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[杉浦大介コラム第52回]“波乱なきトレード期限”の勝ち組と負け組

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Markieff Morris, Channing Frye, Tobias Harris

波乱なきトレード期限———。直前にはドワイト・ハワード(ヒューストン・ロケッツ)、アル・ホーフォード(アトランタ・ホークス)、ケビン・ラブ(クリーブランド・キャバリアーズ)らも放出要員と噂されたものの、結局は予想されたほどに大きなトレードはないまま、2月18日午後3時は過ぎていった。

マーケットが不活発だった理由は、依然として20チーム近くがプレイオフ進出の希望を残し、“売り手”が少なかったことだろう。また、現実的に今季の優勝の可能性があるチームはごくわずかに限られると考えられており、ニ番手グループのチームがドラフト指名権を犠牲にしてまで戦力アップを望まなかったきらいもあったに違いない。

それでも2014年と同数の27人が所属チームを変えた。その中にはトバイアス・ハリス、ジェフ・グリーン、ランス・スティーブンソンといった好選手も含まれる。そんなトレード期限をここで総括し、“勝ち組”と“負け組”を独自に選別してみたい。


勝ち組

デトロイト・ピストンズ

オーランド・マジックにブランドン・ジェニングス、アーサン・イリヤソバを放出し、トバイアス・ハリスを獲得

1年前にレジー・ジャクソンを獲得したのに続き、球団社長とヘッドコーチを兼ねるスタン・バン・ガンディは着々と目指すチーム作りを進めている。今年はマジックから得点力の高いハリスを獲得。その後、ロケッツからドナタス・モティユナス、マーカス・ソーントンを獲得するトレードをまとめたが、こちらはモティユナスが身体検査に引っかかったために破談になった。

それでも、余剰戦力になっていたジェニングス以外には大きな出血なしに、より若く、身体能力に富んだロスターを作り上げたことは評価に値する。

ジャクソン、アンドレ・ドラモンド、ケンテイビアス・コールドウェル・ポープ、スタンリー・ジョンソン、ハリスといった主力は全員25歳以下。今後に勝ち星を増やしてプレイオフに進めば、上位陣にとって厄介なチームになるだろう。若きタレントたちが順調に育てば、数年後にはイースタン・カンファレンスのトップを争うチームになることも十分に考えられる。

クリーブランド・キャバリアーズ

ブレイザーズ、マジックとの3チーム間トレードでマジックからチャニング・フライを獲得し、ジャレッド・カニングハムとドラフト1巡目指名権をブレイザーズに、アンダーソン・バレジャオをマジックに放出

チームにフィットしていると言いきれないラブの放出も一部で噂されたが、結局は具体化はしなかった。その一方で、マジックから“ストレッチ4”(柔軟性に富む4番、外角シュートの得意なパワーフォワード)のフライを獲得し、シューターの補強を成し遂げている。

フライの役割はラブと被るだけに、プレイ時間は多くはないかもしれない。ただ、たとえ貢献度がほぼゼロだとしても、出場機会が減っていたバレジャオを放出し、年俸、ラグジュアリータックスと合わせて約1000万ドルの人件費を削減できただけでもトレードの価値はある。

また、対抗馬と目されるトロント・ラプターズ、ボストン・セルティックスが大掛かりな補強に挑まなかったこともキャブズにとって大きかった。

例えば未来のドラフト指名権を大量に持つセルティックスが、ホーフォード、ハワードらを獲得して戦力アップしていれば、プレイオフでより面倒な相手になっていたはず。しかし、将来をにらんだライバルチームはここでは自重した。おかげでキャブズの“東の大本命”の地位は安泰となった。

トレード期限がほぼ無風に終わったことで、キャブズは2年連続ファイナル進出に大きく近づいたと言っていい。

マーキーフ・モリス(フェニックス・サンズ→ワシントン・ウィザーズ)

デュワン・ブレア、クリス・ハンフリーズ、保護条件付きのドラフト1巡目指名権と交換で、サンズからウィザーズに移籍

昨年7月に双子の弟マーカスがピストンズに放出されて以降、サンズ内で完全に不満分子となっていたマーキーフ・モリスがようやく移籍という願いを叶えた。

弟のトレード以降、モリスの評判は散々だった。オフ中には自身も公にトレードを志願して、リーグから1万ドルの罰金処分。開幕後の12月下旬には、ジェフ・ホーナセック前HCにタオルを投げつけて2試合の出場停止処分を受けた。さらには2月10日のゴールデンステイト・ウォリアーズ戦で、同僚アーチー・グッドウィンとタイムアウト中に口論するなど、チーム内で完全に浮いた存在になっていた。

そんなモリスにとって、プレイオフ進出の望みを残したウィザーズへのトレードは万々歳に違いない。今季は平均11.6得点、5.2リバウンド止まりだが、昨季は平均15.3得点をあげた実力の持ち主。ジョン・ウォール、ブラッドリー・ビール以外のプレイメーカー不在に悩むウィザーズには適した存在だろう。サンズファンは癪然としないはずだが、停滞気味だったウィザーズのプレイオフ進出にモリスが大きく貢献する可能性も十分にある。


負け組

ドワイト・ハワード(ヒューストン・ロケッツ)

トレードの噂が出るも動きなし

ロケッツがハワード放出を模索しているという噂は盛んに飛び交っていた。実際にホークス、セルティックス、シャーロット・ホーネッツ、シカゴ・ブルズ、ダラス・マーベリックス、マイアミ・ヒートと交渉が持たれたとも伝えられている。しかし、結局は移籍は実現せぬままトレード期限を迎え、30歳になったセンターは、現在プレイオフ当落戦上で苦戦するロケッツに残ることになった。

オフに契約破棄の権利を持つハワードにとって、今季は勝負の年だ。放出の噂が大きくなっていただけに、新天地で心機一転、改めて自身の価値をアピールし直すのがベストな選択肢にも思えた。インサイドの強化が必要だったセルティックス、故郷アトランタのホークス、インパクトのある選手が必要なホーネッツあたりに移籍し、プレイオフで活躍できれば、市場価値を大幅に回復することも可能だったはずだ。

ただ、最終的にロケッツが納得するだけの交換要員が提示されなかったのだろう。それはトレードが実現しなかったことからも明らかだ。この事実は、ハワードの選手としての評価が低下していることを指し示している。このままプレイオフを逃してシーズンを終えるようなことがあれば、FAになっても、再びマックス契約の提示を受けられるかどうかは極めて微妙だろう。

ロサンゼルス・クリッパーズ

ランス・スティーブンソン、2019年か2020年のドラフト1巡目指名権(保護条件付き)をメンフィス・グリズリーズに放出し、ジェフ・グリーンを獲得

今季も平均12.2得点の成績を残していたグリーンは、クリッパーズのドック・リバースHCにとって、2011~13年のセルティックス時代からの馴染みの選手だ。ブレイク・グリフィンが故障離脱している現状で、コンボフォワードは攻撃の一角として重宝されるかもしれない。

このグリーンを利用価値のなくなっていたスティーブンソンとの1対1で獲得したということは、クリッパーズにとっては理に適うトレードだったと言えるだろう。しかし、スティーブンソンだけでなく、将来のドラフト1巡目指名権まで放出したことに首をひねる関係者は多い。

グリーンを手に入れたところで、クリッパーズがウォリアーズ、サンアントニオ・スパーズ、オクラホマシティ・サンダーとの実力差を大きく詰めたとは考えにくい。しかも、今季限りでFAになる選手を獲得するために、大事なドラフト指名権を犠牲にする必要があったのか?

クリッパーズは2017年ドラフトの1巡目指名権もすでに譲渡している。優勝を狙えるロスターを揃えるには至らぬまま、未来のチーム作りの選択肢を徐々に減らしている感は否めない。

文:杉浦大介  Twitter: @daisukesugiura

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著者
杉浦大介 Daisuke Sugiura Photo

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。