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重傷を乗り越えチャンスを掴んだスパーズ新人ジャロン・ブロッサムゲーム

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ある2人のバスケットボール選手にとって、2013年3月31日は生涯記憶から消し去ることができない日になった。

その選手とは、ケビン・ウェアと、ジャロン・ブロッサムゲームの2人。アトランタ近郊の高校でスター選手として活躍した両選手には、ある共通点がある。

ルイビル大学で2年目のシーズン、テレビ中継されたNCAAトーナメントのエリート8でデューク大学と対戦したときだった。ブロックショットを狙ったウェアは着地した際に左足を骨折。折れた骨が皮膚を突き破って飛び出すショッキングな映像がテレビ中継された。

その中継を見ていたクレムゾン大学のブロッサムゲームは、ウェアが負ったけがの恐怖を知っていた。ウェアが骨折した1年前、ブロッサムゲームは練習中にウェアと同様の骨折を経験していたからだった。

テレビ中継されたウェアとは異なり、ブロッサムゲームは観客のいない練習場で骨折したが、同じ恐怖感に襲われた。ブロッサムゲームは「彼と同じけがだった。骨が折れた音が聞こえたからね」と、当時を振り返った。

「足を押さえようとしたとき、骨が数センチ飛び出しているのが見えた。克服するのが最も大変なことの一つだったよ」。

ブロッサムゲームが左足に重傷を負ったのは、高校最後のシーズン中だった2012年4月。それから復帰までに18か月という月日を必要とした。

けがから5年後、ブロッサムゲームはサンアントニオ・スパーズからドラフト2巡目で指名され、ユタとラスベガスで開催されたNBAサマーリーグで平均5.1得点、5.9リバウンドを記録。重傷を克服したとはいえ、彼のレッグスリーブをめくれば、そこには25セント硬貨よりも大きな傷跡が残ったままだ。

スパーズから指名を受けた後、ブロッサムゲームは「未だに骨折した箇所にチタン製の金属が埋め込まれているんだ」と話した。

「若い頃に自分が経験したような困難と向き合えたのは良かった。それが自分の物語だし、けがから学んだ。正しい姿勢と意識で日々と向き合わないといけない。この場に立つのに、ハードワークをする選手にならないといけなかったんだ」。

ブロッサムゲームは、2017年NBAドラフトで指名された選手の中で、最年長の23歳だ。その成熟した思考は、アトランタ郊外の練習場で、引きずりながら歩く足を押さえることを余儀なくされた時期から芽生え始めた。

『ESPN』が選ぶ将来性のあるトップ100選手に選出されたブロッサムゲームだったが、大学のコートに立てるようになるかわからない時期もあったという。骨折してから再び左足に体重をかけられるようになるまで、半年の月日を要した。それから3か月後には2度目の手術を受け、回復を早める効果があるとされる股関節の骨髄を骨折した足に注入する処置を施した。

ブロッサムゲームは「けがをしてから、『もう元のようには戻れない』と言われたこともあった。幸運にも、僕は自分自身に『日々打ち勝つ。自分にできることをやる』と言い聞かせ続けることができた」と話している。

プレイすることはできなくても、ブロッサムゲームはクレムゾン大学のスティーブ・スミス・アシスタントコーチと、ダリック・ホノルド・コンディショニングコーチの協力の下、どの部分を強化できるかや、栄養学、ワークアウトについても学んだ。その効果は肉体に現れ、クレムゾン大学に在籍した4年間を通じて、筋肉だけで約14kgの増量に成功。現在は身長206cm、体重99.7kgという立派な肉体を手にした。

コーチがリハビリのペースを止めないといけなかったというほどの取り組みを見せたブロッサムゲームは、2013-14シーズンに復帰を果たし、33試合中30試合に先発出場。デューク大学に勝利した試合では14得点、14リバウンドの活躍で貢献した。

大学2年目のシーズンはチーム最多となる平均13.1得点、8.2リバウンドを記録し、チーム内で最も成長した選手に贈られるMIP賞を受賞。3年目のシーズンはチーム最多の平均18.7得点、6.2リバウンドをあげ、オールACCファーストチームに選出され、カンファレンス内のMIP賞にも輝いた。

ブロッサムゲームは代理人と契約を結ばずに2016年のドラフトにエントリーするも、ドラフトコンバインと各チームとのワークアウトに参加後、大学復帰を決断する。

そして迎えた大学最終年、ブロッサムゲームは3年連続してチーム最多となる平均17.7得点をマーク。通算得点数でクレムゾン大学バスケットボール部の歴代5位に入る成績を残した。

2017年のドラフトにエントリーしたブロッサムゲームは、全体58位で指名された選手の名前が呼ばれるまでの間、辛抱強く5時間待ち続けた。そしてスパーズが59位で彼を指名した瞬間、彼はこれまでの努力が実ったことを実感した。

骨折により18か月もの間コートに立てなかったブロッサムゲームにとって、自分が尊敬する球団であるスパーズから指名されるまでの5時間は、待つのに値する時間だった。

大学時代からカワイ・レナードに憧れていたというブロッサムゲームは、サンディエゴ州立大学時代のレナードの映像を見続けた。そしてスパーズでの成長過程もチェックし続け、共通点を発見したという。

同じウィングの選手で、身長も近く、守備が長所。特に、複数のポジションの選手を相手に守備ができる点も似ている。ブロッサムゲームは、レナードの大学時代のスタッツも記憶しているほどだ。

レナードは、サンディエゴ州立大学1年目は3ポイントショット成功率20.5%で、2年目は29.1%に上昇。ブロッサムゲームはクレムゾン大学での1年目に3P成功率20%、2年目に28.8%を記録した。憧れのレナードは、NBAでのキャリアで3P成功率38.8%を記録している。

ブロッサムゲームは「スパーズとの面談のとき、自分とカワイとを比較したら、笑われたよ」と言う。

「僕にはやるべきことが山積みだけれど、カワイがNBAのベストシューターの一人に成長する姿を見たら、ジムで費やした時間こそ、将来得られる結果に繋がる重要な要素ということがわかる。僕も、彼と同じような選手になりたい」。

以前からスパーズのチップ・インゲランド・アシスタントコーチを尊敬していたブロッサムゲームは、ドラフト指名後、インゲランド・アシスタントコーチからメールをもらい大興奮したという。そして「準備はできています」と返信した。

ブロッサムゲームは「どんなときも、必ず成長させられる部分はある。それは、スパーズの選手が毎シーズン成長する姿を見てもわかること」と語った。

「選手としての成長こそ、僕が最も大事と考えている部分なんだ。選手としても、一人の人間としてもベストな存在なることが、僕を突き動かしている」。

そんなブロッサムゲームにとって、スパーズほど完璧な居場所はないかもしれない。

原文:Jaron Blossomgame Springs Forward by Lorne Chan/Spurs.com(抄訳)


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NBA日本公式サイト『NBA Japan』編集スタッフ