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[宮地陽子コラム第67回]ジャマール・クロフォードが語るシックスマンの真髄

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「これは、本来はあらかじめ承認を得るべきことで、あとから罰金を科されるかもしれないですけれど、私がKIAを代表してシックスマン賞を『ジャマール・クロフォード賞』と変えたいと思います」。

先日、シックスマン賞受賞会見に先立ち、賞のスポンサーになっているKIAの担当者がこう言って会場を沸かせた。真に受けてしまったリポーターもいたが、もちろん、場を盛り上げるための冗談だ。

とはいえ、クロフォードが引退した後にこのジョークが現実になるときが来ても不思議ない。何しろ、クロフォードは今回の受賞で、NBA史上で初めてシックスマン賞を3回受賞した選手となったのだ(2010、2014、2016年に受賞)。歴代のシックスマンの代表といっても、決して言いすぎではない。

どんな役割でも受け入れ、適応するというメンタリティ

そんなクロフォードも、かつて、自分をスターター以外に考えられない頃があった。実際、NBAで実績を積んだ4シーズン目から9シーズン目までは、433試合中348試合でスターターを務めている。

それが変わったのは、10シーズン目を前に、アトランタ・ホークスにトレードになったときだった。当時ホークスのヘッドコーチだったマイク・ウッドソン(現クリッパーズのアシスタントコーチ)から、「うちには核となるスターターがすでにいるけれど、君の仕事は同じぐらい重要だから」と説かれ、シックスマンの役割を与えられた。「勝てない弱いチームで20点あげる選手になりたくなかった。勝ちたかった」というクロフォードは、その役割を受け入れ、実際にやってみてシックスマンの重要性も理解するようになった。自ら得点チャンスを作り出すことができ、短時間に連続で得点を重ねられるクロフォードは、まさにシックスマンにうってつけだった。

よくシックスマンは自己犠牲の象徴と言われるが、クロフォードの見方は少し違う。シックスマンとして活躍できるのは、チームメイトたちがいてこそだと言う。

「僕がこのチームにきてからの4シーズンを見てみると、そのうち3シーズンは第4Qの平均得点で僕がチーム最多をあげている。それは、スター選手たちが『第4Qは自分の時間だ』というエゴを出さずに、僕が得意とすることをやらせてくれるからだ。彼らのおかげなんだ」。


4月19日、クロフォードは史上最多となる3度目のシックスマン賞を受賞した

クロフォードが心がけていることがある。ドック・リバース・ヘッドコーチがよくチームに説いている、「それぞれが、自分の役割をこなすうえでスターにならなくてはいけない」ということだ。クロフォードの場合は、得点することがその役割。その役割と責任を引き受け、チャンスを見つけ、躊躇なくシュートを放つ。シュートを多く打つからセルフィッシュという先入観を抜きに考えると、これこそが、チームプレイだった。

クロフォードにとってのシックスマンは、単に控えから出場するというだけでなく、どんな役割でも受け入れ、適応するというメンタリティの問題でもある。実は今シーズン、クロフォードは5試合でスターターを務めているが、その5試合のほうが、フィールドゴール成功率や3ポイントシュート成功率も高かった。それを理由に、クロフォードにシックスマン賞の1位票を投じなかった記者もいたと聞く。しかし、クロフォードは必要とされているときにスターターとして貢献することも、シックスマンの役割なのだと言う。

「それもシックススマンの役割だと思う。いつでも、どんなことにも準備ができていなくてはいけないということだから」。

僕はこのレベルであと最低5年はできる

変化を受け入れ、違う役割や環境に適応すること、それこそが、クロフォードにとってのシックスマンの真髄だ。これまで、NBA16シーズンで6チームを渡り歩き、36歳でまだ第一線でプレイできているのも、変化に適応することができたからだ。

「人は自分のやり方にこだわり、ひとつのことに専念しすぎて、適応できないということがある。僕はこれまで、状況に関係なく適応することができた。まわりの人に助けてもらったおかげもあって、適応してきた。それが長続きの理由のひとつだと思う。どういったことでも、適応ができること、オープンマインドでいることが自分にとってはプラスになっている」。

2年前にシックスマン賞を受賞したとき、クロフォードは「できれば現役が終わるまでクリッパーズにいたい」と言っていた。今も、その気持ちは変わらないという。

現在36歳、すでに引退の文字が目の前にぶらさがるぐらいのベテランだが、40歳を超えるまで今と同じレベルで続けられると自信を見せる。

「自分で(選手としてのキャリアに)期限をつけたくない。クレイジーだと思われるかもしれないけれど、僕はこのレベルであと最低5年はできると思っているんだ」。

シックスマン賞が『ジャマール・クロフォード賞』に変わるのは、まだしばらく先のことになりそうだ。

文:宮地陽子  Twitter: @yokomiyaji

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NBA日本公式サイト『NBA Japan』編集スタッフ