[2016 NBAファイナル コラム]夢を叶えたレブロン・ジェームズ(宮地陽子)

[2016 NBAファイナル コラム]夢を叶えたレブロン・ジェームズ(宮地陽子)

ヒートを去る際の経験もモチベーションに

クリーブランド・キャバリアーズがゴールデンステイト・ウォリアーズを制して初優勝を成し遂げた3日後、優勝ラリーの舞台でレブロン・ジェームズは言った。

「目が覚めて起きたら1勝2敗で負けていて、第4戦を始めるところなんじゃないかと思ったりする。それぐらい、現実味がないんだ」。

故郷の人たちと共に優勝を分かち合いたいという長年の夢を叶えることができて、それだけ信じられない思いで、夢心地だった。ジェームズ自身はマイアミ・ヒートで2度の優勝を達成しており、今回で3度目の優勝だが、それでも、地元での初優勝は格別だった。

クリーブランドでは、市長がキャブズの優勝パレードとラリーが行なわれた6月22日を祝日に指定したという。半世紀以上プロチームの優勝から遠ざかっていた街にとっては、それだけ大きな出来事だった。

パレードやラリーで選手たちを一目見ようと、近辺から集まってきた人たちの数は推定100万人。パレードでは、選手たちが乗った車がなかなか進めないほど、大勢の人々が道を埋め尽くしていた。それはまるで、2年前にジェームズがヒートからキャブズに戻ってきた直後のナイキのコマーシャルが現実になったかのようでもあった。

そのコマーシャルでは、道を埋めつくしたクリーブランドの人たちが、キャブズの円陣と一体化し、ジェームズの掛け声で「ハードワーク!」「トゥギャザー!」「クリーブランド!」と叫んでいた。

パレード中、クイックン・ローンズ・アリーナ近くに描かれた自分の壁画の前で、車の上に立ち壁画と同じように両手をあげたジェームズ。夢の世界と現実の世界が交錯した。6年前の夏、ジェームズが「自分の才能をサウスビーチに持っていく」という言葉とともにクリーブランドを離れ、ヒートに移籍したときの地元ファンの悲しみや恨みは、この2年間の汗と喝采と、そして優勝後の涙とともに、流れ落ちていた。


優勝決定直後、ヒート時代からの盟友ジェームズ・ジョーンズと歓喜の抱擁をかわすレブロン・ジェームズ

キャブズが優勝した後に明らかになった話がいくつかある。たとえば、優勝トロフィーのパズルだ。

キャブズは、チーム一丸となってプレイオフを戦うための象徴として、トロフィーの形のパズルを用意していた。ふだんは厳重にケースにしまわれていて、チーム内だけの極秘情報の扱いだった。舞台裏の様子も一部始終撮影しているNBAのカメラマンたちも、このパズルを取り出すときには必ずロッカールームの外に追い出されたという。

パズルは全部で16ピースあり、15人の選手たちとタロン・ルー・ヘッドコーチがそれぞれ1ピースずつもっていた。そしてプレイオフで1勝をあげるごとに、1ピースずつはめていった。16勝目、優勝を決めたファイナル第7戦の勝利の後にピースをはめてトロフィーを完成させたのはルーHC。彼が持っていたピースはトロフィーの球の部分の中央で、オハイオ州の形をしていた。オハイオのファンのために戦うという気持ちが込められていたのだ。

このトロフィー・パズルの発案者で、ヒートでもレブロン・ジェームズのチームメイトだったジェームズ・ジョーンズは、このトロフィーのパズルの意図を、次のように説明した。

「チームを一丸としてまとめるような何かが必要だったんだ。みんながそれぞれ1ピースずつ持っていた。このチームが集めて組み立てられたように、パズルを組み合わせる必要があったんだ」。

どこかで聞いたような話だと思い出す人もいるかもしれない。ジェームズやジョーンズが2年前まで在籍していたヒートでの黒トロフィーだ。当時のヒートは、プレイオフになると優勝トロフィーを模した黒のトロフィーを作り、全力を尽くすという宣誓のために全選手がサインし、プレイオフで1勝するごとに印をつけていた。このときも優勝するまでは黒トロフィーの存在は極秘だった。誰も情報をもらさずに秘密を共有することもチーム結束の証であり、チーム意識を高める効果があったのだ。

ジェームズは2年前にヒートからキャブズに戻ることを発表したとき、ヒートを大学に喩えていた。

「マイアミは僕にとって、他の人たちにとっての大学のようなものだった。この4年間のおかげで、より良い選手に、より良い人間になることができた。自分が目標としていることを成しとげた経験のあるチームから、そのやり方を学ぶことができた」。

チームのモチベーションの高め方も、“ヒート大学”で学んだことのひとつだった。


優勝後に明らかになったもうひとつの話がある。ジェームズは、2年前にクリーブランドに戻って以来、優勝したいとの強い思いの裏には、故郷への愛情のほかに、まだ明かしていない別の理由があることを示唆していたのだ。

優勝後、ジェームズはESPNの番記者にもうひとつの理由について明かした。

「(2014年夏に)マイアミを離れることにしたとき、誰と名前は言わないけれど、それまで信頼し、4年間良い関係を築いていた人から、『君は、選手キャリアにおける最大の過ちを犯そうとしている』と言われ、そのことにとても傷ついた。チームを去ると言った直後の、感情的なときだったのはわかる。それにしても、キャリア最大の過ちだとまで言われたんだ。それが僕のモチベーションになっていた」。

ジェームズはこの発言をした人物の名前を挙げなかったが、当時のヒートの状況に詳しい記者たちは、ヒートの球団社長パット・ライリーの発言だと推測している。確かに自信家で負けず嫌いのライリーなら言いそうなことだ。ライリーだったにせよ、他の人物だったにせよ、それを言った人が理解していなかったのは、ジェームズの故郷に対する思いの深さ、強さだった。故郷に戻ることを『過ち』と言われることは、どんなに感情的な状況だったとしても、許すことができなかったのだ。

優勝から1週間以上が経った。ジェームズもそろそろ身体の隅々まで喜びを感じている頃だろうか。1勝2敗の後に第4戦に敗れてウォリアーズに王手をかけられた後、敵地での第5戦に勝ち、ホームの大喝采の中で第6戦にも勝ち、緊迫する接戦となった第7戦を制して優勝をつかんだことが、夢ではなく、現実だったという事実とともに──。

文・写真:宮地陽子  Twitter: @yokomiyaji

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