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現役続行か引退か――ティム・ダンカン、決断のとき迫る

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年間67勝15敗という球団新記録を樹立したサンアントニオ・スパーズの2015-16シーズンは、ウェスタン・カンファレンス・セミファイナルでオクラホマシティ・サンダーに2勝4敗で敗れるという、周囲の予想に反する形で幕を閉じた。歴史的なシーズンが終わったということは、スパーズの象徴的存在であるティム・ダンカンにとって、現役続行か、引退かを決める時期が来たことも意味する。

サンダーとの第6戦、グレッグ・ポポビッチ・ヘッドコーチがダンカンに代えてカイル・アンダーソンを第4クォーターの頭から起用しようとしたとき、ポポビッチHCとダンカンは短い会話を交わした。

「ポップは、僕にプレイしたいかどうか聞いてきたんだ」。

「そしてこう答えたんだ。『いつだって僕はプレイしたいと思っている』とね」。

19年の永きにわたりブラック&シルバーのユニフォームを身に纏いプレイしているダンカンは、球団史上最高の選手と言える。そのダンカンが、ただ座って見ているだけの選択肢を取ることはなかった。

第6戦の第4Q、ダンカンはベンチに下がることなくプレイし続けた。

今季のダンカンはキャリア最少の出場時間にとどまった。平均得点(8.6)も、キャリア平均(19.0)の半分を下回る成績でシーズンを終えた。

しかし、今季最終戦となった第6戦では、若く身体能力の高いサンダーの選手に手を焼いたスパーズの選手の中にあって、着実に仕事をこなすダンカンの姿を見ることができた。

バックボードを使ったショートのフックショット、ゴール下のポジション争いを制してティップイン、右から左へのスピンムーブからペイント内に侵入してのプレイは、まさにビンテージと呼べた。

今季からカワイ・レナードとラマーカス・オルドリッジを中心としたチームに様変わりさせるため、一歩退いた立ち位置を取ったダンカンだったが、この日はフィールドゴール14本中7本成功を含む19得点と、シーズン2番目の高得点をマーク。最大で28点差(63-91)をつけられる展開となったが、スパーズは必死の追い上げを見せ、第4Q残り3分12秒までに88-99にまで詰め寄った。

続くスパーズのポゼッションでは、トニー・パーカーとのピックアンドロールからレイアップを試みた。

ダンカンにとって通算2万385本目のシュートは、サージ・イバカのブロックに阻まれた。ひょっとすると、引退後は殿堂入り確実と言われる輝かしいキャリアで最後のシュートになるかもしれない。

スポーツにおいても、人生においても同じことだが、時の流れに逆らうことはできない。ダンカンはすでに40歳を迎え、マヌ・ジノビリは38歳、パーカーも34歳になった。年齢を重ね、衰えた体を酷使し、本来なら引退してもおかしくはない年齢を超えてもなお現役を続ける彼らは、共に4度の優勝を経験。直近の優勝は、僅か2年前のこと。すでに全盛期は通り過ぎていたにもかかわらず、頂点に立った。

ラリー・バードとスティーブ・ナッシュは、その輝かしいキャリアの最終年を腰痛と戦いながら過ごした。試合に出ていない間は、痛みを和らげるためフロアに横たわっていたほどだ。カリーム・アブドゥル・ジャバーでさえ、晩年は壁にぶつかった。コービー・ブライアントは、引退試合で60得点をあげる活躍を見せたものの、キャリア最後の2年間は、希少価値の高いファベルジェ工房製のイースターエッグのように細心の注意を払って扱われ、レイカーズはその犠牲を払った。あのマイケル・ジョーダンでさえ、ワシントン・ウィザーズ時代は現実を味わった。

まるで重力のように、年齢による衰えには逆らうことはできない。

ジノビリは、彼にとっても現役最後となるかもしれない同試合で、FG6本中1本成功と思うようにいかず、23分のプレイでファウルアウトとなった。ジノビリにとっても、再び大きな決断を迫られることになる。

(去就に関する話題には)慣れっこだよ。35、6歳になったら、こういうことになるんだね。いつも通り、時間をかけて考えるよ」。

とはいえ、ジノビリとダンカンは決断を急ぐ必要はない。彼らはこれまでもこの問題に向き合ってきたからだ。ジノビリは、もはやかつてのように縦横無尽にコートを駆ける“マッド・マヌ”ではなくなった。ダンカンも右ひざの痛みにより今年の1月下旬から8試合を欠場し、サポーターを付けた状態でシーズンを終えたことを考えれば、今季終盤、スパーズのペースが落ちたことにも納得がいく。

ジノビリは言う。

「素晴らしいシーズンだった」。

「一緒にプレイすることを楽しんだ。僕たちは本当に素晴らしいことを成し遂げてきたんだ。67勝だよ。もちろん優勝できなかったのは残念だ。だけど優勝できるのは1チームだけ。僕は14年のキャリアで、たくさん優勝してきたと思うよ」。

「このチームのメンバーとたくさんの試合を戦ってこれたこと、たくさんの試合に勝ってこれたことを誇りに思っている。特別なケミストリーがあり、素晴らしい時間を過ごすことができ、そして最高の仲間たちがいるからこそ、いつもこのチームに戻ってきたいと思えるんだ。毎回試合に勝ち、毎シーズン優勝できるなんてことはない。負けからも学び、毎日を楽しむことだね」。

レギュラーシーズン67勝15敗という球団史上最高の成績を収め、サンダーとのカンファレンス・セミファイナル第1戦に32点差(124-92)で大勝したにもかかわらず、第6戦で敗退という結果は、彼らにとってショックだろう。しかし、シリーズが進むに連れ、走り負け、リバウンドでも、気迫でも、プレイでも、あらゆる面で活力みなぎるサンダーに圧倒された。

試合終了のブザーが鳴り響く直前まで、ダンカンはコートに立ち、ディフェンスをしていた。

決着がついた後、ダンカンはスコアボードを見上げ、サンダーのほぼ全選手と健闘を称え合った。ひょっとしたら、特別な言葉をかけ合っていたのかもしれない。何故なら、サンダーの選手たちも、特別な別れの夜になるかもしれないとわかっていたから。

ダンカンは人差し指をファンに向け、頭をタオルで覆いながらトンネルを潜り、コートを後にした。今後どうなるのかという疑問を残して。

「(去就については)ここを出てから考えるよ。そして人生についてもね」。

第4Q開始の時点では、去就問題など頭の片隅にもなかったのだろう。ベンチで休む考えなど、ダンカンは持ち合わせていなかった。

原文:His season suddenly over, a decision looms for Duncan by Fran Blinebury/NBA.com(抄訳)


 

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NBA日本公式サイト『NBA Japan』編集スタッフ