャリアをスタートさせ、昨シーズン途中にジェフ・ホーナセックが解雇されると暫定ヘッドコーチに抜擢。シーズン後にサンズと3年契約を交わして、正式にヘッドコーチとなった。引退して間もなく、まだ現役でもやっていける年代でのヘッドコーチ就任だ。

若くしてNBAのヘッドコーチとしてチームを率いることについて聞かれたワトソンは、そのメリットについて「選手と同じ音楽を聴くこと。同じ音楽を聞き、同じ音楽をいいと思うことだね」と笑った。もっとも、同じラップ好きでも、好きなラッパーは年代が反映されるようで、よく選手たちと議論しているというが。

また、自分たちより上の、いわゆる“オールドスクール”のコーチたちとの違いについては、「私たちもオールドスクールのやり方をしているけれど、それを、若いボキャブラリーで発信しているんだ」と説明した。


2001~14年にかけて13シーズンをNBAでプレイしたワトソン

そんなワトソンが、コーチングのひとつの手段として取り入れているのがヨガだ。彼自身、現役の最後の頃、尊敬するジェイソン・キッド(現ミルウォーキー・バックスHC)がやっているという記事を読み、「Jキッドがやっているのなら、自分にとってもプラスになるだろう」と考えて始めたのだという。

「最初はホットヨガをやったから、すぐには好きにはなれなかった。ただ、夜、よく眠れるようになったことに気づいて、取りつかれていったんだ。もっと早くからやればよかったと思ったほどだ」とワトソン。

当初は身体へのプラス効果を目的としていたのだが、やってみてわかったのは、身体だけでなく、精神面、スピリチュアルな面での効果だった。

「ヨガに取りつかれていったのも、言ってみれば、スピリチュアルなハイ状態だったんだと思う」。

自分のそんな経験もあったので、昨シーズンの途中でサンズの暫定HCに任命されたとき、すぐにチームとしてのヨガ・セッションを取り入れた。

「負けがこんでいたし、多くの選手が故障から回復、復帰しようとしていたときだった。だから、すぐにチームとしてのコネクションが必要だった」。

今シーズンも週に1回、選手、コーチ、スタッフの全員でヨガをしている。たとえば、先日、ロサンゼルスに遠征したときは、試合の翌日にビーチでのヨガ・セッションを行なった。

「私たちは、ヨガをやり、マインドフルネスや気づき、コネクトすることについて話すのが好きなんだ。それによって、試合の終盤になっても、パニックしなくなる。いろいろな方法でコネクトしているからね」。

コート上でも、その好影響は表れているとワトソンは言う。一番の例として、11月4日(日本時間5日)、オーバータイムの末に1点差で勝利をあげたニューオリンズ・ペリカンズ戦の最後の攻撃をあげた。サイドラインからインバウンドパスを出したPJ・タッカーと、バックドアプレイでダンクを決めたTJ・ウォーレンの連携プレイだ。

「あれは純粋なマインドフルネスそのものだった。コネクションがあった。選手たちがそれを作り出した瞬間だった」。

同じような心のコネクションは、試合の随所で見られるようになったという。

「それは、試合でリードを取られていても、まだ、最終的に勝つチャンスがあるということを理解することでもある。パニックすることもない。スピリチャルなコネクションなんだ。これはヨガをやる人でないと理解できないかもしれない。ひとつの息、ひとつの目的、ひとつの動き。すべてにおいて、それがとても重要だ。タイムアウトの円陣に集まってきたときにも、私はよく『大丈夫だ。息をついて、リラックスするんだ』とだけ言っている」。


37歳と選手たちと年齢が近いワトソンHCは、ヨガを活用して選手たちと同じ目標を共有しようと努めている

シーズン全体にとっても同じこと。若いチームで、主力を故障で欠くことも多く、どれだけ将来性が期待できる選手がいても、どれだけ練習しても、結果となって出ないこともある。現に11月15日(同16日)現在でサンズは3勝8敗と、早くも下位に沈んでいる。

しかし、今のサンズにとっては、一番大事なのは1試合の勝ち負けではない。負けたり、結果が出ないときでも、チームとして諦めず、同じことを信じ、同じ目標に向かって進み、成長する姿勢だ。

「私たちは目的を持って旅をしている。言ってみれば、旅のためのGPSを持っているわけだ。だから、自分たちがどこに向かっているのか、どうやってそこに到達するのかがわかっている。常に目の前の今にだけ集中する。そこにもヨガの要素が入ってくる。大事なのは今の瞬間だけ。自分の人生で変えることができない瞬間が2つある。それは昨日と明日だ。私たちはそれを理解しているから、今の瞬間に全力を注いでいる」。

文:宮地陽子  Twitter: @yokomiyaji

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