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[コラム]コービー・ブライアント引退表明に寄せて――愛と憎しみの狭間で(佐々木クリス)

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オールスター17回

コービー “ビーン” ブライアントがプレイヤーズ・トリビューン(The Player's Tribune)に寄稿した「愛おしきバスケットボールへ」というタイトルのエッセイを通じて今季限りの引退を表明した。詩人顔負け、情景がすっと目に浮かぶ文はポエムのようにも感じるほろ苦いラブレター。本人もスラスラと書けたと言っている通り、今季限りの“引退”の2文字は公にしてこなかっただけで、本人は心に決めていた節がある。

文中でバスケットボールとの出会いを、丸めた靴下をボールに見立ててシュートをし始めたときと説明しているが、靴下の主はかつてNBAでもプレーした父“ジェリービーン” ブライアントのもの。レブロン・ジェームズがコービー“ビーン”とニックネーム付きで呼ぶときにはいろいろな歴史も詰まった名前と思わずにはいられない。

そして今季中にオールスター選出18回を数えるのは間違いない。

金メダル2個

ヒーロー vs 悪役、ひとり2役。

引退が公となったその夜、ホームゲームが行なわれたステイプルズ・センターでは来場者全員にKobeからの手紙が配られた。アルファベットのHとVが重なったロゴ……それはヒーロー(Hero)でありヴィラン(Villain=悪役)でもあるKobeの二面性を自身が理解し、モチベーションとして活用してきたことがよくわかる。(ちなみに共に優勝も果たしたチームメイト、メッタ・ワールド・ピースはこの手紙にKobeの直筆サインをもらっていた。笑)

手紙の日本語訳はこちらをどうぞ

ESPNの記者によるとHVのロゴとKB24のロゴはKobeの会社によって商標登録がなされており、今後トレーディングカードやフィギュア、グラスに至るまで様々な商品展開も予想できる。

チャンピオンシップ5回

皆さんの1番印象に残っているKobeがいたレイカーズの優勝はいつになるだろうか?

レイカーズの永遠のライバルとも言える東の名門ボストン・セルティックスファンが“Dear Kobe”という手紙をネットに掲載している。


親愛なるコービー・ブライアント様

私はあなたが憎いほど嫌いです。

私を責められますか? 

セルティックスファンとして20年もあなたが負ければ良いと願ってきたのだから。私は我がセルティックスが2008年のファイナルであなたを打ち負かしたとき、あなたの悶え苦しむ様を心から喜んだ。すでにリングを3つ持っていたあなたよりも、ポール・ピアースのほうがよっぽど優勝に相応しかった。

しかし、あなたには3つじゃ足りなかった。2010年には、2008年の復讐と共に5つ目のリングを手に入れた。その過程で私の心臓をえぐりながら。Game7に怪我でケンドリック・パーキンズが欠場した幸運を今でも肝に命じていて欲しい。

今日、あなたがプレーヤーズ・トリビューンに寄稿した手紙を読みショックを受けました。あなたが引退を表明したからではありません――我々はすでにその事実を知っていたから。ショックは、あなたが私に感じさせた感情にありました。

私の意識の中で、私は必ずあなたとデレク・ジーターを同じ区分に入れていた。あなたたちはボストンファンとして我々が痛烈に憎むと共に、敬意を表さずにはいられない選手だからです。あなたは正しいアプローチでプレイした――情熱とプライド、そしてプロフェッショナリズムをもって。

あなたたちは誰よりも努力することで偉大なものを追い求めた真の学び手だ。そしてそれぞれのスポーツにおいて世代を代表する選手となりました。あなたたちは全てを捧げ、身を前線に投げ出し、勝利の方程式を知っていた。あなたたちはそれぞれの競技、卓越した技術、そしてボストンというライバルに敬意を持っていた。

12月30日(現地)が、あなたが最後にボストンでプレイする日となる。この日は同時に我々セルティックスファンが、長いセルティックスとレイカーズのライバル史の中でも最も支配的な選手のひとりとして議論される選手を相手にセルティックスを応援できる最後の機会にもなる。 

あなたが去ると共に、かつてNBAを支配したライバル関係の名残も去っていく。いつの日か新たな顔がライバル関係を再燃させるかも知れないが、されない可能性もある。

なので、あなたが来月(※手紙は11月に公開)ガーデンに来たときには、観客の皆があなたに地獄のような思いをさせるように願っている。我々はチャンピオンシップのかかった試合よりもはるかに力強く野次り倒し、ブーイングをあなたに浴びさせることを期待している。全てのフリースローを外すと良い。緑色の血を流し、あなたの挫折をもう一度観るためなら何でもする1万7000人の雄叫びを上げるファンに囲まれることがどういう感覚か、あなたが一生忘れないようにしたい。

もう一度ロサンゼルスを負かしたい。そして第4クォーター途中、私のセルティックスが20点差でリードし、あなたがベンチに下がるよう命じられたとき、美しいことが起こるはずだ。

ガーデンにいる全ての人間がブーイングを止め、2本の脚で立ち上がり、あなたが今まで経験したことがないほどの最も大音量かつ最も情熱的なスタンディングオベーションをもってあなたに敬意を表するだろう。我々はあなたの名前を連呼し、涙目をこする。我々は甘くほろ苦いお別れを告げる。

持っている物の本当の価値を知るには失ってみなければ分からないという謂れがある。だからあなたが去ってしまう前に、素晴らしいバスケットボール選手よりもはるかに勝る存在でいてくれたことにありがとうと伝えたい。ひとつのNBAファン世代にとって、あなたこそがバスケットボールなのです。

今こんなことを言っている自分が信じられない……でもあなたのことを恋しく思うでしょう。

愛(そして憎しみ)を込めて、あなたの存在を感謝しきれなかったセルティックスファンより


HATEはLOVEの裏返しで、好敵手がいてこそ自分のヒーローも輝くといったところか……

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文:佐々木クリス( WOWOW NBA ONLINE Twitter: @chrisnewtokyo

WOWOW NBA ONLINE 12月4日掲載コラム「Vol.187 佐々木クリスが語る『ラブ&ヘイト(愛と憎しみの狭間で)』」より

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NBA日本公式サイト『NBA Japan』編集スタッフ