[丹羽政善コラム第52回]クリスタプス・ポルジンギス――ブーイングを声援に変えたニックスの希望の星
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[丹羽政善コラム第52回]クリスタプス・ポルジンギス――ブーイングを声援に変えたニックスの希望の星

長く低迷するニックスの将来を担う存在として著しい成長を見せているクリスタプス・ポルジンギスの半生を辿る

2015年6月15日、ニューヨーク・ニックスがドラフト1巡目全体4位でクリスタプス・ポルジンギス(ラトビア出身)を指名すると、ドラフトの会場となったバークレーズ・センターに詰めかけたニックスファンは、ブーイングでそれに応えた。

騒然とした空気はポルジンギスが壇上に上がっても収まらず、そのことは当時まだ19歳だったポルジンギスを少なからず傷つけたものの、だからこそ、決意も固まった。

「ブーイングをしたファンが声援してくれるように、すべてを尽くす」。

その気持ちはぶれることなく、新人王こそ逃したものの、1年目の11月から1月まで3か月連続で月間最優秀新人賞に選ばれ、ファンの心をつかんだ。2年目の平均得点は1年目の14.3点から18.1点にアップ。そして今季は現在、25.8点で昨季から8点近くも上がった。

ニックスは再建中だが、わずか3年目のポルジンギスがその重責を担い、チームリーダーとしてもファンから認められる存在に。その彼の成長を辿る。

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Kristaps Porzingis Knicks

バスケ一家に生まれ育つ

ラトビア共和国の西部、バルト海に面したリエパーヤという港町で、クリスタプス・ポルジンギスは生まれ育った。海からすぐのところに家があり、幼い頃、ポルジンギスの遊び場はビーチであり、サーフィンにも興じたそう。

もっとも、一家は骨の髄までバスケットファミリーだ。父親は旧ソ連(ソビエト社会主義共和国連邦)時代にセミプロで活躍し、母親は、ラトビアのユースチームでプレイした後、コーチになった。身長193cmの父親と、185cmの母親から生まれた息子たちは、いずれも血を受け継いでプロバスケット選手となり、長男のマルティンと次男のジャニスはヨーロッパのリーグでプレイ。ジャニスと13歳離れた末っ子のクリスタプスは、生まれたときからバスケットに囲まれて育ち、ニューヨークの地元メディアの一つ『NEWSDAY』には、1歳のときにはもうバスケットボールを欲しがり、誕生日に両親が小さなバスケットボールとリングをプレゼントすると、早速ダンクをした、というエピソードも紹介されている。

そんなクリスタプスが、初めてコートに立ったのは6歳のとき。母親がローカルチームのヘッドコーチと知り合いで、練習に連れて行かれたのが、彼にとってバスケットの原風景のようだ。

もちろん当時は、友達とサッカーをしたり、卓球をしたりと、他のスポーツにも熱中したそうだが、10歳のときにはバスケットのチームで一番身長が高くなり、父親の回顧によるとこのとき、将来を意識したそうだ。

「彼はいつか、プロでプレイするのではないか」。

無論まだ、この時点でNBAをイメージしたわけではない、兄たちのようにヨーロッパのどこかで、と考えたにすぎないが、その頃から、英語の家庭教師をつけた。バスケットではヘッドコーチから飛ぶ指示や、試合中に交わされるチームメイトとの会話を理解できなければ大きなハンデとなる。将来、どこでプロになるにしても、英語が必要だという判断だ。

Kristaps Porzingis Knicks

もっとも、日本で言えば小学生のポルジンギスに、そんな親心が分かるはずもない。初めは「嫌で仕方がなかった」そうだが、英語を通して知ったアメリカ文化には興味を持った。カートゥーンや映画に熱中し、何度も繰り返し見ることで、自然に英語を覚えていったという。

「テレビ番組や映画は、一度見ただけでは内容が理解できないけど、何度も見ているうちにわかるようになった」。

ドラフト直後の会見で、流暢な英語を披露した背景には、そんなことがあった。

テレビやYouTubeでNBAの虜に

アメリカ文化に触れ、なにより彼を虜にしたのはNBAだった。テレビでやっていれば、欠かさず見る。やっていなければ、YouTubeなどでハイライトを探し、それを繰り返し見る。その影響は昔の写真にも伺える。

一時期、NBAでは髪を編み上げるコーンロウというヘアスタイルが流行った。現在では、サンアントニオ・スパーズのカワイ・レナードくらいしかいないが、かつては、アレン・アイバーソン(フィラデルフィア・76ersなど)、カーメロ・アンソニー(オクラホマシティ・サンダー)らがそんな髪型で、ポルジンギスもそれを真似た。ニックスに加わった当初、チームメイトのアンソニーとは距離があったそうだが、そんな過去を明かすと、アンソニーが爆笑し、以降、打ち解けていったそうだ。


バスケットに話を戻すと、彼は10代の前半で頭角を現しながらも、国の代表(U16)に選ばれることはなかった。体の線が細すぎたのである。15歳で身長は6フィート8インチ(約203cm)に達していたが、体重は72kg程度だった。国際大会は、各国のスカウトの目に留まる絶好の機会。それが叶わなかったものの、代理人がいくつかのヨーロッパのクラブチームにポルジンギスのビデオを送ると、スペインのセビリアから、トライアウトを受けてみないか、という連絡があった。

そのチャンスをものにしたポルジンギスは、2010年の夏、15歳でスペインへ渡っている。もちろん、トップチームで試合に出られるわけではなかったが、給料も出る。プロ契約には違いなかった。

ただそこでは、過酷な生活環境が彼を待ち受けていた。

Kristaps Porzingis Knicks

まず、寮は二人部屋。冷房がなかったため、夏はクーラーが効いているリビングルームまでマットレスを引きずっていって寝ていたという。さらに練習をしていると、ちょっとしたことで息苦しくなったり、疲れを感じた。

「コートを2、3往復するだけで体が動かなくなった。練習どころではなかった」

本人もそう振り返っているが、検査の結果、なんと栄養不足による貧血だとわかった。寮は食事付きだったものの、美味しいとは言えない。周りにはレストランがあったが、月約5万円の給料をそのためには使いたくはない。そうしているうちにどんどん食が細った。そこでチームは、栄養士に食事の指導をさせ、また、母親が毎月のようにスペインを訪れ、食事を作るようになった。体を崩した頃、ポルジンギスは、「スペインから逃げることばかり考えていた」そうだが、貧血の症状が改善されてからは、徐々にバスケットに集中できるようにもなった。

スペインで頭角を現しNBAへ

やがて、コートの上でも転機が訪れる。

2012年、セビリアはアレハンドロ・ガルシア・レネセスをヘッドコーチに迎えた。“アイト”のニックネームで知られる彼は、スペインでは伝説的な指導者だ。長く、スペインバスケット界の名門FCバルセロナでヘッドコーチを務め、2008年には代表チームのヘッドコーチを務めると、同年の北京オリンピックでは、チームを銀メダルに導いている。また、パウ・ガソル(スパーズ)、リッキー・ルビオ(ユタ・ジャズ)といったスペイン出身のNBA選手らを指導してきたことでも知られ、ポルジンギスが、同チームのトップチームでプレイを始めると、アイトの教えもあって、急成長を遂げた。

そんな弟の姿を見て、二人の兄は、「NBAに行けるのでは?」と感じ始めていた。確信に変わったのは、2013年7月に母国ラトビアで行なわれた18歳以下のFIBAヨーロッパ選手権だ。ポルジンギスは大会のファーストチームに選ばれたが、客席に陣取ったNBAのスカウト、GMらが弟に注目しているのが分かった。幼い頃から弟にバスケットを教えてきた次男のジャニスは当時を思い起こし、「まだ、NBAのコートに立ったわけではなかったが、それが想像できるようになった」と、前出のNEWSDAYの取材に答えている。

実際、2013—14シーズンが終わると、オーランド・マジックがドラフト1巡目12位で指名するとの噂が広がった。もはや、ポルジンギスにとって、NBA入りは夢ではなくなっていた。結局、もう1シーズンだけセビリアでプレイし、2015年のドラフトにエントリー。一時は、全体2位の指名権を持っていたロサンゼルス・レイカーズが指名するのでは、と言われたほど評価が高く、4位でニックスに指名されたときにブーイングにさらされたものの、シーズンが始まるとそれは消えている。

彼はドラフトの日に、ブーイングを声援に変えてみせる、と公言したわけだが、その目標を早々にクリアしたのだった。

Kristaps Porzingis Knicks

それにしても、その後の活躍はめざましい。

ドラフトされたとき、多くは彼のことを“プロジェクト”などと呼んだ。NBAで通用するようになるまで少なくとも数年はかかる、という捉え方だ。だが、実のところ、即戦力だった。

それが今や、チーム再建の要。ファンは、ブーイングを浴びせたポルジンギスに、長く低迷するニックスの将来を託す。

文:丹羽政善

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