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[杉浦大介コラム第72回]ケリー・オリニク インタビュー「八村塁は素晴らしい才能に恵まれたプレイヤー」

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Kelly Olynyk Heat

ジョン・ストックトン、アダム・モリソン、ロニー・トゥリアフ、ドマンタス・サボニス……etc。これまでゴンザガ大学は多くのNBA選手を生み出してきた。“マーチマッドネス”と呼ばれるNCAAトーナメントの常連でもあり、昨季のゴンザガは初のファイナル進出を達成。その主力選手だったザック・コリンズも、今年度のドラフト全体10位でポートランド・トレイルブレイザーズから指名を受けている。

決して大都市とは言えないワシントン州スポケーンにあるカレッジからなぜこれほど多くのNBAプレイヤーが飛び出してくるのか。今年、ゴンザガ2年目を迎える八村塁も、“未来のドラフト上位指名候補”という一部からの期待通り、NBAに近づいていけるのか。それらの問いを、2013年までゴンザガ大に所属し、現在はマイアミ・ヒートでプレイするケリー・オリニクにぶつけてみた。

昨季までプレイしたボストン・セルティックスでは献身的なロールプレイヤーとして評価されたオリニクは、今オフにヒートから4年5000万ドルの契約を受け取ったばかり。26歳のゴンザガOBの言葉からは、母校への愛情とその強さへの信頼が透けて見えてくるかのようだった。


――2017-18シーズンのゴンザガ大をどう見ますか?

去年のチームから多くの選手が抜けたけど、ゴンザガ大のプログラムは信じられないほどにしっかりしている。新チームの中でも誰かが確実にステップアップしてくるはず。今年も間違いなく良いチームを作ってくるよ。

――ジョナサン・ウィリアムズ、キリアン・ティリーといった好選手は残っていますが、それでも昨季の8人のローテーション選手のうちの5人が抜けました。昨季の成功を繰り返すのは難しいという見方が一般的ではあります。

もちろん簡単なシーズンにはならないだろう。未知数の部分も多いから、チーム作りが落ち着くまでには時間が必要かもしれない。ただ、名前を挙げてくれたように、去年も素晴らしい実績を残した選手が何人か残っていて、まずは彼らが引っ張っていってくれる。他の若いたちが徐々にでも力を出し始めれば、最終的には良いチームになっていくはずだ。

――八村塁も2年生のシーズンを迎えます。八村に会ったことは?

ああ、あるよ。

――選手としての彼の印象は?

素晴らしい才能に恵まれたプレイヤーだ。“フィジカル・フリーク”という形容が相応しいくらいさ。ゴンザガではまずはシステムを学び、このチームでのプレイの流れを知らなければならなかった。そういった面では、まだ粗削りと言えたのかもしれない。ただ、スキルやフィジカルのツールを備えていることは明白だ。本領発揮までには少し時間がかかるかもしれないが、経験を積めば、エリートプレイヤーになれるだけのものは持っていると思う。

――英語でのコミュニケーションは依然として課題と言えますか?

英会話がもっと円滑になったら、大きな助けになるだろうね。それができればより高いレベルでゴンザガのバスケットボールを理解できるようにもなる。戦術を学べば、プレイ時間が増えることにも繋がる。さっきも話したけど、彼はすでに十分なフィジカルの強さ、身体能力、スキルを持っている。それだけに頼ることなく、最初はコミュニケーション面でミスを犯しても良いから、失敗から多くを学んで欲しいと願っている。

――ワシントン州スポケーンという大都市とは言えない街にあるゴンザガ大がなぜこれほどの人材を輩出し、毎年のように強いチームができるのか説明してもらえますか?

とにかくチームの雰囲気が素晴らしいんだよ。まずリクルートの段階で、素質に恵まれているだけでなく、キャラクターも踏まえて選手を勧誘する。だから所属しているのはハードワーカーで、暇があれば練習場に入り浸るようなプレイヤーばかりなんだ。

Kelly Olynyk Heat
ヒート移籍1年目の今季はここまで開幕6試合を終えた時点で平均12.5得点とキャリアハイのアベレージをマークしている

――街、スクール全体に一体感があると言えますか?

その通りだね。多くの選手が1年だけ所属して離れてしまうような環境ではない。そこでカルチャー、ファミリーを作り上げる一部になりたいという気概を持った人材が集まってくる。一度そこに加われば、みんなが助け合おうとする。街全体がチームをサポートしてくれるし、コーチ陣も安定している。そんな雰囲気、環境だから、チームプレイから外れるものが出てこないんだ。

――マーク・ヒューHCもとても評判が良いですが、どういった点が素晴らしいんでしょう?

彼は何があろうと選手たちの味方をし、背後から支えてくれる。もちろん練習の際は誰に対しても厳しく、それぞれのポテンシャルのすべてを引き出そうとする。才能を無駄にすることへの我慢はなく、妥協は決して許さない。選手たちはみんな若いから、ゴンザガに属している若い頃にそのすべてを理解することはできなかいかもしれない。ただ、いつかすべてに気づき、ゴンザガのプログラムとコーチの指導に感謝する日が来る。彼はそういったコーチなんだ。

――個人としてはゴンザガ大での1年生時には平均3.8得点、2年生時には5.8得点と平凡な成績だったのに、1年間のレッドシャツ(練習には参加するが、ゲームには出場できない)を挟み、2012-13シーズンは平均17.8得点、7.3リバウンドと大活躍し、2013年のドラフト指名に繋がりました。一気に数字が伸びたこの1年の間に何があったんでしょう?

2011-12シーズンをレッドシャツとして過ごしたことは様々な意味で大きかった。その間はゲームで結果を出すことを考えず、自分がなりたい選手を目指し、技術を磨くことができた。また、自分的に準備が整って迎えた2012-13シーズンのゴンザガが素晴らしいチームだったことも大きかった。NCAAトーナメントに第1シードとして臨んだほど強いチームだった。優れたチームメイトとプレイできて、そんな環境の中で僕の力も引き出されたんだろう。

文:杉浦大介  Twitter: @daisukesugiura

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杉浦大介 Daisuke Sugiura Photo

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。