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ホーレス・グラント「Bリーグで活躍することがNBAでデビューするための第一歩になることを望んでいる」

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――ようこそ日本へ。日本にはどのようなイメージを持っていますか?

今回が2度目の来日で、前回の来日は1996年に東京ドームで開催されたオーランド・マジック対ニュージャージー・ネッツの試合だから、かなり昔になるね。そのときに抱いたイメージは、日本人が非常に親切だということと、街の雰囲気が素晴らしいということだね。それから、なんといっても寿司が美味しかったよ!

――あなたがブルズでプレイしていた頃、多くの日本人があなたがたのプレイを観てNBAのファンになり、日本にNBAブームが巻き起こりました。NBAの試合が日本のファンに与えるインパクトや興奮について、どのように考えますか?

我々のチームだけでなく、多くのNBAチームが日本で試合をしたと思うし、テレビでもたくさんNBAの試合が放送されてきたと思う。その全てに共通するのが、試合への情熱だ。そこには、プレイする側の選手の情熱だけではなく、観戦する側のファンの情熱もある。それらが合わさって、バスケットボールという競技を形作っているんだ。

――あなたのトレードマークだったゴーグルについて聞かせてください。あなたはNBA選手になるまで自分の視力が低いことに気付かなかったそうですが、それは本当の話ですか?

本当の話だよ。ルーキーの頃、私が本を顔の間近に寄せて読んでいる姿を見て、当時のブルズのアシスタントコーチが「君は間違いなく目が悪いから、眼鏡をかけなさい」と指摘してくれたんだ。それからゴーグルを着用するようになり、いつしかそれが私のトレードマークになったんだ。

――ゴーグルを着用してプレイすると、汗でレンズが曇ったり、フレームが視界を遮ったりして、裸眼と比べて視野が狭くなると思うのですが、どのように対処してプレイしましたか?

ゴーグルを着用しはじめた頃は視野が狭くなったと感じたけれど、ゴーグルを何度も改良していくことで徐々に改善していったよ。例えば、目の横の位置にあるフレームをカットしたりね。レンズの曇りについては、曇り止めスプレーを塗るのが一番有効だった。解決法は1つではないから、いろいろな対処法を試すことが大切だよ。

――あなたはキャリアを通して、マイケル・ジョーダンやコービー・ブライアント、シャキール・オニールといった素晴らしいスコアラーと一緒にプレイしました。彼らはボールを持つ時間が長く、他のチームメイトと比べてシュートもたくさん打ちます。それにもかかわらず、あなたは通算で1試合平均11.2得点、8.2リバウンドというダブルダブル級の成績を残しました。彼らのようなスコアラーと一緒にプレイする際、あなたはどのようなプレイを心がけたのですか?

最も大事なのは、彼らのような素晴らしい選手と一緒にプレイできることに感謝し、常に謙虚な気持ちで試合に臨むことだ。そして、彼らのプレイをよく見て、チーム内での自分の役割を見つけ出すんだ。例えば、私は「彼らがたくさんシュートを打つのだから、自分はリバウンドをきっちり取る。そして、彼らにディフェンスが集中して自分がオープンになったときには、確実にシュートを決める」という役割を見出した。そのおかげで、私は優秀なリバウンダーになることができたし、平均で二桁得点を記録することもできた。彼らはNBA選手の中でもとりわけ多くのシュートを打つ選手たちだったから、私はたくさんのオフェンシブリバウンドを取れたし、そこから得点につなぐこともできたので、とても幸運だったね(笑)

――あなたは、ジョーダンやコービー、オニール、カール・マローン、ゲーリー・ペイトン、アンファニー・ハーダウェイといった偉大な選手たちと一緒にプレイしました。彼らの中で、誰が一番プレイしやすい選手でしたか?

彼らは本当に素晴らしい選手たちで、彼らと一緒にプレイできたことを今でも心の底から感謝しているよ。その中で一番プレイしやすかった選手を挙げるとしたら……シャキール・オニールだね。私は、オーランド・マジック時代とロサンゼルス・レイカーズ時代に彼と一緒にプレイしたが、彼ほどの“試合を支配する力”を持つ選手をほかに見たことがない。オニールがインサイドでボールを持つと、相手チームのディフェンスは彼に集中しないといけないから、私は彼のパスアウトからたくさんフリーのミドルシュートを決めることができた。あれは本当に快適だったね(笑)

――では、もしあなたがまだ現役でプレイしていたとして、あなた以外の4人の先発選手を現役選手の中から選ぶとしたら、誰を選びますか?

ハハハ。私はさすがにもうプレイできないから、監督ということにしてくれないかな?(笑)。まず私がチームに入れたい選手は、もちろんレブロン・ジェームズだ。ポイントガードはステフィン・カリーだね。センターはデマーカス・カズンズがいいだろう。パワーフォワードにはカーメロ・アンソニーを選ぶ。シューティングガードにはクレイ・トンプソンを入れよう。彼はたくさんシュートを決めてくれるからね(笑)

――昨今、NBAの試合は大きく変化しました。戦略面ではスモールラインナップが主流になり、イリーガルディフェンスやハンドチェックなどのルール変更もありました。今のNBAにはタフさが足りないと思うことはありますか?

きっと多くのNBAファンが、バスケットボールのフィジカルな面を楽しみたいと思っているはずだ。選手が怪我をしないように細心の注意を払うのが大前提だけれど、ハンドチェック等のタフなプレイもバスケットボールの一部だからね。ルールの変更によって多くのシュートが決まるようになり、NBAの試合はエキサイティングになったけれど、個人的には、激しいディフェンスをする試合を観たいと思っているよ。80年代のような激し過ぎるディフェンスはオススメしないけれどね(笑)

――あなたはとてもタフな選手で、現役時代ほとんど試合を休みませんでした。そんなタフなあなたは、最近のNBAチームが計画的に主力選手を休ませることについて、どう考えますか?

最近(スコッティ)ピッペンとも話していたのだけれど、我々の時代は、チームが計画的に選手を休ませるなんてことは想像もできなかった。例えば当時のブルズだと、まず我々は徹底的に相手を叩きのめして早々に勝利を確実にするんだ。その後、ジョーダンやピッペンや私は悠々とベンチで休むのさ。そうやって主力がベンチで休むことで、ベンチプレイヤーが経験を積んで成長することができる。しかし、我々のやり方と、最近の計画的に主力選手を休ませるやり方とは、全く別の話だと思うよ。

――あなたと同じクレムソン大学出身のトレバー・ブッカー(ブルックリン・ネッツ)は、あなたと同じようにタフでエネルギー溢れる選手だと思います。そういったプレイスタイルは、クレムソン大の伝統なのでしょうか?

ブッカーのプレイを見たことがあるし、直接会って話をしたこともある。彼からは、確かに私と似たものを感じるね。クレムソン大出身のNBA選手は、ほかにもデイル・デイビスやエルデン・キャンベルがいる。そういった傾向を見ると、タフでフィジカルなパワーフォワードは、クレムソン大の伝統と言えるだろうね。


Illustration by Mizuho Nishio

――今夏、ケビン・デュラントがフリーエージェントでゴールデンステイト・ウォリアーズに加入し、彼らはスーパーチームを結成しました。あなたがプレイしたブルズやマジックやレイカーズもスーパーチームと呼ばれていましたが、あなたたちのスーパーチームとウォリアーズのスーパーチームは別物だと思います。なぜなら、デュラントは、昨年チャンピオンになったウォリアーズに加入しました。しかも、そのウォリアーズにはすでにカリー、トンプソン、ドレイモンド・グリーンという3人のスター選手がいます。それに対して、あなたたちはスター選手を集めるのではなく、選手自身が成長し、その結果スーパーチームと呼ばれるチームになったと思います。あなたは、デュラントがチャンピオンチームへの移籍を選んだことをどう思いますか?

我々のチームは、「優勝」という1つの目標を目指してチーム全員が一緒に成長を遂げた。当時も、選手たちはフリーエージェントで自分が望むチームに移籍することは可能だったが、例えばジョーダンがブルズを去ってデトロイト・ピストンズやニューヨーク・ニックスに行ったり、ラリー・バードがマジック・ジョンソンと一緒にプレイするためにレイカーズに行ったり、マジックがバードと一緒にプレイするためにボストン・セルティックスに行くなんて事態は決して起こらなかった。そう考えると、今の世代のプレイヤーとは全く考え方が違うんだろうね。今シーズンのウォリアーズに関して1つ言えるのは、4人のスコアラーが同時にコートに立ってボールをシェアするのは非常に難しいだろうということだね。

――ウォリアーズは、デュラント獲得のために多くのロールプレイヤーを放出しました。控え選手層の薄さが今シーズンのウォリアーズの弱点と見る意見も多いですが、NBAでの優勝を狙うにあたり、ロールプレイヤーはどれほど重要になるとお考えですか?

いろいろな役職の人がいて初めて会社経営が成り立つのと同じようなもので、NBAで優勝するためには、ロールプレイヤーは必要不可欠な存在だよ。ウォリアーズが昨年チャンピオンになれたのも、控え選手が良い働きをし、先発選手のうち数人がロールプレイヤーの役割を引き受けたからでもある。しかし、今シーズン、ウォリアーズはロールプレイヤーを数多く手放してデュラントを獲得するという非常にリスクの大きい賭けに出た。それがどういう結果になるか、注目したいね。

――あなたは4度NBAチャンピオンに輝きましたが、そのときのヘッドコーチはいつもフィル・ジャクソンでした。彼は他の監督とは違うと思いますか? 

フィルは、我々選手にとって指導者であり師匠であり、それと同時に、監督と選手という関係を越えた親友のような存在なんだ。彼は、選手1人1人のことを深く理解していて、それぞれの選手が自分らしくプレイできるようにしてくれる。そして彼は、選手全員がチームのためにプレイすることの重要性をいつも強調していた。フィルが特別な監督だと言われる由縁は、そういったところにあると、私は思うよ。

――あなたは3連覇(1991~93年、ブルズ)を達成しました。その間、毎シーズンどのようにしてモチベーションを保ったのでしょうか?

モチベーションを保つのは全く難しくなかったよ。ひとたび優勝の喜びを知ると、また来シーズンも、そして永遠にその喜びを味わいたいと思うからね。チャンピオンというのは、それほどまでに素晴らしいものなんだよ。それに、毎年「今シーズンはこういうチームを作りたい」という新たな目標があったからね。

――当時のブルズは3連覇してダイナスティ(王朝)を築きました。昨今はダイナスティを築くことが難しくなっていますが、今後、誰が、そしてどのチームがダイナスティを築く可能性があると思いますか?

昨年ウォリアーズが優勝したときには、彼らがダイナスティを築くと思ったよ。しかし、彼らはそれを達成することができなかった。NBAで3連覇するのは、本当に難しいことなんだ。トレードやフリーエージェントで毎年のようにリーグの勢力図が変わるしね。それを踏まえた上で、ウォリアーズがダイナスティを築く可能性が一番高いと予想するよ。デュラントがチームにフィットしたら、という条件付きでね。

――あなたはブルズのスペシャルアドバイザーに就任しましたが、今シーズンのブルズはどうでしょう?

とても期待できるシーズンだと思うよ。ラジョン・ロンド、ドウェイン・ウェイド、ロビン・ロペス、そして私の甥のジェリアン・グラントといった素晴らしい選手が加入したし、リオデジャネイロ・オリンピックでさらなる成長を遂げたジミー・バトラーが今シーズンもチームを牽引するはずだ。もし全員が健康でいるならば、クリーブランド・キャバリアーズやトロント・ラプターズといった強豪を押しのけてイースタン・カンファレンスのトップに立てると思っているよ。

――先ほど名前が出ましたが、あなたの甥のジェリアン・グラントが今シーズンからブルズに加わります。新しいチームでの彼の役割はどのようになると思いますか?

まずは、同じポジションのロンドやウェイドから多くを学んでほしいし、日々の練習で彼らに挑戦し続けてほしい。目標とすべき最高の選手たちがチームにいるというのは、とても貴重なことだからね。そして、ひとたび試合に出場する機会を得たら、コート上で全力を尽くしてほしい。

――日本のバスケットボールに関して質問させてください。あなたは今まで日本人選手のプレイを見たことがありますか?

かなり昔になるけれど、NBAでプレイした田臥勇太のハイライトをESPNで見たことがあるよ。直接目の前で日本人選手のプレイを見たことはないので、Bリーグ開幕戦を見るのを楽しみにしているよ。

――男子のバスケットボール日本代表チームは、オリンピック最終予選で敗退し、リオデジャネイロ・オリンピックに出場することができませんでした。2020年の東京オリンピックに向けて、彼らが世界の強豪と対等に戦うには、どのような意識を持つべきでしょうか?

何よりも重要なのは、コートの内外を問わず、バスケットボールへの情熱を常に持ち続けることだ。また、日々練習を重ねて個々の技術に磨きをかけることはもちろんのこと、チームの一員として、チームメイトの良き味方となり、チームを成長させるという意識を持つことが大切だ。こういった日本代表チームの強化という観点から見ても、Bリーグという新しい統一リーグがスタートすることは、日本のバスケットボールの成長にとってとても意味のあることだと思うよ。

――最後に、あなたはBリーグの開幕に立ち会いますが、Bリーグがどのようなリーグに成長することを望みますか?

Bリーグの開幕に立ち会えることを大変光栄に思っている。将来的には、日本人選手にとってBリーグで活躍することが、NBAでデビューするための第一歩になることを望んでいるよ。

取材:西尾瑞穂 Twitter: @jashin_mizuho Instagram: jashinmizuho, 及川卓磨(NBA Japan編集長) Twitter: @oitaku


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