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[宮地陽子コラム第69回]元WNBA大神雄子の陰の努力――NBA選手も通う米国の施設で個人トレーニングに励む

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NBAの表舞台ではプレイオフが佳境に入っているが、その裏ではオフシーズンに入っている選手もいる。プレイオフに出られなかったチームや、早いラウンドで敗れたチームの選手たちだ。トレーニングキャンプが始まるまで4か月もあるこの時期、家族や友人と会ったり、海外旅行に出たり、みんなのんびり過ごしていると思いきや、早くも来シーズンに向けての準備を始めている選手たちもいる。

そんな一端を見ることができたのは、先日、大神雄子(現WJBLトヨタ・アンテロープス)のアメリカでのトレーニングを見に行ったときのことだ。

大神はこの10年近く、毎年オフシーズンになるとアメリカで集中トレーニングをしているのだが、今年は初めて、カリフォルニア州のサンタバーバラにあるP3(ピーク・パフォーマンス・プロジェクト)という施設でのトレーニングを試みた。

「P3自体は3年くらい前から名前は聞いたことがあって。ただ、場所もわからないし、日本人でも行ったことがない(ということで試したことがなかった)。その中でベックさん(アンテロープのドン・ベック・ヘッドコーチ)が『今のシン(大神のニックネーム)のトレーニングにはあうかも』と勧めてくれた。4月に一度下見に来てみて、やっぱり1回体験してみたいと思って来ました」。

P3は、プロ選手向けに最新テクノロジーを駆使した分析を用いたトレーニングを売りにしている施設で、数年前からNBA関係者の間で注目を集めている。NBA選手の顧客も多く、ユタ・ジャズのようにチームとして契約しているところもあるほか、ドラフト候補選手が集まるドラフトコンバインにもP3の機器を持ち込んで選手たちの計測を行なっている。

5月下旬に見学したときには、大神とともにアーロン・ゴードン(オーランド・マジック)、クリス・ミドルトン(ミルウォーキー・バックス)、ティボー・プライス(ジャズ)がトレーニングしていた。大神がトレーニングしていた2週間の間で、別の日には、ジョアキム・ノア(シカゴ・ブルズ)やゴードン・ヘイワード(ジャズ)もいたという。

約2時間のトレーニング自体は個別に、それぞれの選手向けのメニューで行なわれるのだが、ウォームアップは全員でやるほか、施設がこじんまりとしているので、NBA選手の隣でトレーニングしているという感覚だ。それがモチベーションになると大神は言う。

「(アーロン)ゴードンとか、マジックのユニフォームを着ていると本当にすごく見えるんですけれど、実際は細くてびっくり。本当にいい身体しています。ヘイワードもすごくいい身体しています」と大神。中でもジャズのドイツ人若手選手、プライスとは意気投合し、言葉をかけあって、挨拶するようになったという。

P3でのトレーニングでは、最初に身体の動きを撮影してデータとして取り込み、そこから個々の選手の動きの特徴を分析。長所のほか、弱いところも見つけて、その弱いところを伸ばすトレーニングを集中して行なう。また、故障につながるような動きを事前に予測すると、身体の使い方を変えることもあるという。
 


以前から自分で身体のことをよく研究していた大神は、ワークアウトなどに対する知識欲が強いこともあり、P3で指摘された修正点の中に意外なことはなかったという。それでも、映像分析した上で指摘されることによって再確認できたこと、納得できたことが多かったという。

「(弱いところに)全然気づいていなかったわけじゃないんですけれど、よりはっきりと、『あ、やっぱそうなんですよね』と思えた。やっぱり弱いところって、目をそむけたくなるものだと思うんですよね。自分のウィークポイントだっていうことに気づくか気づかないかは本人次第ですけれど、そのことを明確に言われたときに、ウィークポイントと捉えるか、逆に伸ばせるところだと思えるか。それは捉え方次第だと思います」。

また、とにかく身体全体を大きく、強くするというだけでなく、弱いところを伸ばすことで全体の効率をよくするという考え方に触れたことで、身体づくりの考え方にも新たな視点を得ることができたという。

「(P3は)ウェイトをして身体づくりといっても、全身をやるのではなく、自分がもう1回伸ばせるところを追求していくやり方。そのほうが、最終的に、総合的に100になるというコンセプトなのかなと思います」(大神)

大神にとってもNBA選手たちにとっても、オフシーズンの個人トレーニングは欠かせない自己投資だ。実際、ロサンゼルスから150kmも離れたサンタバーバラにこもって過ごす期間だけでなく、それにかかる料金も決して安いものではない。それでも、夏の間に、どれだけ身体を作り、伸ばすことができるかが、次のシーズンの成否を決めるといっても過言ではない。そう信じるからこそ、選手たちはこの小さな街に集まってくる。

全世界から注目されるNBAプレイオフの華やかで、熱い世界の裏では、カメラも観客もいない中で、次のシーズンに向けて努力している選手たちがいる。その事実を目の前にすると、プレイオフでの個々の選手のパフォーマンスも優勝も、さらに価値があるものに思えるのだった。

文:宮地陽子  Twitter: @yokomiyaji

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NBA日本公式サイト『NBA Japan』編集スタッフ