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大ベテランJ・テリーの大いなる経験

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今季のレギュラーシーズンからチームとしてのまとまりが生まれたヒューストン・ロケッツが、窮地に立たされている。ゴールデンステイト・ウォリアーズとのウェスタン・カンファレンス決勝に進出したものの、第1~3戦まで連敗を喫し、もう後がない状況に追い込まれた。そんな危機的状況にもかかわらず、ベテランのジェイソン・テリーは動じていない。その背景には、彼の経験が大きく関与しているようだ。NBA.comのイアン・トムセン記者が、そんなテリーについて綴った記事を紹介しよう(以下、トムセン記者のコラム抄訳)。

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16年目のトレーニングキャンプが始まる数週間前だった。当時サクラメント・キングスでプレーしていたジェイソン・テリーは、ドラフト2巡目指名権2つとのトレードで、ヒューストン・ロケッツに移籍した。

テリーと言えば、2010-11シーズンにダラス・マーベリックスで悲願の優勝を果たした大ベテランで、マブス時代にはジェイソン・キッド、ボストン・セルティックス時代にはケビン・ガーネット、ポール・ピアース、そしてドク・リバースの薫陶を受けている。そんな彼がロケッツにトレードされた当時、チーム内は上手くまとまっていなかったという。

「今シーズン開幕前にチーム外から聞こえてきたのは、このチームのコミュニケーションレベルは良くないということで、それは非常に重大な問題だった。実際に難しい状態だったので、チームに来てまず、リーダーであるドワイト(ハワード)とジェイムズ(ハーデン)と話をした。『お前たちがほかの選手とコミュニケーションを取らないと、彼らも何も言ってこなくなるぞ』と伝えることから始めた。チームメイトには声をかけないといけない。悪いプレーをしたときには、『しっかり自分の仕事をしろ』とか、逆に良いプレーをしたときには、『今のは凄く良かったぞ』とか、言葉で伝えることが重要なんだ。それこそ、今シーズンの僕らが成功した最大の理由だね。僕が思うに、優勝したマブスを除いて、コミュニケーションレベルでは、このチームがベストじゃないかな。それが結果に表れているよ」。

ウォリアーズとのカンファレンス決勝第1戦でも、ロケッツは第4クォーター途中までは敵地で対等以上に戦えていた。ケビン・マクヘイルHCがアシスタントコーチ陣と戦術を検討している最中、テリーはチームメイトの前で、およそ1分間、チームを勇気づける言葉をかけた。その際、4年前マブスで優勝したシーズン前に右腕の上腕部分に彫った、ラリー・オブライエン・トロフィーのタトゥーを見せ、「強くなれ。強い気持ちを持って、向かっていけ!」と、自信を持ってドライブを仕掛けるよう説いたという。

マブスでともに優勝を達成したコーリー・ブリュワーは、テリーについて「選手兼任コーチのような存在」と話すなど、絶大な信頼を寄せている。テリー自身がチームにポジティブな影響を与えていると感じたのは、古巣マブスとのカンファレンス1回戦のときだった。そのときのことを、本人はこう振り返っている。

「ハーフタイムに入る前だったかな。マクヘイルHCに、『ジェット、皆に話をしてやってくれ』と言われてね。具体的に何を言えばいいかの指示はなかったけれど、彼らが必要としていることはわかっていた。その結果、第3戦(ハーデンがプレーオフ自己最高の42得点、ハワードも同じくプレーオフ自己最高の26リバウンドの活躍を見せ、ロケッツが130-128で競り勝った)に繋がったと思う。僕の中では、まだ優勝レベルに到達するプレーではなかったけれど、爆発力のある試合だった」。

現状で判断するならば、カンファレンス決勝敗退が濃厚と言わざるを得ない。そうなれば、テリーは今オフに、17年目のシーズンを迎えるかどうかを決めなければならなくなる。普段から努力を惜しまず、勤勉な姿勢でバスケットボールと向き合うことで知られるテリーにとって、最大の自信になったのは、言うまでもなく優勝経験だった。

「この上ないくらいの自信になった。神様を信じること、普段の練習、この競技に捧げてきたこと、それらすべてが自信になった」。

憧れの存在だったアイザイア・トーマスも、デトロイト・ピストンズで初優勝を達成するまで時間を要した。ゲイリー・ペイトンも、マイアミ・ヒートに移籍後、現役を引退する直前まで優勝できなかった。そしてジェリー・ウェストも、ロサンゼルス・レイカーズで初の栄冠に輝くまで、誰よりも辛抱強く待ち続けた。

「彼らの経験が僕のモチベーションになっている。いつか、僕のストーリーを話すときがくるかもね」と語ったテリーは、目標に掲げる2度目の優勝を果たせたとき、古巣マブスに言いたいことがあるようだ。

「(2度目の優勝を達成できたら)ある球団に、『君たちより俺のほうが1つ多くリングを持っているぜ』と言ってやりたい」。

ただ、ほくそ笑む瞬間を得るには、最低あと1年、待つことになるかもしれない。

原文:In first season with Rockets, Terry's voice is heard by Ian Thomsen /NBA.com(抄訳)

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