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[宮地陽子コラム第58回]ランス・スティーブンソン――問題児のレッテルを剥がすとき

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ランス・スティーブンソン(ロサンゼルス・クリッパーズ)のプレイを一言で表現するとしたら、『躍動感』だ。オープンコートでボールを持つと、彼のドリブルに引っ張られるようにまわりの選手もギアが上がり、彼から出される思い切りのいいパスによって、単調な試合に色彩がつく。視野も広く、スティーブンソンにポイントガードとしての期待をかける声が根強いのも納得だ。

もっとも、今シーズンのスティーブンソンは、まだそんな輝きを数えるほどしか出せていない。開幕から9試合を含む全10試合はスモールフォワードとしてスターター起用されたのだが、間もなくスターターを外れただけでなく、4試合中3試合で、ほとんど起用されないときがあった。負けがこんできたことで、新しいラインナップを試したためだが、ドック・リバース・ヘッドコーチやチーム関係者の話をつなぎ合わせると、スティーブンソンがオフェンスやディフェンスのシステムを覚え、実行するのに時間がかかっていて、それが、プレイタイムが伸びない原因のようだった。

米Yahoo Sportsによると、クリッパーズは11月に、スティーブンソンとジョシュ・スミスのトレード価値を探っていたという(注:リバースはこの報道を全面的に否定している)。もっとも興味を持つチームがなかったことや、クリス・ポールやJ.J.・レディックが故障で欠場したことで、積極的にトレード先を見つけようとするまでは至らなかったという。

こうやって書くと、まるで早くもスティーブンソンがクリッパーズの問題児と化しているかのように思えるかもしれないが、ロッカールームで見聞きする限りでは、まったくそんなことはない。11月14日、プレイタイムが1分42秒しかなかったデトロイト・ピストンズ戦の後も、「このチームは選手層が厚いから、そういうこともある。大事なのはベンチで前向きなエネルギーを出すこと。ネガティブな空気を出さないこと。試合に勝てただけでうれしい」と、優等生のコメントだった。昨シーズン、シャーロット・ホーネッツでチームメイトと衝突したという報道があったことを聞かれると、「それは全部噂にすぎない。これまで同じチームでやってきた人たちはみんな、僕がどういう人間なのか知っている」と答えた。

実際、ロッカールームでのスティーブンソンの評判はいい。

レディックはクリッパーズにとってスティーブンソンが大事な一員となってきていると語る。

「彼は控えで出ていても、スターターで出ていても、うちのチームにとって鍵となる選手だ。ロッカールームの彼もとてもいい。ランスは建設的な批判はきちんと受け止めようとしている。試合に勝ちたい、チームを助けたいという気持ちを持っていて、それ以外のことは考えていない」。

リバースHCも、スティーブンソンのプレイに批判的なこともあるが、それでも、「彼がいつも、正しいプレイをしようと思ってやっているのはわかる」と、意識としては正しい方向を向いていることを強調している。

12月に入ってすぐ、インディアナ・ペイサーズが街にやってきた。スティーブンソンにとって、ルーキーのシーズンから4シーズンを過ごしたチームだ。

古巣との対戦はいつも以上に気合いが入るかと聞かれたスティーブンソンは、「いや、もうそういう段階は終わったんだ。(シャーロット・ホーネッツにいた)昨シーズンは、彼らと対戦するときにはかなり気合が入っていたけれどね。インディアナに(試合をしに)戻って、いいところを見せたかったから。今は、とにかく試合に勝ちたいだけだ」と語っていた。

「そんな段階はすでに終わった」と言いながらも、このペイサーズ戦でのスティーブンソンは、確実にいつもよりも気持ちが入っていた。よく知ったチームだけに最初から集中しており、試合に出た直後からアグレッシブなプレイを連発。3ポイントシュートを決めたかと思うと、トップからドライブインで攻め込み、ディフェンスではかつてのチームメイト、ポール・ジョージに張りつくようにマークした。まるで、ペイサーズ時代の自分のプレイを思い出したかのように――。

試合はジョージの活躍もあって第4クォーターに主導権を取ったペイサーズが勝ったが、それでもスティーブンソンは28分出場し、今季自己最多の19点をあげる活躍を見せた。

中でも、ポール・ジョージとのマッチアップは、見ごたえがあった。

試合後、スティーブンソンは言った。

「インディアナにいた頃には彼(ジョージ)とよく1対1をしていた。僕らはお互いにやりあうことで、成長してきた。僕は彼のゲームを少し知っているし、彼は僕のゲームを知っている。きょうも、お互いに全力で競いあった」。

ジョージも、スティーブンソンのプレイにつて聞かれると、こう語った。

「ランスはいいプレイをしていた。アグレッシブに仕掛けてきた。僕らがインディアナで見慣れたランスだった。彼は誰にも負けない競争心を持っているから、僕も楽しく対戦できた」。

スティーブンソンにとって、そしてクリッパーズにとっての課題は、このスティーブンソンをどれだけ頻繁に、継続的に引き出すことができるか。

スティーブンソンは、ディフェンスに集中することで、トランジションのオフェンスの機会を増やすように心がけ、そこから自分のチーム内での役割を見つけようとしていると言う。

今季、これまで以上にリーダーシップを執るようになったブレイク・グリフィンは言う。

「ランスは才能ある選手だ。彼が集中してその才能を発揮できるようにするのは、僕らの仕事だと思っている」。

文:宮地陽子  Twitter: @yokomiyaji

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NBA日本公式サイト『NBA Japan』編集スタッフ