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[丹羽政善コラム第50回]ロンゾ・ボール――“ビッグマウス”な父に育てられたレイカーズ期待の星

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先月22日(日本時間6月23日)に行なわれた今年のNBAドラフトでは、ロサンゼルス・レイカーズから1巡目指名(全体2位)されたロンゾ・ボール(UCLA出身)が話題をさらった。

UCLAに進学した時点で、今年のドラフト上位指名が確実視され、地元レイカーズとは早くから相思相愛。ドラフト抽選でレイカーズが全体の2位指名権を獲得すると、今回の指名もほぼ確実となり、レイカーズは今後、彼に再建を託すことになる。

ロンゾは3人兄弟の長男で、弟2人もUCLAへの進学が決まっており、その後揃って、レイカーズでプレイすることを目指しているそうだ。

そんな彼らの背後には、歯に衣着せぬ物言いで知られる父ラバー・ボールの存在がある。

自身は大学までバスケットボールをしていたが、ほぼ未経験なのにNFL入りを果たすという奇妙な経歴があり、3人の兄弟にバスケットの英才教育を施すと、まずは一人、NBAに送り込んだ。

その父親とロンゾ、兄弟の生い立ちは、まるで、兄弟揃ってボクシングの世界王者となった亀田三兄弟と父・史郎氏の関係にそっくり。いつか、その口が災いを招くことにならなければいいが、果たして……。

Lonzo Ball Lakers

「ロンゾはステフィン・カリーよりうまい」

ビッグマウス――。知られるように、それぞれボクシングの世界チャンピオンとなった亀田三兄弟が有名になったのは、その自由奔放で、挑発的な発言ゆえだが、もとを辿れば、彼らを育てた父親でトレーナーの史郎氏の影響なのだろう。ただ、さすがに、「うちの息子なら、マニー・パッキャオを簡単にKOできる」とまでは言わなかった。

その意味で、レイカーズに指名されたロンゾ・ボールの父親、ラバー・ボールのビッグマウスはスケールが違う。

「彼(ロンゾ)は、ステフィン・カリーよりもうまい」(17年2月)

「俺が全盛期だったときに、マイケル・ジョーダンと1対1をやれば、彼を圧倒したはずだ」(17年3月)

 「ナイキ、アディダス、アンダーアーマーは、我々の『ビッグボーラーブランド』と10億ドル(約1130億円)でライセンス契約を結ばなかったことを後悔する。ロンゾはレイカーズへ行くだろう。価値はもっと上がる。そうなったら30億ドルを払わなければならない」(17年5月)
 
最初のコメントについてカリーは、「特に話すことはない。彼らがNBAで活躍するといいね」と大人の対応。2番目に関しては後日談があり、ラバーは13対2で勝つそうだ。

「ジョーダンだから2点は取られるかもしれない。でも、彼は小さすぎて俺をガードできない」。

どう解釈すればいいのだろう。ラバーとジョーダンの身長はともに6フィート6インチ(約198cm)。また、ラバーのワシントン州立大学での成績は1試合平均2.2点、2.3リバウンド、1.0アシストだった。選手としての差は比ぶべくもない。

3番目に関しては、多少の説明が必要だが、ラバーは3人の息子をイメージして、『ビッグボーラーブランド』というブランドを立ち上げた。ドラフト前、彼はそのライセンスをナイキなどに10年総額10億ドルで買わないかと持ちかけたものの、あっさり断られ、今は、インターネットでシューズ(495ドル~)やTシャツ(50ドル~)を販売している。レイカーズに指名されれば価値が上がり、30億ドルなら考えてもいいと豪語したわけだが、残念ながら痛々しい。10億ドルをふっかけたとき、ナイキの幹部が「この100年で最悪の出来事が起きた」とコメントしたのは、有名な話だ。

息子たちに夢を託す

さて、ロンゾの話なのにどうしても父親のエピソードばかりになってしまうが、その父親がいてこそ、今のロンゾがあるのも確かだ。彼もこう言っている。

「父は計画を持っていた。今のところうまくいっている」。

バスケットボール選手だったラバーは、ワシントン州立大からカリフォルニア州立大ロサンゼルス校へ転校して出場機会を求めたもののプロ入りはかなわず、海外のチームからオファーはあったようだが、ロサンゼルスのプロアマリーグでプレイしているとき、なぜか、NFLジェッツのスカウトの目に留まった。体格的にタイトエンドもしくはディフェンシブエンドで使えるのでは、ということだったらしい。実際、94年と95年の夏、ラバーはジェッツのキャンプに参加したが、ロスターには残れず、95年9月から11月まではパンサーズの練習生となった。

フットボールでのキャリアはそこまでだったが、練習生の週給は6000ドル(現在のレートで約67万円)だったとのこと。3か月分でそれなりに稼いだラバーは、そのお金でアナハイムの北側に位置するチノ・ヒルズに自宅を購入し、大学時代に知り合い、バスケット選手だったティナと結婚。このとき、ロンゾが口にしたように“計画”がスタートする。

ラバーは、ティナにこう言ったそうだ。

「男の子を3人産んでくれ」。

Lonzo Ball LaVor Ball
左から三男ラメロ、父ラバー、ロンゾ、次男リアンジェロ

ラバーは、自分がかなえられなかったNBA選手になる夢を3人の息子に託そうと考えたのだ。

当初、学校で体育を教えていたティナが家計を支え、ラバーは、近所の子供たちを集めてバスケットの個人指導を行ない、収入を得ていたという。それはもちろん、将来を見据えてのこと。

やがてロンゾが生まれると、ラバーは当然ながら、幼い頃から息子にバスケットとトレーニングを指導。バスケットとフットボールの経験があるとはいえ全くの自己流だが、ロンゾが中学、高校で活躍し始め、2人の弟がそれに続くと、ラバーの指導も一定の評価を得て、それなりに生徒も集まるようになったそうだ。

ところで、アメリカで中学で頭角を現した選手は、バスケットの有名高校に進学し、AAU(アマチュア体育連合)のチームにも入って、さらに上を目指すパターンが一般的だが、ロンゾは地元のチノ・ヒルズ高校に進学し、自分の父親が組織したAAUのチームでプレイした。結果、高いレベルでプレイすることがほとんどなかったわけだが、ラバーは、大学に入るまでのプログラムを組み、そこに別の人の手が加わることを嫌った。高校にはもちろんヘッドコーチがいるが、ラバーには逆らえない状況だったよう。そもそも人事権を握っていた、という話もある。

実にやっかいな存在だが、それでもここまでは、狙い通りに計画が進行している。

自己流で3人の息子を育て上げる

ロンゾは低迷していた名門UCLAを今年3月のNCAAトーナメント(全米大学バスケットボール選手権)でスウィート16まで導き、レイカーズからドラフト指名。次男のリアンジェロも今秋からUCLAに入学する。末っ子のラメロは、中学の段階でUCLAから誘われ、進学を決めた。ロンゾの弟らもNBAに行けるかどうか分からないが、アメリカでは、特にフットボールとバスケットでは競争が激しく、大学へ奨学金で行けるアスリートなどほんの一握り。ラバーは3人の子供たちをそこまで育て上げた。

ちなみに次男・リアンジェロの評価は決して高くないが、父親は「UCLAは1年で終わり。ドラフトでは誰にも指名してほしくない。ドラフト外でレイカーズと契約させる」と話している。末っ子のラメロに関しては、「3人の中で、ベスト」だそう。

「史上最高の選手になるかもしれない」。

Lonzo Ball UCLA
UCLAでは1年生ながら平均14.6得点、7.6アシスト、6.0リバウンドをマークし、全米ファーストチームにも選出された
 
さて、こうしてみると、自ら子供たちを厳しく指導し、それなりに育て上げるスタイルも亀田家そっくりだ。ただ、互いにビッグマウスゆえ、敵が多いことも同じ。亀田家同様、ラバーもそれがリスクになりうる。

すでに強硬に出たばかりに、シューズのスポンサー契約交渉が破断。5年総額1000~2000万ドルとも言われたオファーをふいにしてしまった。その程度ならいいが、仮に、ルーク・ウォルトン・ヘッドコーチのロンゾに対する起用だったり、戦術を批判するようなことがあれば、ロンゾがチーム内で孤立することにもなりかねない。

いやはや、レイカーズはとんだリスクを背負ったことになるが、ロンゾ本人の選手としての評価はやはり高く、インタビューの受け答えを見る限り、良識はあるよう。彼なら、雑音の中でもすべきことに集中し、NBAでも結果を出していけるかもしれない。となるとまた、父親が調子に乗りそうだが――。

文:丹羽政善

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