NBA

C・アンソニーは今なお偉大な選手なのか?

Author Photo
Sporting News Logo

ここ2シーズン連続でプレーオフを逃しているニューヨーク・ニックスが、再建に向け、足元を固めようとしている。

シカゴ・ブルズとロサンゼルス・レイカーズでそれぞれ3連覇を成し遂げた名将フィル・ジャクソンが球団社長に就任後初のフルシーズンとなった昨季、ニックスはレイカーズ時代の教え子デレック・フィッシャーをヘッドコーチに起用し、ブルズとレイカーズで王朝期を築く原動力となったオフェンスシステム、“トライアングルオフェンス”を導入した。だが、エースのカーメロ・アンソニーの負傷離脱や、新システムが機能しなかった影響もあり、昨季の成績は球団史上最悪のレギュラーシーズン17勝(65敗)に終わった。

名門ニックス復活に欠かせないアンソニーについて、Sporting Newsのイアン・レビー記者が論じている。


カーメロ・アンソニーは、再考すべき対象になった。17勝に終わった昨季よりもだいぶ前から、アンソニーの評価は落ち始めている。“単なるスコアラー”、“チームを窮地から救いだせない選手”――。これが彼の評価になりつつある。

デンバー・ナゲッツ時代もプレーオフで勝てない日々が続いたが、ニックスでもその状況に変わりはない。しかし、チーム内の難しい状況が、キャリア全盛期にいるアンソニーから輝きを奪っているとも言えるだろう。

ここで、ボックス・プラスマイナス(BPM)というスタッツを例にあげ、アンソニーの起用法について論じたい。BPMとは、ボックススコアを基に選手の能力、貢献度を測る数値のことで、100回のポゼッションでの得点により、各選手がチーム全体のパフォーマンスにどれだけ影響を与えたかを示すもので、BPMだけを見れば、アンソニーのベストシーズンは、ニックス移籍後の3シーズン(2011-12、12-13、13-14シーズン)であることがわかる(下図参照)。

アンソニーが最も秀でているのは、その類稀な得点能力にほかならない。直近5シーズンのデータを見ると、アンソニーより多く得点を記録したのは、NBA全体を見渡しても、レブロン・ジェイムズ(クリーブランド・キャバリアーズ)と、ケビン・デュラント(オクラホマシティ・サンダー)の2人だけだ。リーグベスト3に入る得点能力を持つアンソニーが、チームの勝利に貢献できているのかどうか、それこそが大きな論点なのだ。

ニックスにトレードされて以降、アンソニーのプレーは、主に2つの点で大きく変わった。1つは、ナゲッツ時代よりも3ポイントシュートを多投するようになったこと。ナゲッツ時代は全シュートの12%が3Pだったのに対し、ニックスでは24%に増えた。

そしてもう1つは、起用されるポジションだ。Basketball-Referenceのポジション別起用率を見てみると、ナゲッツ時代にパワーフォワードとして起用されたのは、全出場時間の約10%のみ。これに対し、ニックス移籍後は、特に2年目からパワーフォワードとして出場する割合が増えた。先述のBPMの値に、3P試投数、そしてパワーフォワードで出場した時間を加えて比較してみると、奇妙な相関関係が見えてくる(下図参照)。

ポジションに関する疑問は、チーム事情、選手のスタイルなど様々な要素が絡んでくるので確かなことはわからない。ナゲッツ時代のアンソニーは、ゴール周辺でポストアップ、あるいはドライブから得点を取る傾向が強かった。しかし、たいていの場合、ビッグマン2人と一緒にプレーすることが多く、使えるスペースは限られていた。これに対しニックスにはパワーフォワードの選手が少なく、必然的にアンソニーのシュート数も増え、使えるスペースも広がった。

3Pという武器が増えたことでアンソニーの評価は上がり、より効率的なスコアラーになったという見方もある。オフェンスのレパートリーが増え、ターンオーバー率も劇的に減少した。難しいシュートをペイント内で選択するよりも、ボールを受けてジャンプシュートを選択するほうが、ターンオーバーの率は下がる。NBA史上、チームのオフェンス時のポゼッションの30%以上ボールを保持し、ターンオーバー率10%以下を記録した選手は、14人しかいない。アンソニーは、それを直近3シーズンで達成している数少ない選手の1人だ。

来季開幕前にニックスが取り組むべきことは多いが、最も重要な課題の1つは、アンソニーの起用法だろう。フィッシャーHCは、昨季、ビッグマン2人を使うラインナップの中で、アンソニーをウィングに起用した。3P試投数の増加も要因の1つだろうが、アンソニーはパワーフォワードで起用されるときのほうが、安定して良いパフォーマンスを見せている。この傾向が、フィッシャーにとって悩みの種となるかもしれない。

今オフ、ニックスはタイソン・チャンドラーの後釜として、ロビン・ロペスを獲得した。そのほかケビン・セラフィン、デリック・ウィリアムズ、カイル・オクインに加え、ドラフトではクリスタプス・ポルジンギスを指名するなど、フロントコートの選手が増加している。必然的に、アンソニーはスモールフォワードで起用される試合が増えるだろう。

つまり、ナゲッツ時代と同様に、アンソニーが使えるスペースが限られる恐れが出てくる。マッチアップのアドバンテージから、アンソニーはスモールフォワードでプレーするほうを好んでいるという情報もあるが、同じ2003年のドラフト全体1位でキャブズから指名されたジェイムズとは違い、アンソニーはオールラウンド型の選手ではない。

だが彼には、プレッシャーのかかる場面で効率的に得点を決められるという、天賦の才能がある。来季のニックスが、昨季より大幅に勝ち星を増やせるかどうかは、アンソニーにできないことをしてくれるサポーティングキャストの存在にかかっているといっても、過言ではない。

とはいえ、アンソニーは非常に優秀な選手で、キャリア全盛期でありながらも、成長を続けている。彼にとって最大の障壁になり得ることは、加齢に伴う衰えや停滞ではなく、以前のようにスコアラーの役割に専心できる環境なのかもしれない。

原文: Carmelo Anthony still can be great (especially at power forward) by Ian Levy/Sporting News(抄訳)

著者
NBA Japan Photo

NBA日本公式サイト『NBA Japan』編集スタッフ