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[丹羽政善コラム第34回]デマーカス・カズンズ――変わりつつある悪童

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11月9日、サンアントニオ・スパーズに敗れて6連敗となったサクラメント・キングス――。試合後、ロッカーに戻ったデマーカス・カズンズは、不満を抑えきれず、チームメイトの前でジョージ・カール・ヘッドコーチを罵倒した。

チームメイトにたしなめられ、「みんなの前でコーチに対してあんな言い方はない!」と言われて、さすがに反省。翌日、チームミーティングが行なわれ、かつてキングスで活躍したブラディ・ディバッツGM(ゼネラルマネージャー)が、「ジョージを解雇したほうがいいか?」と選手らに迫ると、カズンズはそれに反対し、矛を収めた。

性格が真っすぐすぎる。思ったことをすぐ口に出す。故にこれまで誤解も受けてきた。ただ、彼の生い立ちを辿れば、悲しい性が裏に透ける。


キレやすい性格は玉に瑕ながら、NBA屈指の本格派センターとして実力は誰もが認めるところ。昨季はNBA5年目にして初のオールスター出場を果たした

キングスのセンター、デマーカス・カズンズ――。リーグ屈指のビッグマンだが、“悪童”のイメージが定着し、そのエピソードを挙げればきりがない。

キングスのジョージ・カールHCとは、彼が昨年2月に就任したときから反りが合わない。そもそもヘッドコーチとのトラブルはそれだけではない。ルーキーのときにはポール・ウェストファルHCと衝突し、今でも彼が追い出したと捉えられている。

ケンタッキー大学時代にも、名将ジョン・カリパリHCと試合中に言い争った。それはテレビカメラを通して、全米に伝わるほどだった。彼の短気はそれ以前からだが、いずれにしても大学時代には多くが知るところとなり、ドラフト前にワシントン・ウィザーズのインタビューを受けたときにそのことを指摘されると、むっとした態度をしてしまったそうだ。

NBA3年目の2012年11月にはこんなこともあった。

かつてスパーズで活躍し、現在はスパーズの試合のテレビ解説を務めるショーン・エリオットが、キングス対スパーズの試合中にカズンズのプレイぶりを批判。ティム・ダンカンにトラッシュトークを仕掛けたことが、「敬意を欠く」とし、ダンカンが立て続けに得点すると、「だからこうなる」とカズンズの若さを揶揄した。試合後、そのことを伝え聞いたカズンズは、ユニホーム姿のままコート上に現れ、まだ仕事でそこに残っていたエリオットを罵った。このときカズンズはリーグから2試合の出場停止処分を受けている。

ただ、そうした中でも最も有名なのは、TNTでテレビ解説を務めるチャールズ・バークリーとの確執だろう。昨年2月、カールがキングスのヘッドコーチに就任したが、そのときキングスがカズンズに意見を求めたことに対し、バークリーが非難した。

「あいつの意見なんて聞く必要はない。彼にそんな力を与えるべきではない。コービー・ブライアント、マイケル・ジョーダン、シャキール・オニール、アキーム・オラジュワンらに意見を聞くなら分かる。彼らはそれだけの実績を残してきたのだから、それぐらいの力があって当然だ。しかし、カズンズはまだ、何の実績も残していない!」。

これに対してカズンズは、「彼のことなんて、これっぽっちも尊敬していない」と応じ、「彼が何を考えているかなんて、どうでもいいこと」と、精一杯、虚勢を張った。

同じアラバマ州出身で、ともにドラフト5位でNBA入り。思ったことをずけずけ言う点でも共通点があるものの、2人は水と油だ。

カズンズのバークリー嫌いは、高校時代に遡る。彼によれば、手厳しく批判されたという。

舞台は州のプレイオフゲーム。そこでカズンズは、レフリーの判定にたびたび不満をもらすと、立て続けにテクニカルファウルをとられて退場になってしまう。その試合を会場で見ていたバークリーは、「がっかりだ。彼が(精神的に)成長すれば、いいセンターになるのに」と囲まれた記者に話した。実際にはもっときついことを言ったらしく、それを耳にしたカズンズは今も根に持つ。

「アラバマではヒーローだった人にあんなことを言われて……。今でも昨日のことのように覚えているよ」。


ケンタッキー大学時代にはジョン・ウォール(現ワシントン・ウィザーズ)とともにプレイした

そもそも彼は、小さな頃から自分を否定されて育った。

日本の中学3年の頃には、身長が193cmを超えると、多くが年齢を疑った。

「もっと年上じゃないのか?」。

それは高校に入って本格的にバスケットを始めると顕著化する。高校生としては飛び抜けて身長が高い。それが「年齢をごまかしている」となり、嫉妬からか、試合や練習では彼よりも背の低い上級生に目の敵にされ、前歯を折った。相手チームの親、ファンも容赦ない。カズンズに聞こえるような大声で、「あのインチキ野郎を摘み出せ」と野次った。

不幸にもカズンズは、高校生にしては飛び抜けて背が高いというだけで、多感なときをそうして育ったのである。自然、彼は周りから言われることに敏感になっていった。その傾向は、今なお残る。2014年11月、NBAのライターとして著名なリック・ブッチャーが、米スポーツサイト『ブリーチャーズリポート』でこんなエピソードを紹介している。

カズンズがトレーナーと車に乗っているとき、インターネットで自分の評価を見つけた。

「おい、聞いてくれ。俺がベノイト・ベンジャミンになると書いてるぜ」。

ベンジャミンとは、1985年のドラフトで全体の3位でロサンゼルス・クリッパーズに指名されながらなかなかポテンシャルを発揮できず、6年目にシアトル・スーパーソニックス(現オクラホマシティ・サンダー)にトレードされると、残りのキャリアはジャーニーマンとなり、計9チームでプレイした選手だ。カズンズは、「誰が何を言おうが気にしないぜ」と言いながら、自分の評価をわざわざインターネットで探し、腹を立てているのである。

ただ、中学のときから彼を知っているというトロント・ラプターズのデマー・デローザンは、同記事の中で、カズンズの本当の姿をこう口にしていた。

「あいつのことをガキ大将のようだ、という人がいるけど、それはどうかな。彼のことをよく知れば、本当は気が弱い奴だって、わかると思うぜ」。

自分に自信がないのだろうか。すでに触れたように、子供の頃から否定されて育った。それを受け流す術を知らない。感情を爆発させることで抗ってきた。誰も得をしない、不器用な生き方だ。

しかし、彼も気づいている。

「納得がいかないことがあっても、それを受け入れようとはしているんだ。簡単じゃないけど、プロにならなければ」。

1月4日のサンダー戦。第4クォーター残り5分半で試合が中断している間、彼はサンダーのファンから野次られると、「あんたは、俺をやじるには年を取りすぎてるぜ」と笑いながら応じた。また、別のファンから、「あんたはウチの8歳の子供のようだ」と言われると、「なら、あんたには素晴らしい8歳の子供がいる」と返した後、ヘッドバンドをその8歳の子供にプレゼントした。11点をリードし、余裕があったのかもしれないが、彼は少し変わったのかもしれない。

同2日のフェニックス・サンズ戦でもテクニカルファウルを取られたカールHCの元へ歩み寄り、「よく言ってくれた」とでも言わんばかりにハイファイブを交わすと、苦笑いしながらコートに戻った。

文:丹羽政善

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NBA日本公式サイト『NBA Japan』編集スタッフ