NBA

[2016 NBAファイナル コラム]まさかの敗北――ウォリアーズはなぜ敗れたのか?(杉浦大介)

Author Photo
NBA Finals Warriors

6月19日、2016 NBAファイナルを制したクリーブランド・キャバリアーズの選手たちがロッカールームで初優勝を祝っている頃、第7戦に敗れたゴールデンステイト・ウォリアーズのステフィン・カリーは、記者会見場で静かにうなだれていた。

ドレイモンド・グリーンが壇上で質問に答える間、少し早く会見場に着いたエースが部屋の壁際で下を向き続ける姿は、痛々しさばかりを感じさせた。

「(キャブズが自分たちのホームで)祝うのは見ているのは辛かった。あれが僕たちだったら、と考えたよ……」。


第7戦終了後の会見で頭を抱えるカリー

レギュラーシーズン中にNBA新記録となる73勝をあげたウォリアーズは、キャブズとのファイナル再戦でも断然有利と目された。3勝1敗から2連敗を喫したが、それでも第7戦はウォリアーズのものだと思ったファンは多かったろう。第4クォーター残り5分37秒の時点でウォリアーズが4点リードしたときには、昨季王者がいよいよ底力を誇示するときが来たかと思えた。

「私たちが勝ち残ると思っていた。今夜は特に自信があった。第5戦では出場停止で不在だったドレイモンド(グリーン)が戻り、地元で迎える第7戦だったからね」。

天下分け目の第7戦を前に、スティーブ・カーHCと同じ風に考えていたファン、関係者は多かったはずだ。しかし――。

第4クォーター終盤、レブロン・ジェームズ、カイリー・アービングの渾身のプレイの前に屈し、カリーとウォリアーズは敗れた。大本命のウォリアーズは、3勝1敗からシリーズを落とすNBAファイナル史上初めてのチームになった。彼らが早々と王手をかけた時点で、シリーズはあっさり終わると考えた私たちメディアもある意味で敗れた。こんな結果を予想できた者はどこにもいなかった。

「第5戦が鍵であり、シリーズの分岐点だった。勝つために十分なプレイができなかった。状況的に私たちには厳しいゲームで、カイリーとレブロンという2人が記録的なプレイを見せた。あそこでシリーズは完全に変わったんだ」。

カーHCのそんな言葉にあるように、グリーンが出場停止で第5戦に出場できなかったことはウォリアーズにとって痛恨だった。レブロン、アービングに41得点ずつを許して敗れ、地元での戴冠ムードは霧散。第3クォーター中に先発センターのアンドリュー・ボーガットがひざを痛めて離脱すると、一転して厳しい陣容になった。

「すべて僕の責任だ。(第5戦で)シリーズの流れは変わった。自分のせいだと言うことを恐れはしないし、実際にその通りだと思う」。

グリーン本人がそう語る通り、彼さえプレイできていれば第5戦の結果は違っていたのだろうか? その答えは知る由もないが、カー、グリーンの言葉通り、少なくともここでシリーズの流れが完全にシフトしたのは事実である。

昨季王者に綻びを見つけ、帝王レブロン・ジェームズは圧倒的なパフォーマンスを披露し始めた。第5戦以降、過去2年は自信満々に進んできたウォリアーズは驚くほどの脆さをさらけ出していくことになる。


第4戦でジェームズと交錯したグリーンは第5戦を出場停止に

去年のファイナルMVPに輝いたアンドレ・イグダーラは腰痛を発症し、もはや守備でレブロンを苦しめることはできなくなっていた。ハリソン・バーンズは第5~7戦の合計でフィールドゴール5/32という信じられない不調に陥り、クレイ・トンプソンは無用なトラッシュトークでレブロンの闘志に火をつけてしまった。カリーは第6戦でファウルアウトし、しかもマウスピースを客席に投げつけてテクニカルファウルと罰金処分を受けた。逆境の中で冷静さを失ったウォリアーズは、少しずつ、確実に崩れていった。

シーズン中からの疲れもあったのだろう。レギュラーシーズン最多勝は素晴らしい記録だが、激しく消耗するという意味で諸刃の剣だ。主力を休ませずにプレイオフまで突っ走った後で、どこかで反動が出るのは予想できないことではなかった。最後の最後でケガ人が出たことに、過去2年の疲労の蓄積が無関係とは思えない。

一方のキャブズは、レベルの落ちるイースタン・カンファレンスに属するという幸運もあり、この時期に上手にピークを合わせてきた感があった。レブロンは支配的なプレイを続けると、アービングが得点力で、トリストン・トンプソンはリバウンドでサポート。瀬戸際で蘇ったキャブズは、シリーズが進むにつれて勢いを増していった。

「(第7戦の)重要さを考えれば、キャリア最高とはいかなくとも、今年最高のゲームをプレイしなければいけない。50得点するという意味じゃないけど、ゲームのテンポを僕がコントロールしなければいけないんだ」。

徐々に追い詰められて迎えた第7戦の前日、カリーがそんなコメントを残したことに驚かされたのは筆者だけではなかったろう。カリーとトンプソンの“スプラッシュブラザーズ”はチームの看板ではあるが、ウォリアーズは彼らが“最高のゲーム”をプレイしなければ勝てないようなチームではなかったからだ。

過去2年のキャッチコピー「Strength in numbers」(数の力)が示す通り、本来は層の厚さと献身的姿勢が売り物だったはず。大舞台を前にしたカリーの意外な言葉は、レブロンの脅威の前に、ウォリアーズの信条だったチームプレイが機能しなくなっていることの何よりの証明だったのかもしれない。


カリーの第5~7戦のFG成功率は.367、トンプソンも第6~7戦は.395と重要な試合でショット不振に陥った

案の定、今プレイオフで右足首と右ひざに負傷を経験したカリーは、チームを救うことができなかった。レギュラーシーズン中は平均30.1得点(リーグ首位)、FG成功率50.4%の成績で2年連続MVPを獲得した必殺シューターは、今ファイナルでは平均22.6得点、FG40.3%、3.7アシスト、4.3ターンオーバーに落ち込んだ。キャブズの徹底マークを受け、疲労、故障の影響もあってか、動きはピーク時のキレを欠いた。おかげでジャンパーの精度は落ち、ディフェンス時にもキャブズから標的にされる結果になった。

こうして振り返ってみると、その瞬間には意外に思えた第7戦第4クォーター終盤のウォリアーズの失速は、実は必然の結果に思えてくる。

流麗なオフェンスは完全に停滞し、第7戦の最終クォーターはわずか13得点に終わった。最後の9本のショットを外し、4分39秒にわたって無得点。残り53秒にはカリーに1オン1を挑んだアービングが狙い通りに決勝スリーを成功。そして、チームのシンボルだったカリーが最後の4本の3ポイントシュートをすべて外したとき、ウォリアーズの“ドリームシーズン”は終わった。

2016年のファイナルは、様々な意味で歴史に刻まれていくことになるだろう。史上初の1勝3敗からの逆転劇で、キャブズは1970年の球団創設以来初めてとなる優勝を果たした。鬼気迫るプレイでMVPに輝き、故郷に栄冠をもたらしたレブロンは、現役でありながら伝説的な存在として崇められていくだろう。

一方、ウォリアーズはどうだろうか?

「私たちが3勝1敗とリードして以降、キャブズはすごい仕事をした。キャブズとクリーブランドの街を祝福したい。私たちも素晴らしいシーズンを過ごした。これほどの選手たちをコーチできる私は幸運だ。最後に思い通りにならなかったのは残念だが、それも人生ということだ」。

カーHCはそう語り、ラストゲームに敗れても、充実したシーズンだったことに変わりはないと強調した。確かに、シーズン最多勝記録を更新し、2年連続ファイナル進出を果たしたのだから、指揮官の言葉が身びいきだとは思わない。ついに力尽きたウォリアーズを語るのではなく、彼らに今季初の3連敗をなすりつけたキャブズ、超人的な活躍を続けたレブロンをただ称賛すべきなのだろう。ファイナル第3戦以降、キャブズは紛れもなくウォリアーズより優れたチームだった。


第7戦終盤にイグダーラのレイアップをジェームズが超人的なチェイスダウンブロックで阻止

ただ、アメリカのスポーツメディア、ファンは敗者には寛容ではない。歴史に残るレギュラーシーズンを過ごしたとはいえ――いや、過ごしたからこそ――ファイナルでの大逆転負けはより衝撃的な結果に見えてくる。

レギュラーシーズン中は73勝9敗だったのが、プレイオフでは15勝9敗。一時は“史上最高のチーム“の候補にすら挙げられたウォリアーズは、ほぼ1年を通じて見事なバスケットボールを展開しながら、画竜点睛を欠いた。最後の最後で倒せないチームに直面した。結果として、今後は、“プレイオフで歴史上最悪の崩壊を経験したチーム”として記憶されていくことになる。

残酷だが、これが新陳代謝の激しい米スポーツ界の現実だ。

鮮やかな光に照らされ続けたからこそ、影は余計に暗く感じられる。まさかの敗北のあとで、ウォリアーズにとってのオフシーズンは、長く、厳しく、そして辛い時間になりそうである。

文:杉浦大介  Twitter: @daisukesugiura

>>> 杉浦大介コラム バックナンバー


関連記事

[2016 NBAファイナル コラム]アンダーソン・バレジャオ インタビュー「ホームでの第7戦以上のものはない」(杉浦大介)

[2016 NBAファイナル コラム]リアンドロ・バルボサ インタビュー「僕のやるべきこと」(杉浦大介)

[2016 NBAファイナル コラム]“ザ・グレーテスト”、モハメド・アリがNBAに残した遺産(杉浦大介)


[特集]2016 NBAファイナル: ウォリアーズ vs キャブズ


著者
杉浦大介 Daisuke Sugiura Photo

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。