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[杉浦大介コラム第71回]NBAドラフト2017分析:運命の1日に起きた様々なドラマ

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NBA Draft 2017 76ers

6月22日(日本時間23日)、ブルックリンのバークレイズ・センターでNBAドラフトが開催された。ロサンゼルス・レイカーズ、ボストン・セルティックスといった大都市チームが上位指名権を持っていることもあってか、注目度は事前から高かった。そして、ドラフト開始後、アリーナに陣取ったファン、メディア、関係者がどよめくまでにそれほど長い時間は必要なかった。

アダム・シルバー・コミッショナーが全体1位指名選手を発表したのはアメリカ東部時間で午後7時半を少し回った頃。ほぼ時を同じくして、ミネソタ・ティンバーウルブズがジミー・バトラーを獲得する大トレードが合意に近づいているという報道がインターネット上を駆け巡った。記者たちが陣取るプレスボックスも騒然。ここでドラフトの現場は一気にヒートアップしたのだった。

波乱の幕開けとなった“運命の1日”。その後も順当な指名があれば、意外なものもあり、様々なドラマが展開された。そんな2017年のドラフト当日、大きくチーム力を上げたのはどのチームだったのか。“勝者”と“敗者”を独自に選定し、同時に今後のリーグの行方も占っていきたい。

勝者1
ミネソタ・ティンバーウルブズ

ドラフト指名された選手、トレードで移籍した選手を問わず、この日に動いた中でベストプレイヤーが誰かといえば、少なくとも現時点で、その問いの答えがジミー・バトラーであることに異論の余地はあるまい。

ブルズの大黒柱として君臨してきたバトラーは、昨季も平均23.9得点、6.2リバウンド、5.5アシストと好成績をマーク。自身初のオールNBAチーム(サードチーム)入りを果たしたことから見ても、充実のシーズンを過ごしたことは明らかだ。ペリメーターの守備力にも優れ、今やリーグ屈指のツーウェイプレイヤーとして確立した感がある。

このバトラーを獲得するため、ウルブズは今回のトレードでそれほど大きな犠牲を払ったわけでもない。保持していた全体7位指名権をブルズの16位指名権と交換したのに加え、2人の主力選手を放出したが、そのうちの1人であるザック・ラビーンは故障明け、もう1人のクリス・ダンも昨季は期待外れの成績に終わっていた。そんな背景から、このトレードをまとめたウルブズのフロントを称賛する関係者は後を絶たない。

これでウルブズはカール・アンソニー・タウンズ、アンドリュー・ウィギンズ、バトラーという個性豊かな“新ビッグ3”を手に入れたことになる。そして、トム・シボドーHCとはブルズ時代から馴染みのバトラーは、“守備力”、“ベテランの経験”という昨季のウルブズに欠けていた要素を供給できる。

様々な意味で理に適った補強策だ。来季にウルブズが“ケビン・ガーネット時代”以降では初のポストシーズン進出を果たしたとすれば、ドラフト当日の電撃トレードが改めて振り返られ、特筆されることになるかもしれない。

勝者2
フィラデルフィア・76ers

ドラフト直前のトレードでセルティックスから全体1位指名権を獲得した時点で、76ersが“ウィナー”になることは確定していた。予想通り、76ersは今ドラフト最高の選手との呼び声高いマーケル・フルツ(ワシントン大)を指名。これで昨季の新人王最終候補にノミネートされたジョエル・エンビード、ダリオ・サリッチ、昨年のドラフトの全体1位指名選手だったベン・シモンズと合わせ、フィラデルフィアに実に魅力的な若手コア・カルテットが誕生したことになる。

全体1位指名権と引き換えに今年の3位指名権と将来の1巡目指名権をセルティックスに放出しており、払った犠牲も大きい。しかし、再建を狙うならどこかで勝負に出なければならず、チーム側は今こそがその時だと考えたということ。そして、フルツにはそれだけの価値があると判断したということだろう。

カレッジでの1年間で平均23.2得点、5.7リバウンド、5.9アシストをマークしたフルツは、得点、パスのどちらもこなせるポイントガードとの呼び声高い。エンビード、シモンズとの相性も良さそうで、即戦力との期待がかかる。まさに“ヤングタレントの宝庫”となった76ersは、来季屈指の注目チームになる。

“トラスト・ザ・プロセス(躍進の過程を信じろ)”が合言葉になってきたチームが、ついに収穫の時期に突入した。新たな“コアフォー”がコンディションを保てば、76ersの前途は明るい。2017-18シーズンは、2012年以来となるプレイオフ進出も有望だ。

NBA Draft 2017 Celtics
セルティックスが全体3位で指名したジェイソン・テイタムの評判は上々だが…

敗者1
シカゴ・ブルズ

チーム内のベストプレイヤーだったジミー・バトラーを放出し、これからブルズは新たなチーム作りを開始する。過去2年のブルズはプレイオフでのシリーズ勝利なしだったのだから、その決断が悪いとは思わない。しかし、年齢的にも今が全盛期、過去3年連続でオールスターにも選ばれたフランチャイズプレイヤーをトレードするなら、もっと多くの見返りが望めたのではないか。

2月に左ひざ前十字靭帯の断裂という大ケガを負ったザック・ラビーンが、今後もこれまでのような身体能力を発揮できる保証はない。去年のドラフト全体5位でウルブズに入ったクリス・ダンも、昨季は新人王候補に挙げられながら、78試合で平均17.1分をプレイし、3.8得点、2.4アシストと低調たった。ウルブズが全体7位で指名したラウリー・マルケネン(アリゾナ大)の交渉権まで含めても、交換要員がバトラーに釣り合うとはとても考えられない。

攻守の要が不在になり、来季のブルズが多くの勝ち星を挙げるのは難しいだろう。そんな状況下で、1年2400万ドルのプレイヤーズオプションを行使することをすでに表明しているドウェイン・ウェイドとチームの関係も微妙になる。総合的に見て、ブルズがしばらく苦しい時間を経験する可能性は高そうだ。

敗者2
ボストン・セルティックス

5月のロッタリーで全体1位指名権を引き当てたセルティックスは、ドラフト直前にその指名権を76ersに放出した。見返りに今年の全体3位指名権、来年の1巡目指名権を獲得。この段階でドラフト指名権をさらに増やしたことに、驚かされた関係者は少なくなかった。

イースタンNo.1シードを勝ち獲ったチームは、あと1、2枚の即戦力を加えればファイナル進出が狙える位置まできている。そんな状況下で、ここで2つの1巡目指名権を得た理由は? このトレードが、大物を獲得するさらなるトレードの布石との推測が出てきたのは当然だったろう。

実際にドラフト直前には、複数の1巡目指名権を使って、ポール・ジョージ(インディアナ・ペイサーズ)、バトラー、クリスタプス・ポルジンギス(ニューヨーク・ニックス)を狙っているという噂がまことしやかに囁かれた。

しかし結局、一部で推測された大型トレードはなく、セルティックスは全体3位でジェイソン・テイタム(デューク大)を指名した。トップ3に入るのだからテイタムももちろん好素材に違いないが、事前の期待感が大きかっただけに、その動きがインパクトに欠けたことは否めない。

セルティックスは一昨年は全体6位でマーカス・スマート、昨年は同3位でジェイレン・ブラウンを指名したが、2人ともスーパースターに成長するポテンシャルは示せていない。昨季のイースタン・カンファレンス・ファイナルでは、クリーブランド・キャバリアーズに個々のタレントの差を思い知らされた。そんな後だからこそ、未知数の新人よりも、実績あるスター選手を加えて欲しいと感じていたファンは多かったのだ。

もちろんオフはまだ始まったばかりだ。今後、ジョージ、FAのゴードン・ヘイワード(ユタ・ジャズ)、ブレイク・グリフィン(ロサンゼルス・クリッパーズ)を手に入れる可能性は残っている。6月27日の時点で、ジョージ、ヘイワードの両方の獲得を狙っているとの報道も出ている。それを成し遂げることがあれば、セルティックスは一躍、今オフ最大の勝者となるはずだ。

ただ、少なくともドラフトの時点では、補強策が停滞している感は否定できない。ダニー・エインジ球団社長が得意とするはずの大胆補強がないことに落胆し、苛立ち始めているボストニアンも少なくないのが現実だ。

文:杉浦大介  Twitter: @daisukesugiura

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著者
杉浦大介 Daisuke Sugiura Photo

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。