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[宮地陽子コラム第70回]新たなロッカールームが体現するクリッパーズの変化

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10月6日、ロサンゼルス・クリッパーズが新ロッカールームをメディアにお披露目した。ふだんはメディア立ち入り禁止の奥のトレーナールームなども見られて、撮ったら怒られる写真も好きなだけ撮れる(試合前後の取材時間中でもNBAロッカールーム内は写真撮影禁止)とあって、この機会を逃す手はないと取材に行ってきた。

新ロッカールームといっても、これまでと同じステイプルズ・センターの中の同じ位置にあり、廊下から見た感じは変化がわからない。しかし、一歩中に足を踏み入れると、まったくの別世界だった。単に絨毯を変え、壁紙を変え、ロッカーを新しくしただけではなく、天井を剥がして高くし、壁も壊して、隣の部屋との調整をしながら、できるだけ広くスペースを確保した上で、内装を全面的に変えるという、かなり気合の入った改装がされていたのだ。

そして、取材をしてみて感じたのは、今回の新ロッカールームからは、ステイプルズ・センターでのクリッパーズの位置と、チームのオーナーがスティーブ・バルマーになった後の変化だった。

ステイプルズ・センターを秋から春にかけて本拠地とするチームは、NBAのレイカーズとクリッパーズ、そしてNHLのキングスの3チームある。その中でクリッパーズの優先順位は3番目、つまり、一番下だ。試合の日程を決めるときの優先順位も最後で、それぞれのチームが専用で持っているロッカールームにしても、他の2チームよりスペースが狭い。

たとえば、同じNBAのレイカーズのロッカールームと比べると、改装前は、トリートメントルームが狭く、レイカーズにはある選手用ラウンジエリアもなかった。何しろ、前オーナーのドナルド・スターリングは余計なところにお金をかけたくない人だったから、リース代が少しでも安くなるのなら、日程の選択権の順位やロッカールームの広さはどうでもよかったのだ。

しかし、現オーナーのバルマーは違う。実際、バルマーは、これまでに何度もステイプルズ・センターでは3番目のテナントであることによる不自由を口にしてきた。経済誌『フォーブス』の「アメリカで最も金持ちのオーナー」リストで3年連続1位(つまり、オーナーになって以来毎年1位)のバルマーは、投資することによって利益を生み出そうとする人だ。そして、その潤沢な資金で次々とクリッパーズを変えていっている。たとえば、今季を前にフロントのスタッフ、コーチ陣、メディカルスタッフを増員し、組織体系を再構築した。

「これまで、どの部署でもスタッフが足りていなかった」と、ドック・リバース(ヘッドコーチ兼バスケットボール運営部代表)は認めている。それを、今回の増員によって変え、個々のスタッフが無理なく、チーム全体にサポートがいきわたる体制を整えたわけだ。

ロッカールームの改装も、チームのために必要だと判断しての投資だった。バルマーは将来的にはロサンゼルスかその近隣に、自分たちで所有するバスケットボール向けの新アリーナを建築することを計画している。自分たちのアリーナなら、スケジュールやスペースが自由になり、マーケティング面でも、ファンサービスでも、選手に必要な施設にしても、すべて最大限に生かすことができると考えてのことだ。ただ、移転するとしてもまだ少し先のこと。ステイプルズ・センターとのリース契約が切れる2024年まではまだ8年ある。

前のロッカールームも平均的なNBAロッカールームで、多少手狭とはいえ、不自由というほどではなかった。スターリングだったら8年のために改装なんて考えられなかっただろうが、バルマーは新ロッカールームに多額の資金を投入した。

改装プロジェクトを率いたのはチームのビジネス部門責任者のギリアン・ザッカー。彼女は、以前のロッカールームに入ったときに、「コンクリートの壁に(チームカラーの)赤、青、白と、少しばかりのグレーが入っていて、まるで高校の体育館のように見えた」と言う。若干おおげさな表現だが、確かにチームカラーがふんだんに使われたロッカールームは落ち着かなかった。新しいロッカールームは、チームカラーはアクセント程度に、引き出しの中や足元のライティングで使われているぐらいで、全体的に高級感があるシックで落ち着く内装となっている。

「ユニフォームにはチームカラーが入っているから、あえて部屋にチームカラーを使う必要がない」というのがザッカーの意見。新ロッカールームについては、「チームが優勝レベルに向けて競う準備をする場にふさわしいプロのロッカールームになった」と満足げに語る。

新ロッカールームのテーマは、リバースHCが頻繁にチームに説いている一体感──「みんながその本領を発揮できない限り、自分もその本領を発揮することができない」という考え方だという。そのため、ロッカーの上には選手の名前は入っていず、背番号で誰のロッカーなのかを区別するようになっている。また、配置にも気を配ったという。

「前のロッカールームは、部屋の真ん中が通り道となって部屋を分断していた。新ロッカールームはUの字のようにロッカーが配置され、一体となった環境を作り出している」(ザッカー)

さらに、トリートメントを受ける部屋も広くなり、選手たちがくつろぐためのラウンジも作られた。

10月5日のプレシーズンゲームで初めて新ロッカーを見た選手たちは、まるでクリスマスの日の朝、ツリーの下にプレゼントを見た子供たちのようにロッカールームを見渡していた。

「ロッカールームが新しくなるというのは、夏の間中聞いていたけれど、ようやく見ることができた。とてもいい」とブレイク・グリフィン。「これは、ミスター・バルマーやチーム全体のあり方──つまり、スティーブ(バルマー)がよく言っているような『ワールドクラスのマインドセット(考え方、信念)を持つ組織』であり続けるということの表れだと思う」。

グリフィンも言うように、これはバルマーのもとでの新クリッパーズを体現したロッカールームだ。たかがロッカールームというなかれ。大きな野望を持ち、そのために必要なことなら何でも実行する。その象徴のような存在なのだから。

文:宮地陽子  Twitter: @yokomiyaji
Photos by Los Angeles Clippers

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[ギャラリー]クリッパーズの新ロッカールーム


著者
宮地陽子 Yoko Miyaji Photo

スポーツライター/バスケットボールライター