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[丹羽政善コラム第32回]ドレイモンド・グリーン――王者ウォリアーズを支える影のキーマン

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「よく、こんな選手が35番目まで残っていた」

フリーとはいえ、“お前が打つな”というところから、シュートを打つ。決して綺麗とは言えないシュートフォーム。当然、レンジも狭い。ボールを持って、無理に中に入ろうともする。腰が高いから、簡単にスティールを許す。ディフェンスでも無駄なファウルを繰り返し、簡単にフリースローを与える。

ドレイモンド・グリーン(ウォリアーズ)といえば、そんなイメージしかなかったけれど、それでいて、試合の行方を左右するような場面でオフェンシブリバウンドをとったり、3ポイントシュートを決めたりする。昨季のプレイオフでは、コンスタントにダブルダブルをマークするなどして、チームを支えた。

ファンタジースポーツでチームを作るなら、選ぶような選手ではなかったのに、今や外せないタイプではないか。

選手としては遅咲き。もっとも彼の過去を辿ると、我慢して使うと、じわじわと力をつけ、評価を高めるのが一つのパターンになっている。

高校に入った頃は、名門ミシガン州立大の奨学金をもらえるようなレベルではなく、ようやく注目されたのはジュニアの時――高校に入って3年目のことだった。

大学に入っても、成長はゆっくりとしたものだった。多くのトップ選手が1年でNBAにドラフト指名されるのとは対照的で、2年になっても控え。3年目でようやくスターターとなり、4年目に平均得点とリバウンドで二桁をマークすると、ドラフト候補となった。

ただ、2012年のドラフトでも1巡目では指名されず、2巡目の指名。契約が保証されない全体の35番目だった。その選手がその3年後、5年総額8200万ドル(約100億円)で契約更新をかわす選手に成長するのである。

NBAに入ってから、最初にグリーンのポテンシャルを見抜いたのは、当時ヘッドコーチだったマーク・ジャクソンだった。2012-13シーズンの開幕当初、グリーンの出場時間は、一桁にとどまっていたが、11月の中旬を過ぎてから、二桁に達するようになった。当時、ジャクソンHCはこう話している。

「最初は、ディフェンスなら使えると思ったが、とんでもない。オフェンスの素質もある。だから、役割を決めずに使っていきたい。彼を何かの型にはめないように」。

さらにこう評価した。

「よく、こんな選手が35番目まで残っていた。確かに彼は高いジャンプ力があるわけではない。身体能力に優れているわけでもない。なのに、試合にインパクトをもたらすことができる」。

ファンの共感を呼ぶライフスタイル

もちろん、1年目から昨季のようなインパクトをもたらしたわけではないが、彼のハッスルプレイはやがて、ファンの間で人気になっていく。彼らはグリーンのライフスタイルにも好感を持った。

ウォリアーズでプレイする選手の多くは、サンフランシスコのダウンタウンかオークランドのメリット湖の近くに部屋を借りるそう。しかしそのエリアは、高級住宅街。購入するにしても借りるにしても、高額だ。するとグリーンは、オークランドの北側にあり、ごく普通の人が住むエメリービルという街にアパートを借りたのである。

それが地元紙に紹介されたときの彼のコメントがユニークだ。

「カリーが住むようなところには、住めないよ。いや、僕だってサンフランシスコに住めるかもしれないけど、破産しちゃうかもしれない」。

彼はドラフトされて、3年総額260万ドルで契約したが、通行料がかかるゴールデンゲートブリッジを渡るにも、居心地が悪かったそう。

「2つも料金所があるし、ガソリン代を考えたら……」。

その裏には、こんな思いもある。

「これまで、お金のない生活をしてきた。もう、あんな生活はしたくない。だから、しっかり今までのように節約するよ」。

昨季はテクニカルファウルの罰金だけで総額3万1000ドルも払った。そこでもう少しなんとかすべきだが、彼は今季から、テクニカルファウルの罰金用にお金をセーブしているそうだ。

「そのために、予算をとってあるんだ。少しだけどね」。

契約金をもらった途端に高級車を買って、家賃の支払いに四苦八苦するルーキーもいる中で、彼のお金の使い方は堅実だが、そんな彼が先日、人生最大の出費をしている。なんと母校ミシガン州立大に、310万ドルもの寄付をしたのである。

7月に5年総額8200万ドルで契約をしたばかり。余裕があるといえばあるのかもしれないが、それだけの契約をもらった選手は、豪華な自宅を建てたり、複数の車を所有したりと、自分のために使うのが一般的だ。それをせず、恩返しを優先するとは。そこに人柄が表れているが、310万ドルの寄付は、多くのNBA選手を輩出しているミシガン州立大にとっても最大の寄付になったそうだ。

そんな一面を知ると、彼に対する見方も変わる。おそらく、ウォリアーズのファンは彼を理解しているからこそ、ミスにも寛大なのだろう。

ただ、やはりなによりプレイぶりに共感が広がる。

決して、能力が高いわけではない。彼はそれを自覚し、汚い仕事も引き受ける。チームに1人、そういう選手がいるだけで、空気も変わる。

ウォリアーズの昨季の優勝は、必然だったのかもしれない。

文:丹羽政善

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NBA日本公式サイト『NBA Japan』編集スタッフ