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[杉浦大介コラム第58回]2016 NBAドラフトの「勝者」と「敗者」

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2016 NBA Draft Picks

今年度のドラフトが6月23日(日本時間24日)にブルックリンのバークレイズ・センターで行なわれた。ボストン・セルティックス、フィラデルフィア・76ersといった近隣チームがトップ3の指名権を持っていたこともあり、当日の会場はほぼ満員で、例年以上に華やかな雰囲気となった。また、ドラフトに前後して複数のトレードがまとまり、その行方が多くのチームの方向性に影響することにもなっている。

大きく戦力アップしたチーム、上手な補強を施したのはどこだったのか。ドラフトだけでなく、トレードの意味まで含め、今年の“運命の1日”の周辺から総合的に勝者と敗者を選んでみたい。


勝者 その1: オクラホマシティ・サンダー

ドラフト当日にサージ・イバカをオーランド・マジックに放出し、ビクター・オラディポ、アーソン・イリヤソバ、全体11位で指名されたドマンタス・サボニス(ゴンザガ大/リトアニア出身)を獲得するトレードをまとめて業界全体を驚かせた。

リーグ屈指のショットブロッカーであり、昨季も平均12.6得点、6.8リバウンドをマークしたイバカの放出はギャンブルではある。ただ、サンダーは同じビッグマンでもスティーブン・アダムズを重視し始めていたこと、イバカ本人がより大きな役割を望んでいたことなどから、このトレードを好意的に捉える関係者は多い。

守備も良いオラディポの加入で、サンダーにとって懸案だったシューティングガードも手に入った。ラッセル・ウェストブルックとかみ合わなかった場合、オラディポはシックスマンとして起用しても良いだろう。

母国では伝説的な存在の父(元NBA選手のアルビダス・サボニス)を持つサボニスへの将来性への評価も高く、イリヤソバのシュート力もまだ見過ごせない。

総合的に見て、来季契約最終年を迎え、2017年以降のサンダー残留が微妙な26歳のイバカの代わりに、3枚の有用なピースを手に入れたことはポジティブに捉えて良い。

サージ・イバカとのトレードでサンダーはマジックで3シーズンを過ごしたビクター・オラディポらを獲得

勝者 その2: ミネソタ・ティンバーウルブズ

今ドラフトのベスト・ポイントガードと目されたクリス・ダン(プロビデンス大)が全体5位まで残っていたのはウルブズにとってラッキーだった。ダンはペリメーターの守備力で知られ、新たにヘッドコーチとなったトム・シボドー好みの選手。オフェンス面でも魅力はあり、ESPN.comのチャド・フォード記者は「カイル・ラウリー(トロント・ラプターズ)がやや大柄になったような選手になっていくだけの才能がある」と評している。

ダンとザック・ラビーンを放出すれば、シボドーにとってはシカゴ・ブルズ時代から馴染みのジミー・バトラーを獲得するチャンスがあったとも言われる。しかし、このトレードを見送ったのは決して悪い判断とは思えない。アンドリュー・ウィギンズ、カール・アンソニー・タウンズを中心とする若きタレント集団に、ダンという新たな好素材が加わったウルブズの未来は明るいと言えるだろう。余剰戦力となりそうなリッキー・ルビオの放出も噂され、今後もしばらくウルブズの動きから目を離すべきではない。

(左から)トム・シボドー新HC、クリス・ダン、スコット・レイデンGM

勝者 その3: フィラデルフィア・76ers、ロサンゼルス・レイカーズ

全体1位指名権を持っていた76ersは、予想どおりに今年度のベストプレイヤーと評されたベン・シモンズ(LSU)を指名した。シモンズの母国オーストラリアでコーチ経験のあるブレット・ブラウンHCの指揮の下、76ers復活を担う大器への期待は大きい。また、26位で指名したトルコ出身のフルカン・コークマスもロングジャンパーとボールハンドリングの巧みさに定評ある選手。2人はともに即戦力になり、いよいよ“収穫の時期”を迎える76ersに貢献できるかもしれない。

76ersから全体1位指名を受けたベン・シモンズ
コービー・ブライアント後の名門レイカーズを背負うことになる全体2位指名のブランドン・イングラム

今ドラフトではNo.2の素材と評価を受けたブランドン・イングラム(デューク大)を全体2位で指名したレイカーズも勝者に含まれる。シルバーと黒の派手なジャケットでドラフトに登場したイングラムのファッションセンスには賛否両論があったものの、選手としての実力は折り紙つきだ。

ロッタリーでトップ2指名を確定した時点で、76ers、レイカーズがドラフトの“勝者”になることはすでに決まっていたも同然。その運命どおり、東西の名門チームは未来に向けて手堅い補強を完成させたと言える。


敗者 その1: ボストン・セルティックス

全体3位指名のジェイレン・ブラウン(カリフォルニア大)は稀有な身体能力を誇る選手であり、ジャンパーの安定度次第ではスターになれるかもしれない。また、同16位のグーション・ヤブセレ(フランス出身)、23位のアンテ・ジジッチ(クロアチア出身)の評価もまずまずだ。一見すると、セルティックスは堅実な補強を成し遂げたように見える。

ただ、1~2巡目指名権をそれぞれ3つずつ持っていた今ドラフトで、セルティックスはその指名権を使ったビッグトレードをまとめる可能性も十分にあると見られていた。実際にジミー・バトラー(ブルズ)、クリス・ミドルトン、ジャバリ・パーカー(ともにミルウォーキー・バックス)、ゴードン・ヘイワード(ユタ・ジャズ)といった選手たちを狙っているという噂は聞こえてきていた。

ところが結局、トレードは1つも成立に至らぬままドラフトは終了。昨季48勝をあげたチームが一気に優勝候補へ躍進することを望んでいたファンは、“無風ドラフト”にほぼ総じて落胆したと伝えられている。

マックス契約の選手を1~2人獲得できるだけのキャップスペースを保持しており、オフの補強策はまだまだこれからといえる今オフのセルティックスは、今後に大型トレードを成立させても驚くべきではない。しかし、常に大胆不敵なダニー・エインジGMが、ドラフトから動くと見る関係者は多かっただけに、拍子抜けの感は否めなかった。

セルティックスは全体3位指名権でジェイレン・ブラウンを指名。予想された指名権を使った大型トレードは行なわれなかった

敗者 その2: サクラメント・キングス

伸びしろの大きなマーキス・クリス(ワシントン大)を全体8位で指名したのは理に叶っていた。しかし、その後にこの交渉権を放出し、2つの下位指名選手――ギリシャ人のヨーゴス・パパヤニス(13位)、ケンタッキー大のスカル・ラビシエ(28位)――とボグダン・ボグダノビッチの交渉権(2014年1巡目27位)をサンズから獲得した動きは意外だった。

また、マルコ・ベリネリを放出し、ホーネッツが全体22位で指名したマラカイ・リチャードソン(シラキュース大)を獲得するトレードも成立間近と言われている。結果として、来季のキングスはドラフト1巡目指名選手が3人も加わるフレッシュな陣容になる可能性が高い。

ただ、この3人はいずれも即戦力の器とは目されておらず、低迷を続けるキングスの近未来に大きなインパクトを与えるかは微妙なところだろう。ドラフト終了直後には、大黒柱のデマーカス・カズンズが「神よ、僕に力を与えてください」と落胆を隠さないツイートをしている。

近年のキングスは失敗と評される指名が続いており、今回の一連の動きにも懐疑的な関係者が多いのも仕方ない。ブラデ・ディバッツGM以下、フロントの手腕に改めて疑問を呈する声も少なからず聞こえてくる。

(左から)スカル・ラビシエ、ヨーゴス・パパヤニス、2巡目59位指名のアイザイア・カズンズ(オクラホマ大)

文:杉浦大介  Twitter: @daisukesugiura

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[特集]2016 NBAドラフト

著者
杉浦大介 Daisuke Sugiura Photo

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。