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[2016 NBAファイナル コラム]自分の役割の中で輝きを放つトリスタン・トンプソン(宮地陽子)

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レブロン・ジェームズと並ぶと、どんな選手も脇役になってしまうのはしかたないことだ。NBAファイナル第6戦後、ジェームズ、カイリー・アービングと共に記者会見場に出てきたクリーブランド・キャバリアーズのトリスタン・トンプソンに質問が投げかけられたのは、会見が始まって8つ目の質問だった。

その質問で、第6戦での活躍の理由を聞かれたトンプソンは、こんなことを言っていた。

「自分の役割の範囲でスターになるように心がけている。僕にとって、それはエネルギッシュに、自分のモーターを使い、全力で、手を抜くことなくプレイすること。それがこのチームでの僕の仕事で、チームに貢献できることだから、その役割でスターになるんだ」。

第6戦でのトンプソンは、確かに彼の役割でスターだった。オールラウンドな能力を発揮してチームを引っ張ったジェームズ(41点、11アシスト、8リバウンド、4スティール、3ブロック)のような主役ではないけれど、間違いなく、チームに不可欠な選手だった。

ゴールデンステイト・ウォリアーズはこの試合、アンドリュー・ボーガットの故障もあって、いつもは勝負をかけたいときに起用する通称『死のラインナップ』(ステフィン・カリー、クレイ・トンプソン、アンドレ・イグダーラ、ハリソン・バーンズ、ドレイモンド・グリーンのスモールラインナップ)を試合開始から使って勝負を仕掛けてきたのだが、それを正面から破壊したのがトンプソンのエネルギッシュなプレイだった。キャブズが20点のリードと試合の主導権を取った第1Qに9リバウンドを奪い、アリウープなどで7点を決め、ゴール下を圧倒したのだ。

キャブズのタロン・ルーHCも「彼はチームのハート&ソウルだ」と、トンプソンの熱いプレイがチームを動かしていると称賛。高く評価しているだけあって、ベンチに下げたのは試合を通してわずか5分余。チーム最長の42分38秒に出場し、15点、16リバウンドをあげた。何よりも、トンプソンが出場している間のキャブズの得失点差は+32点。これは、ほぼ同じ時間出場しているジェームズの+26点を上回っているのだから、その存在の大きさがわかる。

ジェームズも、「ダブルT(TT=トリスタン・トンプソン)のエネルギーや活気にあふれたプレイ、リバウンドはすばらしかった。彼のオフェンシブリバウンドのおかげでそれだけ多くポゼッションを得ることができたけれど、それ以上に、試合開始からの彼のディフェンシブリバウンドは、彼にとっても最高レベルの出来だった。いつも活躍をしているけれど、今夜は特にすばらしかった」と絶賛。たとえ会見でほとんど質問されなくても、ジェームズやアービングのように1対1で攻撃するような選手でなくても、ジェームズやアービングと共に会見場に出てくるのに値する活躍だった。

トンプソンは、プレイオフだけでなく、レギュラーシーズンの試合も、毎試合に出場することを誇りとしており、レギュラーシーズンだけで370試合、プレイオフも合わせると410試合に連続出場している鉄人。今シーズンもチームで唯一、レギュラーシーズン82試合とプレイオフ20試合に出場しており、NBAファイナル第7戦がシーズン103試合目となる。

毎試合戦う準備を整え、試合に出場するトンプソンに対しては、ジェームズも「若いけれど、バスケットボールだけをしていればいいわけではないということを理解し、しっかり身体を整えてくる、とてもプロフェッショナルな選手だ」と一目置き、「いつでもアリーナに行くと、どんなことがあってもあいつが必ずユニフォームを着て、全力を尽くすとわかっているのは、本当に頼もしい」と称賛した。

1試合で明暗が分かれ、どんなことが起きるかわからないのがファイナル第7戦だが、確かなことがひとつあるとすれば、それは、シーズン103試合目となるコートに、トンプソンが13番のユニフォームを着て立っていることだろう。自分の役割の中でスターになるように全力でプレイすることも想像に難くない。だからこそ、ジェームズは言う。

「日曜(日本時間月曜)の、今シーズン103試合目が、彼にとってこれまでの中で最高の試合になるようにしてあげたい」。

文:宮地陽子  Twitter: @yokomiyaji

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