NBA

[宮地陽子コラム第57回]ウルブズ サム・ミッチェルHC取材後記 「喪に服す一番の方法は、コートに出て、できる限り力を尽くしてプレイすること」

Author Photo
Sporting News Logo

3週間ほど前の話になるが、10月28日、ミネソタ・ティンバーウルブズ対ロサンゼルス・レイカーズの試合前の、サム・ミッチェル・ヘッドコーチの囲み取材について書いておきたい。その日、取材後にツイッターでも「人生が全部詰まっているという感じの濃い内容」と書いた。改めて聞き返してみると、「人生が全部詰まっている」という表現は少し大げさだったと思うけれど、それでも、約10分間の取材時間が2倍、3倍に感じたほど深い内容だったことは確かだ。

その3日前、ミッチェルにとって師匠であり、友人でもあり、そしてティンバーウルブズのヘッドコーチでもあったフリップ・サウンダーズが亡くなった。開幕直前の訃報、そして亡くなって最初に迎える試合が今季の開幕戦ということで、ミッチェルも、彼を囲んだ記者たちも、皆が、いつもとは少し違う気持ちで試合を迎えていた。

囲み取材の話題は大きく分けて2つ。サウンダーズの死に関することと、若手の多いチームの現状について。師匠の教えについてと、若い選手たちの成長について別々のトピックとして語っているのだが、一歩引いて全体として見ると、かつてサウンダーズからミッチェルが教わったことを、今、ミッチェルやケビン・ガーネットらベテラン選手たちが若い選手たちに教え、若手選手たちが成長していく、というNBAでのサイクルが見えてくる。人の死という誰もが避けられない現実を前にして、そういったサイクルが脈々と続いていることに人生を感じたのだった。

そのときの話の中から、印象的なことをいくつか抜き出してみよう。

サウンダーズの死後、初めての試合を迎えることについて

難しい日だが、集中するように心がけている。チームが集中してプレイできるようにする。コーチ(サウンダーズ)がいつも言っていたことだった。『戦う準備を整えるように。フィジカルであるように』とね。

私たちにとって、この2日ほどはつらい日々だった。でも、(試合は)みんなの聖域であるコートでバスケットボールをする機会だ。

静かな時間には、コーチ(サウンダース)がどんな存在だったかを思い出す。ただ、彼は選手たちにプレイしてほしいと思っていたはずだ。バスに乗ってアリーナに来るときにはいつも、選手たちに『いったんバスに乗ったとき、あるいはホームで自分の車に乗ってターゲット・センターに向かうときには、自分たちが大好きなことをするために気持ちを切り替えて準備を整えるんだ』と言っていた。コーチは、バスケットボールが大好きで、あらゆるレベルで、選手としても、コーチとしてもやってきた。彼の喪に服す一番の方法は、コートに出て、できる限り力を尽くしてプレイすることだ。

ミッチェル自身が、サウンダーズの死をどう受け止めているか

悲しいことに、私は、これまでに何度もこのようなことを経験してきた。高校のチームメイトを埋葬し、大学のチームメイトを埋葬し、NBAのチームメイトを埋葬してきた、そして、今度はコーチを埋葬することになった。そういったことを、一人になったときに思い出して考える。私はフリップのもとでプレイするという幸運に恵まれたと思っている。フリップのもとでプレイすることを楽しみ、その中で多くを学んだ。私が選手だったときに彼から聞いたことを、私も今の選手たちに言っているのに気づくことがある。

大事なのは、コーチが私たちをここに集めてくれたのには理由があるということを忘れないことだ。彼は私たちが集中し、自分たちのできる最高の仕事をすることを願っていた。

サウンダーズが言っていたことで、一番よく使う教えは?

コーチはいつもスペーシングについて語っていた。フリップはジョーク好きだった。みんながリラックスしているのが好きだった。それも大事なことだ。私たちは若手たちに厳しくして、彼らが全力を尽くすようにした一方で、バスケットボールを楽しんでほしいと思っていた。

いつも、彼ら若手選手たちに思い出させているのは、なぜプレイするのかということ。もしNBAがなく、契約がなかったとしても、それでも選手たちはみんなどこかプレイできるところを探しているはずだ。コートを離れるときに、なぜそれだけ好きなのかを思い出すように。

遠征しながら82試合のスケジュールをプレイし、それにともなう責任を果たしていると、仕事のように感じ始めることがある。そういったときには、彼らに、これは仕事ではあるけれど、君たちが人生で得る最高の仕事なのだということを伝えるようにしている。それが仕事だと思い始めたときに、なぜプレイするのかを思い出すようにと言っている。ファンのためではなく、バスケットボールを愛しているからだ。若い選手たちには、そう伝えるようにしている。

若い、ドラフト上位指名の選手たちが多いチームで、将来への兆しを感じるか

若手選手が多いことは、君たち(メディア)にとっては兆しに思えるかもしれないけれど、コーチにとってはストレスが多いことだ。ドラフト上位指名の選手たちがたくさんいるけれど、彼らは19歳、20歳と若い。私たちにできることは、彼らに育つだけの時間を与えることだ。彼らは、この先も、ローラーコースターのように調子の波があるだろう。時にすごくいい夜もあるだろうし、ルーキーのようなプレイをする夜もあるだろう。それも、必要なことだ。

みんなによく言うのだけれど、AからZにたどり着く近道があったらいいのだけれど、そうではなく、B、C、D、Fと自然に成長していく必要がある。うちの選手たちは、若いけれどハードにプレイしている。若い選手にしてほしいと願うのは、学びながら前に進むことだ。あとは毎晩、毎プレイを、できる限りの力を出して競争してほしいということ。そして、成長し続けてほしいということだ。

若手選手たちの相談役として、ケビン・ガーネット、テイショーン・プリンス、アンドレ・ミラーのようなベテラン選手たちの存在について

私たちは、ずっと彼らに頼ってきた。彼らから若手選手たちに、準備のことや、メンタル面のことなどを教えてもらうようにしている。若手選手たちは身体面での能力に頼っているけれど、それだけでは、ある程度のところまでしかいけない。このリーグに残り、上達し続ける選手たちは、メンタル面でのことを学び、身につけている。KG(ケビン・ガーネット)やアンドレ(ミラー)、テイショーン(プリンス)が価値あるのは、そういうところだ。

彼ら(若手選手たち)は私やシドニー・ロウを元選手とは見てくれない。私たちは彼らにとっては歳を取りすぎているんだ。彼らは私たちが選手だったときのことを覚えてもいないからね。ケビン・ガーネットやテイショーン・プリンスらのことは、彼らがプレイしているのを見て育ってきたから、つながりを感じる。彼らがチームにいて、毎日、対戦相手となってくれることはとても価値があることだ。

あなたにとって今シーズンの成功は何?

若い選手が上達することだ。勝敗の話もするけれど、単に勝敗数というだけではなく、勝つためには準備をしなくてはいけないといった面で話す。どんなチームであっても、たとえ50勝以上するようなチームであっても。これらの選手たちは、いつか、優勝を競えるようなチームになると私は信じている。でも、その準備を今からしていかなくてはいけない。

今から2年、3年経ったときに、突然、目が覚めて、年が満ち、身体もできてきて準備ができたとなるわけではない。そのためにはウェイトルームで努力し、コートでもやるべきことを重ねていかないといかない。私たちが今教えていることは、優勝の準備になることだ。それが今年であっても、来年であっても、22年後であっても、いつであっても、それは今、毎日ジムに来て努力することから始まる。

文:宮地陽子  Twitter: @yokomiyaji

>>>宮地陽子コラム バックナンバー

著者
NBA Japan Photo

NBA日本公式サイト『NBA Japan』編集スタッフ