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[宮地陽子コラム第62回]ジミー・バトラー――コービー・ブライアントも認めたハードワーカー

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ロサンゼルス・クリッパーズのヘッドコーチ、ドック・リバースは、満面笑顔になって、「それはすばらしい質問だ」とうなずいた。リバースの出身校、マーケット大が、高校時代は過小評価されていた選手をリクルートして、NBAでも活躍できるような選手にまで育てることに長けている理由は何かと聞かれたときだ。

この日の対戦相手、シカゴ・ブルズには、マーケット大の後輩、ジミー・バトラーがいた。バトラー以外にも、ドウェイン・ウェイド、ウェスリー・マシューズ、ジェイ・クロウダーなど、確かにマーケット大出身の選手には、大学入学時どころか、NBAドラフト時にもそれほど評価が高くなかったのに、NBAに入ってからメキメキと頭角を現したような選手が多い。リバース自身も、マーケットからNBA入りしたときには2巡目(全体31位)での指名だったが、NBAに入ってからオールスターに選ばれたこともある、同じ部類の選手だった。

質問した記者が「すべてはドックから始まったんですよね」と、リップサービスもこめて言うと、リバースも「そうだ。すべてはドックから始まった」と言って場を笑わせ、その後に次のように持論を披露した。

「マーケットはマクドナルド級(高校オールスターゲームのマクドナルド・オールアメリカンに選ばれるような選手)を取ることがあまりない。マクドナルドに選ばれてもいいぐらいの能力がありながら、あまり知られていないような選手がマーケットに入り、大学のキャリアが終わる頃までにマクドナルド級の選手に成長する。ドウェイン・ウェイドやジェイ・クロウダーもそうだ。彼らは自分たちが選ばれず、他の選手がマクドナルドに選ばれたことに怒っている。そのことが(彼らが後に頭角を現すことに)関係しているはずだ。マーケットに行った私たち──といっても私は彼らよりだいぶ年取っているけれど──みんな同じようなプレイスタイルをしている。みんなタフで気骨があり、熱い思いをもってプレイするタイプの選手たちばかり。そして、みんな勝者だ」。

バトラーは、まさしく、そんなマーケット大タイプの選手だ。高校を卒業するときにはほとんど注目を集めることなく、地元テキサスのジュニアカレッジに進んだ。そこで結果を出したことで、1年後にようやくマーケットから奨学金のオファーを得た。マーケットで3年プレイし、最後のシーズンには平均15.7点、6.1リバウンド、2.3アシストをあげたが、それでも評価は高くなく、NBAドラフトでは1巡目の最後、30位まで指名されなかった。もっとも、バトラー自身、そのときには自分がNBAオールスターに2年連続で選ばれるような選手になるとは思ってもいなかったという。

「ドラフトされたときは、オールスターなんて考えもしなかった。何とかしてNBAに残りたいということだけ考えていた」とバトラーは言った。

「以前の僕はあまりうまい選手ではなかったから、ここに来るまで、いろいろなチームが僕に賭けてくれた。ただ、僕は常にハードワーカーだった。そのことをいろんな人が見てくれて、今も見てくれている。それが花開いた感じだ」。

去年に続いて、今年も東軍オールスターの控えロスターに選ばれたバトラーは、そう言って喜び、過去に自分の可能性に賭けてくれた人たちに感謝した。

彼のその努力を、オールスターになる前から見ていた一人のベテラン選手がいる。今シーズン限りで引退するコービー・ブライアント(ロサンゼルス・レイカーズ)だ。

1月28日、現役最後のブルズとの試合を戦った後の会見でバトラーについて聞かれたブライアントは、バトラーがこれまでハードワークを積み重ね、成長してきたことを称賛、数年前のこんなエピソードを披露した。

「彼が最初にNBAに入ってきたとき、シカゴでの試合で早くに会場に行ったときがあった。そしたら、彼も僕と同じぐらい早くからそこにいて練習していたんだ。(今の彼の活躍は)まさしくハードワークの証だ」。

28日の試合前に、ブライアントはバトラーにも直接、彼のハードワークを称える言葉を伝えたという。バトラーは試合後に嬉しそうに、その会話について語った。

「試合の前にコービーから、『今のままやり続けるんだ』と言われた。『今のレベルでプレイし続けるんだ』とね。嬉しかった。このリーグでコービーから敬意をもってもらえるということは、今まで僕は正しいことをやってきたということだからね」。

文:宮地陽子  Twitter: @yokomiyaji

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NBA日本公式サイト『NBA Japan』編集スタッフ