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[丹羽政善コラム第28回] ラッセル・ウェストブルック ――常に全力でプレーするタフガイ

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現地4月15日の今季最終戦。オクラホマシティ・サンダーは、ミネソタ・ティンバーウルブズに勝ち、ニューオーリンズ・ペリカンズがサンアントニオ・スパーズに負ければ、プレーオフ進出という状況だったが、ペリカンズが競り勝って、サンダーの勝ちに意味がなくなった。

とはいえ、よくここまで――。

ケビン・デュラントが、開幕前の故障でシーズンの大半を欠場。サージ・イバカも3月半ばに離脱すると、そのままプレーオフ争いから脱落すると思われたが、最終戦まで緊張感のある戦いが続いた。厳しいチーム状況の中で攻守にわたってチームを支えたラッセル・ウェストブルック。これまでデュラントの陰に隠れがちだった彼の存在が際立った。

***

3月最後の試合後のロッカールーム。その日のフェニックス・サンズ戦で33点をマークしたウェストブルックは、両ひざをアイシングしながら、さらに両足首をバケツに入った氷水につけたまま取材を受けていた。

試合では、相変わらずキレのある動きを見せていたものの、実はといえば、満身創痍。シーズンも終盤に差し掛かり、体は悲鳴を上げていた。取材が終り、1人、2人と、チームメイトがロッカーを後にし始めても、両ひざ、両足首のケアは終わらなかった。

小さな体、そして故障を抱えながら、よくあそこまでハイレベルなプレーができたと思うが、3月の終わり、現インディアナ・ペイサーズの社長を務め、ボストン・セルティックス時代の1980年代には、マジック・ジョンソンらを擁するロサンゼルス・レイカーズと伝説的な戦いを続けたラリー・バードも、ESPN.comの取材に対しこんな話をしていた。

「彼はこれまで、何度も重傷を負ってきた。特にひざのケガにはキャリアを通して苦しめられてきた。しかし、彼はどんなときでもコートに立つと100%の力を発揮している。私は、彼に10年連続でMVPを獲って欲しいと思う。それぐらい、彼を支持する」。

10年連続とは大げさで、ひざのケガに関しても、キャリア通じてというほどではないが、同じような見方をする人は少なくない。大学時代のチームメイトということもあるが、クリーブランド・キャバリアーズのケビン・ラブも3月の終わり、 ラジオ番組に出演すると、「今年のMVPは誰か?」と聞かれ、「自分なら、ラス(ウェストブルックのニックネーム)を選ぶね」と話している。

「毎晩、スタッツシートで彼の数字を見ると、イバカが離脱し、デュラントも今季絶望の可能性がある中で、チームを支えているのが分かる。(プレーオフ争いで)7位、8位に踏みとどまっているのも彼のおかげではないか。ラスのほうが(レブロン・ジェイムズより)、良いシーズンを送っていると思う」。

このときラブは、「ジェイムズは、何試合か休んでいるから」と話したが、実際にはその時点でウェストブルックのほうが欠場試合数が多かったものの、それだけ大学時代のチームメイトにはタフなイメージがあったのかもしれない。

そもそもタフな選手だ。2012−13シーズンのプレーオフの第2戦目に右ひざの半月板を損傷し手術を受けたが、それまで2008年にNBA入りして以来、439試合連続出場を続けていた。半月板は、その年の10月にも手術を受け、12月の終わりに再発させて手術をしたが、復帰後は以前と変わらない動きを見せている。今季は開幕から2戦目に右手を骨折。全治まで4~6週間と診断されたものの、1カ月以内には復帰した。

冒頭でも触れたが、サンダーは今季、最終的にプレーオフを逃したものの、終盤に入ってイバカ、デュラントを欠くなかで、最後までプレーオフ争いに加わることができたのは、やはりラブも話したように、ウェストブルックのおかげといっていい。

特に後半戦は鬼気迫るものがあり、4月5日には、今季11度目のトリプルダブルを達成。2月24日から3月4日までは、4試合連続でトリプルダブルをマークしている。最終的には、1試合平均28.1点で、元チームメイトのジェイムズ・ハーデン(ヒューストン・ロケッツ)をかわして、得点王になった。本人に言わせれば、「無意味だ。これで、家で他の選手がプレーオフを戦うのを見ることになるのだから」という程度のものらしいが……。

さて、今やそんな彼の力を疑う人はいないが、原動力を辿ると、高校時代に行き着く。

高校時代、彼は有名大学から注目されるほどの選手ではなかった。同じ高校には、ケルシー・バーズ IIIという、ウェストブルックの幼馴染みで、イリノイ州のデポール大学、地元のUCLAなどから誘われていた選手がいて、大学のスカウトが高校の試合を見に来るとしたら、彼が目当てだった。

当時、ウェストブルックの身長は172cm程度しかなく、彼はバーズと同じ大学に行きたいと考えていたものの、それは無理と見られていた。実際、彼らは大学で一緒にプレーしていない。ある土曜日の午後、バーズは、友人や数人のチームメイトとバスケットをしているときに倒れ、そのまま息を引き取ったのだ。拡張型心筋症が原因だった。

その日、当初は一緒にバスケットをする予定だったウェストブルックだが、何かの理由で参加しなかった。最後の時を過ごせなかった彼は、自分を責めた。葬儀にも足を運べなかった。代わりに、彼はバーズに誓った。

「これまでの倍の努力をする。そして、彼のためにプレーする」。

以来、彼は変わった。

身長が伸びたこともあるが、高校の練習が午後9時に終われば、9時からは父親と11時まで練習した。すると奇しくも、バーズに奨学金のオファーをしようと考えていたUCLAから、「ウチでプレーしないか」と誘われた。

ウェストブルックは、ESPNの取材に対して、「ある意味、彼のためにプレーしているところがある」と認める。

「俺たちはいつも一緒だった。それが突然、終わりを告げた。以来、いつも彼と彼の家族のことを考えている」。

UCLAでは2年間プレー。2年目にはケビン・ラブが入学し、2人が中心となってNCAAトーナメントのベスト4に進出。その年、2008年のドラフトでは、ウェストブルックが全体の4位でシアトル・スーバーソニックス(現サンダー)に指名されると、5位でラブがメンフィス・グリズリーズにドラフトされ、その後、ティンバーウルブズにトレードされている。

4位で指名されたとき、ソニックスの決断を訝しがる声があったのは確か。ウェストブルックにはそこまで選手ではない、との評価があったのだ。しかしながら、その後の活躍は知られる通り。現在、NBAでも屈指のポイントカードになった。そして、どこかに故障を抱えようが、全力でプレーする。

それも、友人の死と無関係ではないようだ。

「彼が死んだあと、自分はコートですべてを出そうと考えた。なぜなら、彼がいつも100%を出していたからだ。これからも俺は全力でプレーする。明日は、どうなるかわからないから」。

彼は今、手首にラバーブレスレットをつけてプレーしている。

そこには、 “KB3”という亡き友バーズのイニシャルが記されている。

文:丹羽政善

 

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