NBA

[杉浦大介コラム第62回]ドマンタス・サボニス「八村塁は凄い才能を持っている」

Author Photo
Domantas Sabonis Thunder

“サボニス”という名字を聴いて、懐かしさを感じる長年のNBAファンは多いのではないか。オクラホマシティ・サンダーで活躍する新人ドマンタス・サボニスは、リトアニアの伝説的存在であり、1995年からポートランド・トレイルブレイザーズでも活躍したアルビダス・サボニスの息子である。

今年のドラフト全体11位でオーランド・マジックから指名されたサボニスは、直後にサンダーに移籍した。20歳にしてプロの世界に飛び込んだレジェンドの息子は、NBAでも1年目から全試合に先発出場。血統の良さに裏打ちされたセンスと、バスケットボールIQの高さを披露している。そのサボニスとサンダーがニューヨークを訪れた際、NBAでの手応え、偉大な父、ラッセル・ウェストブルック、そして母校ゴンザガ大学の後輩になった八村塁のことなどについて尋ねてみた。


――NBAキャリアが始まって、シーズン序盤をどう振り返る?

まずまずやれていると思うよ。チームとしては、好スタートを切ったあとに連敗があったり、波が大きくなってしまっている。なるべくそれを小さくし、日々向上していければといつも考えている。

――カレッジとプロの違いはどこに感じる?

うーん、かなり大きく違うからね。すべてが違う。NBAが開幕後、母校ゴンザガ大がサンディエゴ州立大と対戦したゲームを見たことがあった。そのとき、改めてまったく別物だなと感じた。スピード、プレイヤーの力強さ……。NBAとカレッジの間にはかなり大きな差があると思う。

――スケジュールの厳しさを指摘するルーキーも多いね。特に君はいきなり全試合に先発出場しているから、かなりハードなんじゃないかな。

ああ、それも大きな違いだ。NBAでは1か月くらいで20戦近くをプレイして、それでもまだシーズンの四分の一程度にすぎない。ゴンザガ時代は1年で35試合だったから、正直、えらい違いだ(苦笑)。プロではこれまで以上に身体をケアし、準備の部分に時間をかけていかなければいけない。

――そんな中でも、君はシーズン序盤から力を発揮している。カレッジ時代はポストプレイ中心だったのに、NBAではロングジャンパーを高確率で決めていて、適応能力も賞賛されている。だいぶ自信もついてきているのでは?

いや、まだまだ向上していかなければいけないと感じている。相手にするのは世界最高の選手たちだからね。自分の能力の中で、ここというのではなく、バスケットボール選手として全体に向上する必要がある。コートに立ったら、今はまずチームにエネルギーを供給すること、そしてボールをよく回すことを心がけている。ボールを持ったら、オープンの選手を可能な限り見つけていきたい。チームプレイヤーとして、サンダーの勝利に貢献したいんだ。

――君のラストネーム、“サボニス”は日本のファンにも知られている。偉大な父のおかげで注目度も高い。常に比較されることをプレッシャーに感じる? それともモチベーションになるのかな?

僕にとってはモチベーション以外の何ものでもない。みんな僕と父を比較しようとするから、僕もどこかに隠れるわけにはいかない。僕も自分の力で、自身の名前を確立していかなければいけないんだ。

――君のパスのスキル、センスは父親譲りなんて人もいるね。

ああ、それはそうかもね。たぶんそうだ(笑)

――チームメイトのラッセル・ウェストブルックは開幕から怪物的な数字を叩き出している。サンダーのエースであり、プロでの先輩である彼から学べることは?

彼は偉大な選手というだけでなく、素晴らしいチームリーダーでもある。チャンピオンと呼ばれるにふさわしい選手だ。試合前のロッカールームでの準備の方法、集中力を高めていく姿を見るだけでも勉強になる。コート上では得点、アシスト、リバウンドを稼ぎ、その上でチームメイトたちに常に気を配っている。僕が得点できるのも、彼がオープンショットの機会を作り出してくれるおかげだ。それがなかったら、得点のチャンスはかなり減ってしまうはずだよ。

――サンダーのゲームを見ていると、ウェストブルックはかなりコンスタントに君を含む若い選手たちに声をかけているね。

その通りなんだ。コート内外で同じように引っ張ってくれる。彼に目をかけてもらい、信頼してもらえることを嬉しく思う。だからこそ、同じように緊張感を持ってプレイしなければいけないと感じる。彼と一緒にコートに立ち続けるために、できる限りハードに動こうと心がけているんだ。

――さっきゴンザガ大の話が出たけど、母校にはまだ注目しているの?

時間のあるときはよくゲームを見るよ。今年も良いチームだし、序盤戦では良いプレイをしているね。

――日本から来たフレッシュマン、八村塁のことは知っているよね?

ああ、ルイだろ。この夏は彼と一緒にワークアウトしたんだ。彼とはまだそんなに多くを話すわけじゃないけど、トレーニングを通じていろいろと交流できた。こちらの言っていることはある程度は分かるようだった。とても面白いし、良いやつだね。接していて気分の良い男だった。

――プレイヤーとしての彼をどう感じた?

素晴らしい選手になっていくと思うよ。凄い才能を持っていることは確かだ。現時点で唯一の難関はやはり英会話だね。まだハドルでコーチが何かを言っても、すべて理解するのは彼には難しいようだ。しかし、立ちはだかるのはそれだけで、言葉さえ克服できればすぐにでも活躍できると思う。ピックアップゲームなんかやっていても全然ひけをとってなかったし、タレントは確かなものがあるからね。


「まだ喋っているのか?もう30分だろ!? みんな気を遣ってやれよ」。

マディソン・スクエア・ガーデンのロッカールームで、延々とメディアの質問に答えているサボニスを見て、シャワーから戻ってきたウェストブルックがそう叫んだ。冗談めかした口調ではあった。それでもサンダーの広報は慌ててサボニスの下に駆けていき、それ以上の質問攻勢にストップをかけた。

父アルビダスは英語が苦手なふりをしてメディアを避けがちだったというが、息子は群がる記者たちに愛想よく対処する。“伝説の息子”ということで、ニューヨークでも取材依頼は後を絶たなかった。まだペース配分を知らないルーキーを疲れさせるわけにはいかない。自ら声を張り上げたそんなシーンからも、サンダーの大黒柱がサボニスを可愛がっていることは一目瞭然だった。

このような絶対的なフランチャイズプレイヤーが君臨するチームは、素直な性格のサボニスにはやり易い環境なのかもしれない。そして、イン&アウト両方のプレイがこなせる献身的なビッグマンは、ケビン・デュラント移籍以降、新たなチーム作りを始めたサンダーにとっても貴重な存在になっている。

このままサンダーの主力として確立すれば、本人が述べていたように、父との比較ばかりではなく、サボニスがNBAでも自身の名前を確立する日も遠くはないだろう。

文:杉浦大介  Twitter: @daisukesugiura

>>> 杉浦大介コラム バックナンバー

著者
杉浦大介 Daisuke Sugiura Photo

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。