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[杉浦大介コラム第64回]ジミー・バトラーが成し遂げるべき次なるステップ

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Jimmy Butler Bulls

クラッチショットを連発

「(シカゴ・ブルズは)ジミーを中心にチーム作りをすることを選択した。そして、ジミーは実際に素晴らしいプレイをしている。彼は常にハードワークをする選手だから、今、手にしているものを得るのに値するよ」。

昨季までブルズでプレイしていたジョアキム・ノア(ニューヨーク・ニックス)は、元同僚のジミー・バトラーのことをそんな風に評していた。

自身もハードワーカーとして定評あるノアに賞賛されるくらいだから、バトラーの練習熱心さが伺い知れる。そして、過去2年連続でオールスター出場を果たした27歳のバトラーは、今季、NBAの舞台でさらに大きく花開いている。

最初の42戦で平均24.9得点、6.8リバウンドはどちらも自己最高。昨オフにデリック・ローズがニックスにトレードされて以降、ブルズは完全に“バトラーのチーム”になった。今季ここまで、テキサス州出身のスイングマンは実際にフランチャイズプレイヤーとしての重責を十分に果たしていると言っていい。

何より特筆すべきは、今季のバトラーがクラッチショットを連発していることだ。昨年12月28日のブルックリン・ネッツ戦では、99−99で迎えた試合終了間際に決勝ブザービーターを成功。1月2日のシャーロット・ホーネッツ戦では52得点、12リバウンドをあげ、勝負を決定づけるクラッチジャンパーも沈めて見せた。さらに4日のクリーブランド・キャバリアーズ戦では第4クォーターだけで14得点、15日のメンフィス・グリズリーズ戦でも決勝ジャンパーを決めるなど、ゲーム終盤の効果的な活躍は続いている。

「第4クォーターでの活躍はスタッツが示す以上に素晴らしい。(終盤には)ジミーにボールが渡ると誰もが気付いているのに、それでもプレイメイキングをするか、シュートを決めてしまう。同時にディフェンス面でも相手のベストプレイヤーをガードしてくれる。今のジミーは最大級の自信を持ってプレイしているしね」。

同じくリーグ屈指のクラッチプレイヤーとして君臨してきた同僚のドウェイン・ウェイドも、今季前半戦のバトラーの勝負強さには舌を巻く。

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12月のネッツ戦で決勝ブザービーターを沈めたほか、今季のバトラーは“クラッチ”ぶりを大いに発揮している

リーグ屈指のツーウェイプレイヤー(攻守兼備の選手)と見なされてきた選手が、クラッチジャンパーにまで磨きをかけ始めた。一般的な評価もさらに高まり、今やバトラーこそがレブロン・ジェームズ(キャバリアーズ)に次ぐイースタンNo.2プレイヤーではないかとの声も挙がり始めているくらいだ。

しかし、これほどのプレイをしているのにもかかわらず、意外にも思えることがある。バトラーの周囲では依然としてトレードの噂が絶えないのだ。

今季のトレード期限を2月23日に控え、そろそろ放出候補の名前が活発に米メディア上を飛び交い始めている。その件に関してグーグル検索でもすれば、すぐにバトラーの名前も飛び出してくる。ブルズ時代から旧知のトム・ティボドーHCが率いるミネソタ・ティンバーウルブズ、 打倒キャブズのためにもう一枚は武器が欲しいボストン・セルティックス、新時代のスター選手を獲得したい再建中のロサンゼルス・レイカーズあたりがバトラーを狙っているという報道がなされてきた。

ただ、現実的に、トレードがまとまるかどうかは別の話だ。バトラー獲得には複数のドラフト1巡指名権が必要になるであろうだけに、実際に引き金が引かれる可能性は低い。だが、“火のないところ煙は立たず”という言葉通り、ブルズが実際にバトラーのトレードを考慮してきたのは事実のようだ。

「ホーネッツ戦で52得点と大爆発した後でも、チームの考えは変わっていない。昨年7月に5年9000万ドルで再契約した後ですらも、ブルズの上層部はバトラーを中心にチーム作りを進めるのが正しいことであるという確信が持てていないようだ」。

1月5日、『ブリーチャーズリポート』のベテラン記者、リック・ブッチャーがビデオリポート内でそう伝えていた。

トレードの噂が絶えない理由

こんな話が飛び出してくるのは、今シーズンのブルズが思うように勝てていないからに違いない。ウェイド、ラジョン・ロンドを獲得し、バトラーとの新“ビッグ3”を揃えて今季に臨んだブルズだったが、ここまで22勝23敗(現地1月22日時点)と苦しんでいる。

バトラーはキャリア最高の成績を残しているものの、チーム全体の平均得点、アシストはどちらもリーグ23位という低レベルの数字。ウェイドとバトラーを支えるサポーティングキャストの層が薄い印象は否めない。昨年末以降はロンドをスターターから外すという荒療治も敢行したが、以降も勝率は上がらず、チーム内の雰囲気も良いとは言えない。

このように大都市のチームが勝てないとき、公平か不公平かはともかく、ベストプレイヤーのリーダーとしての資質が疑われるのは仕方のないことなのだろう。

振り返れば、バトラーがエース的存在に成長した昨季もブルズは42勝40敗に終わり、2008年以来初めてプレイオフを逃してしまった。その過程で、バトラーとローズ、ノアといった主力選手たちが必ずしも一枚岩ではないと囁かれた。同時にバトラーの統率力に疑問が呈されているといった噂も聴こえてきた。

前述通り、新体制で臨んだ今季もブルズは再び停滞してしまっている。アンフェアな言い方だが、バトラーがエースになって以降のブルズは勝てていないのだ。チームの看板選手として、次に挑まなければならない課題がここに見えてきているのだろう。

「もともとディフェンスで知られた選手が、短期間に平均20得点をマークするようになり、オールスターにも選ばれるようになるということは、その選手はハードワークを積んでいるということ。52得点、40得点をあげても(バトラーは)満足しない。彼はさらに偉大な選手になりたがっているんだ」。

これまで多くのスーパースターを見てきたウェイドの言葉を聴くまでもなく、バトラーの向上への意欲を疑う者は存在しない。

しかし、NBAで真の意味で“グレート”と呼ばれるようになるには、自らが好成績を残す以上のものが必要になる。独力でできることは限られるだけに、勝つためにはチームメイトの力も上手に引き出さなければならない。自らがクラッチジャンパーを決めるだけではなく、必要に応じて周囲を生かさなければいけない。

求められるさらなるステップアップ

ここまで順調に階段を登ってきたバトラーにとって、それらを成し遂げることが次のステップだ。端的に言って、ブルズのフロントが不安視しているのもバトラーにその能力があるかどうかなのだろう。

「メディアが何を書いているか、(コート外で)何が起こっているかは僕には関係ない。僕の仕事はハードに動き、チームの勝利を助けることだ。(同僚たちに)いつも話しているのは、良いときも、悪いときも、頼れるのはお互いだけなのだから、助け合ってやっていかなければならないということだ 」。

そんなリーダーらしい言葉も残してきたバトラーにとって、今季後半戦は重要な時間になりそうである。自身がハイレベルの数字を残した上で、ブルズをより高勝率に導くか、少なくともその可能性を見せられるか。海千山千のウェイドの助けも借りつつ、真のチームリーダーとして確立できるかどうか……。

サポーティングキャストの力不足はバトラーの責任ではないが、例えばレブロン、ラッセル・ウェストブルック、ジェームズ・ハーデンのようなエリートプレーヤーは、そんな中でもチームを成功に近づける術を見つけている。

無名の立場からスターダムにまで躍り出たバトラーに、リーダーとしてさらにステップアップする時期が来た。努力を重ねてここまで辿り着いたこの選手なら不可能ではないはずだ。それを徐々にでも成し得たとき、シカゴが手にした新たな大黒柱として、バトラーの評価と名声はさらに大きなものになるはずなのである。

文:杉浦大介  Twitter: @daisukesugiura

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著者
杉浦大介 Daisuke Sugiura Photo

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。