NBA

[杉浦大介コラム第37回] ポール・ジョージ――悪夢の怪我からの復帰

Author Photo
Paul George Pacers

昨年8月のアメリカ代表でのエキジビションゲーム中に右足を骨折したインディアナ・ペイサーズのポール・ジョージが、現地4月5日のマイアミ・ヒート戦で復帰を果たした。一時は今季絶望と思われたほどの重傷から約8カ月という予想以上の早さでカムバックを果たしたエースは、盛大なスタンディングオベーションを浴び、試合後には「これまでで最高の瞬間だった」と笑顔を見せた。

その復帰戦直後の8日。ペイサーズとジョージはニューヨーク・ニックス戦のためにマディソン・スクエア・ガーデンに登場。試合当日午前中のシュートアラウンド時、多くのメディアに囲まれ、復帰のプロセス、その過程での想い、さらに今後に向けて力強い口調で語ってくれた。

――シーズン終盤についに復帰を果たし、思うことは?

「チームはプレーオフに向けて全力を尽くしていて、残り試合で最高のバスケットボールをプレーしていかなければならない。僕個人としては、戦列に戻ってからがリハビリの最後のステップといったところだ。チームが良いプレーをしてようと心がけている時期にこうして戻ってこれて嬉しいよ」

――残り試合の中で何を得たい?

「個人的には、かつての自分に戻ることがこれから先の課題だ。能力面の話ではなく、自信を回復するためにね。夏(のトレーニング)に向けて、何ができるか、できないかを知っておけば、その上に積み重ねていくことができる」

――現時点でどの程度まで戻っている?

「まだ完調とは言えないかな。過去何年かのポール・ジョージとはまだ間違いなく違うと思う。それに向かって戻っている最中で、今プレーしているのはそのためだ」

――今心がけていることは?

「再び故障したり、自分に必要以上のプレッシャーをかけたりはしたくない。これから先も簡単ではないけど、また新たなチャレンジだ。一歩ずつ前に進み、かつての自分に戻り、最終的には以前より良い選手になりたい。それこそが僕にとっての挑戦になる。障害を乗り越えるのは楽しいことになるはずだ」

――プレーすることに恐怖感はない?

「恐怖はまったくないよ。(ケガの原因になった)ゴールポストに近づかない限りはね(笑)。またケガするんじゃないかとか考えることはない。そんなことはまったく心配していない。ただ、これから先に以前より10倍は強くなっていかなければいけない」

――ペイサーズの今のチーム状態をどう見る?

「良いと思うよ。プレーオフ争いに向けて集中できている。あとはより安定したプレーをしていくことだ。目標は残りの試合に全勝すること。可能な限り最高の仕事をして、自分たちの運命をコントロールし、そしてシーズンが終わったときに7位か8位に入っていたい。他のチームの勝敗を気にしないで良いような立場になりたいね」

――自分が出られない間の戦いぶりをどう見ていた?

「みんなは良い仕事をしてくれた。多くのケガ人が出た中でも、コーチはラインナップをやりくりしながら乗り越えてきた。よくプレーオフ争いに残ってくれて、おかげで今、シーズンを引き延ばすチャンスがある位置にいるんだ」

――この大事な時期に(クリス・コープランドの)事件が起こったことはチームにとって障害に成り得る?

「いや、そんなことはないよ。様々なことが起こるものだ。プロフェッショナルとして、どんな状況でも仕事を果たさなければいけない」

――リハビリの途中で、壁にぶつかったと感じたことは?

「何度もあったよ。何度も壁にぶつかって、タオルを投げ入れたいと思うことは何度もあった。この時期にリハビリするより、夏まで待ちたいと思ったこともあった。ただ、トレーニングスタッフが背中を押してくれて、乗り越えるのを助けてくれたんだ」

――この経験で学んだことは?

「自分に何がやり遂げられるかを自分自身で知ることができた。これを乗り切れるのなら、ほかにそれほど難しいことはないはずだ」

――8日のニックス戦ではチームメイトのルイス・スコラと接触するシーンがあったけど、問題はなかった?

「足に激しく接触したのはあれが初めてだった。接触プレーが増えれば、自分のコンディションをより信頼できる。もうケガをすることはないと信じられるからね」


ニックス戦当日早朝、ペイサーズのクリス・コープランドとその連れの女性がマンハッタンのナイトクラブで刺されるという事件が起こった。騒然とした中で、普段より多い記者たちに囲まれても、ジョージは実に冷静なままだった。

この時点で、コープランドのケガは命に別状があるものではないと伝えられていたのも大きかったのだろう。それと同時に、エースの言葉からは、修羅場を経験したばかりがゆえの独特の落ち着きのようなものが感じられた。

昨年8月のジョージの骨折は、映像、画像を直視できないほどに凄惨なものだった。激しい痛みの中で、ジョージ本人も再起不能のような最悪の事態も一時は想像したに違いない。しかし、そんな状況から立ち直り、厳しいリハビリにも白旗を上げず、驚異的と評される早さでコートに帰ってきた。

「(骨折後のリハビリを)乗り切れるのなら、ほかにそれほど難しいことはない」。

そういったコメントを聴けば、ジョージの今後にさらに大きな期待を抱かずにはいられない。コンディションさえ完調に戻れば、まだまだ大きくなれる。24歳にして地獄を垣間見た選手にとって、コート上での試練など、取るに足らないことに感じられるに違いないからだ。

文:杉浦大介  Twitter: @daisukesugiura

著者
杉浦大介 Daisuke Sugiura Photo

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。