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[杉浦大介コラム第54回]レブロン、カーメロ、ウェイド、ポールによる夢の“スーパーフレンズ”は実現するのか?

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Dwyane Wade, LeBron James, Carmelo Anthony, Chris Paul

「キャリアが終わる前に、みんなで一緒にプレイできることを望んでいる。少なくとも1年、あるいは2年でも、僕、メロ、Dウェイド、CPとで集まりたいんだ。そのためだったら減給だって構わない。実現したら素晴らしいし、それについて考えたことはあるよ」。

3月23日、米ウェブサイト『ブリーチャーリポート』で発表された記事内で、レブロン・ジェームズ(クリーブランド・キャバリアーズ)がそうコメントしたことが大きな話題になった。

この記事は、高校時代から続くレブロンとカーメロ・アンソニー(ニューヨーク・ニックス)の関係を掘り下げたもの。その中で、歳も近く、兄弟同然に仲の良いレブロン、カーメロ、ドウェイン・ウェイド(マイアミ・ヒート)、クリス・ポール(ロサンゼルス・クリッパーズ)の友情にも触れられていた。

この4人の関係について、記事のタイトルにもなった「Brotherhood」(兄弟分)という言葉をレブロンが好んで使うのを聴いたことがある人は多いはずだ。NBAの舞台でもいつか“ブラザーたち”と一緒にプレイしたいというのは、ルーツを大事にする印象があるレブロンらしい願いに思える。

「まだこのリーグでプレイできる時間は何年か残っているからね。みんな夢を見るし、ファンタジーも持っているものだ」。

23日のシカゴ・ブルズ戦後には、このドリームプランについて訊かれたカーメロも肯定的なコメントを残していた。だとすれば、将来的に夢のスーパーチームが実現しても不思議はないのだろうか?

もっとも、こうして屈指の人気選手が結託しようとすることを、煙たく思うファン、関係者も依然として少なくないのかもしれない。

振り返れば2010年の夏、レブロン、ウェイド、クリス・ボッシュがマイアミに集まり、社会現象に近い騒ぎになったことは記憶に新しい。スーパースターの談合という事実と、ESPNの特別番組という移籍発表の手段について世間は紛糾した。以降、レブロンはしばらくの間、米スポーツ界で最もアンチの多い選手の一人であり続けた。

「マジック・ジョンソン、ラリー・バード、マイケル・ジョーダン、アイザイア・トーマスが話し合い、手を組むことなどありえなかった。彼らの目的は互いを倒すことだった。そのサバイバルゲームを私たちも楽しんだものだった」。

ニューヨーク・デイリーニューズ紙のフランク・アイソラ記者は、NBAのオールドスクールな世代を懐かしむような記述を残していた。

ただ、これは筆者個人の考えだが、近未来にレブロンが目論む“スーパーフレンズ”が実現したとして、今回はネガティブな反応ばかりではないのではないかとも思う。

レブロン、カーメロ、ウェイドは2003年、ポールは2005年のドラフトでそれぞれNBA入りし、リーグ内で確固たる立場を築いてきた。2008年の北京オリンピックでは揃って金メダル獲得し、その過程で彼らの厚い友情も広く知られてきた。

この4人はいわばソーシャルメディアの時代のスーパースターたち。遠距離の連絡が容易になった現代で、テキスト、スカイプなどで彼らが頻繁に連絡を取り合っていることに眉をひそめる人は確実に減っているはずだ。

2006年に日本で開催されたFIBAバスケットボール世界選手権(現ワールドカップ)では4人ともアメリカ代表チームでプレイした

全員が30歳を超え、それぞれがすでにキャリアの後半に差し掛かっていることも大きい。ウェイド、カーメロはケガが増えてきたし、レブロンにしてもピークは過ぎたとみなされ始めた。他にどんなメンバーで肉付けされるかにもよるが、この3~4人が来季以降に集まったとして、そのチームが無条件で優勝争いの大本命になるというわけではない。

ゴールデンステイト・ウォリアーズ、サンアントニオ・スパーズにそれぞれの現在の所属チームが引き離されたがゆえの苦肉だと揶揄されても、今まさに全盛期を迎える若武者が揃ったヒートの“スリーキングス”のように、世間から強烈な反感を買うことはないだろう。

NBAを背負ってきた親友同士が、キャリア終盤に1つのチームに集合する。そして、より若い世代に挑んでいく。もちろんアンチも残るとしても、そんなストーリーは少なからずのファンから好意的に捉えられるのではないか。

と、こうして結成された場合の周囲の反応を真剣に予測してきたが、現時点で即座の実現の可能性が高いというわけではない。

カーメロ、ポールの2人は、少なくとも2018年までフリーエージェントにはなれない。レブロンは今季終了後に契約オプトアウトが濃厚だが、過去の経緯を考えれば、早いうちに故郷クリーブランドを去ることはまず考えにくい。

カーメロがトレード拒否権を破棄し、ポールはカイリー・アービングとの交換で、それぞれキャブズに移籍するのは不可能ではない。ただ、マイアミでは英雄的存在のウェイドが、この流れにおいそれと乗る姿も想像しづらい。

あるとすれば、全員が減給を飲んでマイアミの地に集まる場合くらいか。率直に言って、近い将来の実現はあり得そうもない。

「話を聴いたし、記事は読んだ。ただ、僕は見出しを作るつもりはない。僕は現在のチームメイトたちとの時間に集中したいんだ」。

レブロンの発言について尋ねられた際、ヒートへの配慮もあってか、ウェイドは撥ね付けるような返答を残していた。

しかし――。簡単ではないことを理解した上でも、常にスーパースターを中心に動くNBAにおいて、現役最大のパワーパーソンであるレブロンの発言は無視できない。4人中3人以上が集まるにしても、恐らくは数年以上は先。彼らが加齢して力が衰えるほど、年俸は割安になり、可能性も増していく。

「4人が揃うというのがどれだけ現実的かはわからない。ただ、3、4人の親友と一緒に仕事をするチャンスがあれば、飛びつくさ。スポーツを超えた意味で、言葉にしなくても分かり合える仲間たちと一緒にいられるんだ。僕たちはそれだけの歴史を築いてきたからね」。

レブロンのそんな言葉通り、今回の“スーパーフレンズ”計画には単なる強豪チーム作りだけで終わらないロマンがある。ウェイド、レブロンにはすでに優勝経験があるという決定的な違いはあるものの、キャリア後半を迎えた3人のベテラン(ポール・ピアース、レイ・アレン、ケビン・ガーネット)が集まり、足りないものを埋め合うことで頂点を目指した2007年のセルティックスの“ビッグスリー”に被る部分を見いだす人も多いはずだ。

マイアミ、ニューヨーク、クリーブランド。落ち着き先はどこであれ、「Brotherhood」はいずれ同じ目的地にたどり着くのか?

この壮大なプランは、ファンにとっても先の長い楽しみになりそうである。

文:杉浦大介  Twitter: @daisukesugiura

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著者
杉浦大介 Daisuke Sugiura Photo

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。