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[宮地陽子コラム第68回]セミファイナル敗退後に見えた“スパーズらしさ”

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リーグ史上最高の73勝をあげたゴールデンステイト・ウォリアーズを倒す可能性がある数少ないチームのひとつと言われていたサンアントニオ・スパーズのシーズンが、予想外に早く、カンファレンス準決勝で終焉を迎えた。そのスパーズのボリス・ディーアウがシーズン敗退の3日後、自身のインスタグラムに投稿した1枚の写真に、スパーズファンを公言するESPNの辛口コメンテイター、スキップ・ベイレスが噛みついた。

問題の写真は、スパーズ選手とチームスタッフと思われる18人が、それぞれ思い思いのコスチュームに身を包んだ仮装集合写真だ。写真に添えられた文には「この歴史的なシーズンを、今もまだチームのみんなと祝っている」と書かれていた。

 

Still celebrating an historical season with the team. It was a great ride!!! #sundayfunday #madmonday

Borisdiawさん(@diawboris)が投稿した写真 -


ベイレスの言い分はこうだ。

「期待外れの結末に、ファンの自分でさえまだ落ち込んでいるというのに、コスチュームパーティーを楽しみ、その写真をインスタグラムで公開するなんて信じられない」。

憤懣やる方ないベイレスは、最後にはこうまで言った。

「このコスチュームパーティーがすべて表しているのかもしれない。彼らはここまでたどり着いただけで満足してしまっているのかもしれない」。

この言葉は言いすぎにしても、この写真やパーティーがスパーズを表しているという見方は、一面の真理を表しているように思う。

その話を進める前に、ひとつ情報を加えておくと、ディーアウだけでなく、パティ・ミルズも同じ集合写真をインスタグラムに投稿しているのだが、2人とも投稿した写真に Mad Monday という言葉やハッシュタグをつけていた。"マッド・マンデー"とは、オーストラリアのサッカーチームなどの間で以前から行なわれている慣習で、シーズン終了が決まった後にチームみんなで集い、シーズンの健闘を祝うパーティーなのだという。

どうやら、オーストラリア人のミルズがこの慣習をスパーズに持ち込んだらしい。そういえば、1年前にプレイオフ1回戦でクリッパーズに敗れた後にも、数日後にチームで集ってペイントボールに興じたようで、その集合写真が出回っていた。

シーズン終了後にチームでイベントやパーティーをしたからといって、選手たちが本気で勝ちたいと思っていなかったわけでも、負けたことを悔しいと感じていなかったわけでもない。スパーズの選手たちも、志半ばで負けたことは悔しかったことは間違いない。それでも、このパーティーがスパーズらしさを表していると感じたのは、最善を尽くし、その結果を受け入れるというのは、スパーズのカルチャーのひとつであると思うからだ。

試合の勝ち負けは運に左右されることもある。プレイオフで敗れたからといって、シーズンが全て失敗だったわけでもなく、それぞれの日常生活やキャリアは続いていく。そうやって割り切り、受け入れることは、勝負の世界にいる人たちなら誰でも必要なことだが、スパーズのように、長い間、同じコーチ、同じ中心選手たちで継続しているチームにとっては特にそうなのだ。「努力し続ける」というメンタリティと合わせて、「現実を受け入れる」というメンタリティもないと、ここまで継続することはできない。グレッグ・ポポビッチが試合に負けるたびに眠れない夜を過ごすコーチだったら、20年も同じチームのヘッドコーチを続けることはできなかったはずだ。

一方で、ベイレスのようなファンがフラストレーションを感じるのも、チームの現状を考えると理解できる。長年スパーズの大黒柱だったティム・ダンカンもすでに40歳。今年のプレイオフでは年齢による衰えも隠せず、この夏に引退しても不思議ない。もし現役を継続したとしても、来季は精神的な支えとしてならともかく、コート上の戦力としてはあまり期待できそうにない。マヌ・ジノビリも同様だ。時代の終わりがきていることは、ファンなら、なおさら感じているはずだ。


5月12日、敵地での対サンダー第6戦に敗れ、スパーズの今季は終わった。引退の噂も囁かれるティム・ダンカンの去就はまだ見えていない

ダンカンやジノビリらが抜けたら、ポポビッチがヘッドコーチを続けたとしても、チームとしては今まで通りというわけにもいかない。実際、カンファレンス準決勝で、若いサンダーに完敗したという事実は、スパーズでさえ時代の流れには逆らえないのだという事実を露呈した形となった。攻守に秀でた若手、カワイ・レナードをうまく育て、彼の相棒となるラマーカス・オルドリッジをフリーエージェントで獲得。世代交代に成功したチームの代表として語られるスパーズだが、たとえ世代交代が成功しても、これまでと同じチームが継続するということではない。

スパーズがどのチームよりも優れていること、そして、おそらく何よりも優先していることは、短期の勝負をかけて優勝を狙うことではなく、プレイオフに出続ける力を持ち続けることだ。そのために優勝の可能性が、たとえば10%くらい下がったとしても。今季のチームにしても、レギュラーシーズンの好成績に隠れて見えていなかったが、世代交代を優先したことでチームの継続性が犠牲になった。

勝負の世界は、どうしても運に左右される。それでも、いや、それだからこそ、プレイオフに出続ければ、いつか優勝のチャンスが巡ってくるかもしれない。実際に、そうやって、スパーズはこの19シーズン、毎年プレイオフに出て、中心選手が代わり、チームの姿を変えながら5回の優勝を成し遂げてきた。

マッド・マンデーの写真で、それぞれ仮装した姿の中にいるのが誰なのかわからなかったように、来シーズンのスパーズの姿もまだ見えてこない。どんな形になったとしても、どこかにスパーズらしさは残るはずだが、その「スパーズらしさ」が何なのかも今はぼんやりとしか見えていない。

文:宮地陽子  Twitter: @yokomiyaji

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NBA日本公式サイト『NBA Japan』編集スタッフ