[丹羽政善コラム第35回]アイザイア・トーマス(ボストン・セルティックス)――ドラフト最下位指名からオールスターに上り詰めた

[丹羽政善コラム第35回]アイザイア・トーマス(ボストン・セルティックス)――ドラフト最下位指名からオールスターに上り詰めた"小さな巨人”

NBAでは飛び抜けて小柄な体格。それでもオールスターに選ばれた“小さな巨人”の知られざる生い立ちに迫る

2011年のNBAドラフトで最下位――全体の60番目――に指名されたアイザイア・トーマスボストン・セルティックス)が、2月14日(日本時間15日)にカナダ・トロントで行なわれる第65回NBAオールスターゲームのメンバーに選ばれた。

大学までは全米屈指のポイントガードとして活躍しながら、身長が175cmと低く、NBAでは通用しないと見られた。それがドラフト順位に反映されているが、1年目から二桁得点を記録。サクラメント・キングス、フェニックス・サンズを経て3チーム目のセルティックスで、チームを担うまでに成長し、ついに念願叶った。


175cmという身長ながら、素早い動きで2メートル超える大男たちをきりきり舞いさせる

地元シアトルのローカルヒーローに

シアトルから車で10~15分ほど北にグリーンレイクという、1周6キロほどの小さな湖がある。ある日、車に乗ってその湖沿いの道で信号待ちをしていると、目の前を左から右にアイザイア・トーマス(ボストン・セルティックス)が、横切っていった。横断歩道を渡りきったトーマスはそのまま芝生の斜面を駆け下り、ジョギングコースへ向かう。確か、NBAでの1年目を終えた夏のこと。それなりに顔も売れているが、サングラスもせず、コースに合流。他のジョガーの流れに乗った。

いまさら、なのかもしれない。

生まれはワシントン州タコマ。シアトルからは車で30分ほど南に走ったところにある街だ。地元の高校に進学し、ジュニアのシーズンに平均31.2点をマークすると、全米の有名大学がマークするところとなった。高校卒業後、地元ワシントン大学へ進学すると、在籍した3年すべてでワシントン大学ハスキーズを全米大学バスケットボール選手権(NCAAトーナメント)に導き、ローカルのカルトヒーローとなる。彼の存在はそうしてシアトルの人には昔から身近だった。

ただ、仮に他の大学へ進学し、地元バスケットファンの期待を裏切っていたら、シアトルの街で呑気にジョギングなどできなかったかもしれない。実際当時、コネティカット大、ケンタッキー大、USC(南カリフォルニア大学)などが熱心に誘いを掛けており、ワシントン大はむしろ後れをとっていた。最終的にワシントン大への進学を決断したのは、シアトル出身、あるいはシアトルの高校、大学で育ったNBA選手らの存在が大きかったよう。

現在リーグには、ジェイソン・テリー(ヒューストン・ロケッツ)、ジャマール・クロフォード(ロサンゼルス・クリッパーズ)、アーロン・ブルックス(シカゴ・ブルズ)らがいて、引退した選手の中にはブランドン・ロイ(元ポートランド・トレイルブレイザーズほか)、ウィル・コンロイ(元メンフィス・グリズリーズほか)、ネイト・ロビンソン(元ニューヨーク・ニックスほか)がいるが、彼らのローカル意識は強い。

中学で注目され、高校でも期待通りの活躍を見せ、将来ワシントン大へ行ける、あるいはその先にNBAがあるという選手が出てくると、自分たちの練習に招くなど、結束してその選手がバスケットに専念できる環境を作り、悪い影響を受けないよう徹底的に守る。そこから台頭した1人が、トーマスだった。

トーマスが大学の進学で迷っていたときには、ロイが連絡をして、「もう一度、ハスキーズをNCAAトーナメントに行けるようなチームにしてくれ」と説得し、ロビンソンは、「俺が大学時代に付けていた2番をハスキーズ(ワシントン大)で付けてくれ」と口説いた。そうした先輩たちの中でも、テリーとの関係は特別のよう。『ザ・プレイヤーズ・トリビューン』に寄稿したエッセイでは、こんなエピソードをテリーが明かしている。

「たぶん俺が、初めてアイツに会ったのは、彼が6年生のときだったと思う。彼は俺の弟と同じチームで、俺のオヤジがコーチを務めるチームでプレイしていた。だからいつも俺の家の庭に来て練習をしていた。そのときのことで覚えているのは、いつも彼はなんらかの課題を持って練習していると言うことだった」。

「ある日、バスケットをしてから家に帰ると、それは確か午後9時頃だったと思うけど、家に入ったら家の壁に何かが当たっているような音が聞こえたんだ。誰かが強盗に入ろうとしているのか? と思ったんだけど、庭のほうを見たら、そこには小さなアイザイアがいた。彼は壁にボールを当てて、それをパスのようにして受け取ると、そこからシュートする、という練習を1人でしていた」。

「俺たちの近所は、みんな暗くなるまでバスケットをしているようなところだった。でもアイザイアは、他の子供たちとは違うレベルで練習をしていた。あの精神はずっと続いて、今にいたっていると思う」。

エッセイが公開されたのは1月15日。テリーが、「アイザイアはオールスターにふさわしい」としてその思いを書いたものだが、それから約2週間後、それが現実となっている。

「なにより大きな壁は、コーチの偏見を変えること」

さて、2011年のドラフトで最後(全体の60番目)に指名されたトーマスのオールスター出場は、1989年にドラフトが2巡目制となってから一番低い指名順位ということで話題になっているが、5フィート9インチ(175cm)という低い身長の点でも注目されている。6フィート(183cm)未満の選手がオールスターに選ばれたのは彼が9人目で、5フィート9インチ以下となると2人目だそうだ。

そんなトーマスは、小さな頃から父親に大人たちと練習するよう仕向けられ、身長のハンデは慣れっこ。そういう状況を生き抜く術を身につけてきた。しかし、NBAに入るときにはさすがに不安になり、身長5フィート3インチ(約160cm)、NBA史上最も低い身長ながらNBAで14年もプレイしたマグジー・ボーグスに連絡を取って、アドバイスを求めた。

そのとき、ボーグスからはこんなことを言われたそう。


「なにより大きな壁は、コーチの偏見を変えることだ。大事なのはサイズではなく、スキルだということを納得させなければならない」。

トーマスは、その助言を忘れていない。持ち前のクイックネスを磨き、バスケットを深く理解。絶対的不利といわれたディフェンスでも、しつこいマークで相手選手を翻弄。彼はコーチの偏見を変えていった。行き着いたのが今回のオールスター出場である。彼は、背の低い選手でも、特徴を生かせば通用することを証明したのだった。


2011年のNBAドラフトでキングスから2巡目60位(最下位)で指名され、NBA入りしたトーマス(左:ジマー・フレデット、中央:タイラー・ハニーカット) Photo by NBAE/Getty Images

ところで、彼の名前の由来について触れておこう。アイザイア・トーマスという名前は、1980年代後半から1990年代前半にかけて“バットボーイズ”と呼ばれ、一世を風靡したデトロイト・ピストンズを率いたポイントガードと同じである。

偶然か、必然かだが、裏にはこんなエピソードがあるという。

1988年、ロサンゼルス・レイカーズとピストンズの間でNBAファイナルが行なわれると、レイカーズが4勝3敗で制した。そのとき、トーマスの父、ジェームズ・トーマスは、友人とこんな賭けをしたと言う。

「来年のファイナルもレイカーズが勝つ! 負けたら……」。

「負けたらどうする?」。

「負けたら、2月に生まれる息子の名前を、アイザイアにする」。

息子の名前を、敵の中心選手にするというのは、レイカーズファンにとっては屈辱だが、そんな約束をしてから父親は案外、アイザイアという名前を気に入ってしまった。母親も同意。ただ、ピストンズのアイザイア・トーマスのスペルは、Isiah Thomasだが、SとIの間にAを入れ、Isaiah Thomasとした。Isaiahは旧約聖書に出てくる予言者の名前で、それに倣ったそうだ。

こうしてIsaiah Thomasが誕生。そのアイザイアは今、子供の頃から比較され、いつしか追いかける存在となったIsiah Thomasに、オールスター出場を果たして、少しだけ肩を並べた。

文:丹羽政善

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