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[杉浦大介コラム第53回]最新型長身ポイントガード、ヤニス・アデトクンボの底知れぬ才能

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Giannis Antetokounmpo, Bucks

「この期に及んで、ヤニスが何をやってももう驚かないよ。フィジカルに恵まれていて、このリーグでも他に1~2人にしかできないプレイができる。凄い若手選手だ。今の彼にはゲームはスローに見えるんじゃないかな」。

3月13日のブルックリン・ネッツ戦後、ミルウォーキー・バックスのグレッグ・モンローが語ったそんな言葉は、ここ最近のヤニス・アデトクンボのプレイを観たすべてのファン、関係者の思いを代弁するかのようだった。

2月20日からポイントガード(PG)として起用されるようになって以降、アデトクンボは見ているものの度肝を抜くようなプレイを続けている。ネッツ戦でも一時は84-91とリードを許すも、最後の8分45秒の間に一人で10得点。司令塔としても周囲を巧みにコントロールし、109-100での逆転勝利の立役者となった。

この日は28得点、14アシスト、11リバウンド、4スティール、2ブロックの大暴れ。直近の11戦中4度目のトリプルダブルであり、1シーズンにトリプルダブル4回以上を記録したバックス史上初めての選手にもなっている。

2月20日~3月13日までの12戦で、平均20.3得点(フィールドゴール成功率50.5%)、9.5リバウンド、8.2アシスト、2.0スティール、1.9ブロック。これらの数字、記録も凄いが、何より素晴らしいのは、アデトクンボのプレイにはこれまで誰も見たことがないようなオリジナリティが感じられることだ。

カモシカのような足でコートを縦横無尽に駆け回る。7フィート4インチ(約224cm)のウィングスパンを生かし、豪快なダンク、ブロックを決めてファンを魅了する。21歳にして『ESPNスポーツセンター』のハイライトシーンの常連になり、“最もエキサイティングな若手選手の一人”と呼ばれるようになった。

このユニークなタレントは、将来はいったいどんな選手になっていくのか。他のNBA選手と比較するとすれば、誰がふさわしいのか。今回は3人のエキスパートに幾つかの質問をぶつけ、3年目にしてブレイクしつつある通称“グリークフリーク”の未来を占ってみた。

ハワード・ベック(ブリーチャーズ・レポート/元ニューヨーク・タイムズのベテラン記者)

Q:アデトクンボを比較するとすれば誰か

長身で、リーチも長いという意味で、体型的にはケビン・デュラント(オクラホマシティ・サンダー)と共通点があるが、プレイ面ではタイプが少し違う。デュラントは偉大なプレイメーカーであり、スコアラー。一方、ヤニスは素晴らしいボールハンドラーで、身体能力、得点力も備えている。ヤニスはジェイソン・キッドがデュラントの体型になったような感じかな。シュート力はもう一つだが、今後に向上するだろう。

Q:将来的にはどんな選手になっていくと思うか

PG転向以降は視野の広さを発揮していて、もしかしたらPGこそが彼に最適のポジションかもしれない。レブロン・ジェームズ(クリーブランド・キャバリアーズ)はフォワードとして登録されてきたけど、これまで属したすべてのチームで事実上はPGを務めてきた。レブロン以外に、ビッグマンのサイズながらボールさばきが上手く、プレイメーカー役が果たせる選手は数少なかった。ヤニスはレブロン以来、初めての例になる可能性がある。ゆくゆくは誰も比較することができないような、新しいタイプの選手になっていくのではないか。

デビン・カーパーティアン(ブルックリンゲーム/ネッツ番記者で、Yesネットワークのゲストコメンテーターも務める)

Q:アデトクンボの印象、比較するとすれば誰か

あれだけのサイズと身体能力を持ちながら、司令塔役にすぐにアジャストしたことには感心させられた。若い選手はまず自分が得点したいと思うものなのに、チームに必要なことを即座に受け入れたことは、彼の気質を物語っているのだろう。例えるなら、ナーレンズ・ノエル(フィラデルフィア・76ers)がガード並みのボールハンドリングのスキルと多才さを備えているようなものかな。リーチがあり、敏捷で、動きは滑らか。そういった意味で、フィジカル面ではデュラントに似ていると思う。

Q:将来的にはどんな選手になっていくと思うか

可能性は無限大だね。レブロンほどフィジカルは強くはないけど、より柔らかいし、リーチも長い。(3年目にして)これだけのペースでトリプルダブルを積み重ねているんだから、将来はトリプルダブルマシンになるかもしれない。クリスタプス・ポルジンギス(ニューヨーク・ニックス)と同様、類を見ないという意味で比較するのが難しい選手。向こう2年の間にリーグ屈指の選手になっていける素材だと思う。

ニック・メタリノス(Starting5online.com/ギリシャ系オーストラリア人で、アデトクンボとはギリシャ語で会話する)

Q:NBA入り当初から取材してきて、その成長ぶりをどう見るか

ギリシャでも国内2部リーグでプレイしていた選手で、当初はどれほどの素材かはわからなかった。しかし、NBAでの3年間に大きな成長を見せている。キッドHCが彼にコート上で自由を与えたおかげで、NBAの最初の212戦では一度も達成できなかったトリプルダブルをここにきて量産し始めた。まだ若いだけに、試合前後に記者がロッカールームに入ってくるといったNBAとギリシャの習慣の違いには適応途上という印象もある。性格的にはやや気分屋のところも見受けられ、やはり活躍した後のほうが饒舌だったりする。それでも、徐々に成熟していっているよ。

Q:将来的にはどんな選手になっていくと思うか

リーチに恵まれ、それを有効に使っているという点で、体型とプレイスタイルにはデュラントと相似点があると思う。ただ、デュラントほどの生粋のスコアラーではなく、彼のような選手になっていくとは思わない。よりオールラウンドなスキルを磨いていくのではないか。まだ21歳で、才能は無限大。これから順調に成長すれば、いずれリーグのベスト5に入るような選手になるだろう。


"The sky’s the limit for him"(才能、可能性は無限大)――。

カーパーティアン、メタリノス両記者がそう口を揃えたことからも、アデトクンボの潜在能力が高く評価されていることは明らかだ。比較対象に挙がるのもビッグネームばかり。まだ少々気が早いが、将来のベストケースは、いわば“レブロンとデュラントの良い部分を併せ持ったトリプルダブルマシン”と言ったところか。

若くして大きな才能を誇示しても、すべてを開花させられるケースばかりではない。故障、慢心、相手の適応など、様々な障害が立ちはだかる。しかし、21歳のアデトクンボは、順調に伸びていってくれることを願わずにいられない。

このオリジナルでユニークな才能は、どんな形で成熟していくのか。現時点では推測するしかないその完成系を、いずれぜひとも目撃してみたいと思うからだ。

文:杉浦大介  Twitter: @daisukesugiura

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著者
杉浦大介 Daisuke Sugiura Photo

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。