NBA

[コラム]シューズ戦線に異状あり!? 過熱するオフコートでの覇権争い

Author Photo
Sporting News Logo

2015年、エア・ジョーダンは生誕30周年を迎えた。

リーグが罰金を科した型破りなスニーカーの登場以来、バスケットボール・シューズは、スポーツアイテムの枠を越え、ファッションやポップカルチャーの歴史において大きな役割を果たしてきた。

 

1985年当時のエア・ジョーダンの初期広告

 

1990年代に入ると、史上最高の選手へと駆け上がるマイケル・ジョーダンの足元を支えたナイキは市場のトップランナーに躍り出た。シャキール・オニール、アレン・アイバーソンを擁した『リーボック』、一時はジョーダンを凌ぐ人気を誇ったグラント・ヒルの『フィラ』、ストリートのイメージを色濃く打ち出した『アンドワン』など、多くのライバル・ブランドがナイキ/ジョーダンの前に敗れ去った。

 


4試合連続40得点以上のルーキー記録を作ったアイバーソンとジョーダンのマッチアップ

 


ジョーダンの最初の引退後に登場したグラント・ヒルは、NBAの新たな顔として期待された

 

2014年のアメリカ国内のバスケットボール・シューズ売上シェア (SportScanInfo調べ)に目を向けると、ナイキ/ジョーダンが全体の95.5%、アディダスが2.6%、アンダーアーマーが1%、リーボックが0.8%となり、以前にも増して、事実上の独占市場と化している。しかし、裏の指標ともいえるスニーカー転売マーケットでは異変が起きている。

スニーカー専門のデータ会社『Campless』調べによると、2015年前半の転売マーケットの取引額総額の上位は下記の通り。

第1クォーター (1/1~3/31)

1位 Adidas Yeezy 750 Boost
2位 Air Jordan 4 『Columbia』
3位 Nike KD 7 『Aunt Pearl』
4位 Nike Air Foamposite One 『Chromeposite Mirror』
5位 Air Jordan 10 『Bulls Over Broadway』


第2クォーター (4/1~6/30) 

1位 Air Jordan 1 『Chicago』
2位 Adidas Yeezy Boost 350
3位 Air Jordan 1 『Shattered Background』
4位 Under Armour Curry One 『MVP』
5位 Air Jordan 1 『Dover Street Market』

ナイキ/ジョーダン勢の強さは際立つが、先日、初来日を果たしたステファン・カリーのシグネチャーモデル『アンダーアーマー カリー ワン』と『アディダス Yeezy ブースト』が上位に食い込んでいる点に注目したい。シカゴ出身のカニエ・ウェストがデザインする『Yeezy』シリーズは、リリース前からフェイク品が作られるほど、異様な過熱ぶりが恒例となっている。

 

 

It's Yeezy season. Kanye West celebrates the launch of #YEEZYBOOST 350 at the adidas Originals Store, London. #originalslondon

adidas Originalsさん(@adidasoriginals)が投稿した写真 -

Yeezy ブースト 350の発売日、ロンドンのアディダス店舗に徹夜で並んだファンとカニエ・ウェスト

 

もともとはナイキと契約していたカニエだが、同社の待遇を不満に思い、2013年末に1000万ドル(約12億円)の契約金でアディダスへ乗り換えた経緯がある。ナイキ時代にリリースされた『Air Yeezy 2』は、オークション市場で30~60万円もの高額で取引され、多くのセレブリティやNBA選手もプライベートで着用した。

 


レブロン・ジェイムズは、2014年ファイナルの練習時に『Air Yeezy 2 Red October』を着用

 


ネイト・ロビンソンは、2013年に1試合、第1クォーターだけ『Air Yeezy 2 Black/Solar Red』を着用  

 

ヒップホップ・アーティストがNBA選手のファッションに及ぼす影響は、当コラム第1回で述べた通りだが、アディダスはカニエのほかにファレル・ウィリアムス、エイサップ・ロッキー、プッシャ・T、ビッグ・ショーンらヒップホップ界のビッグネームと次々にコラボレーションしている(アディダス・グループのリーボックはケンドリック・ラマーと契約している)。

ファレルやカニエが手掛けるシューズのおかげで、アディダスは同社のライフスタイル部門『adidas Originals』の2015年第1クォーターの売上が29%増加したという。

アディダスは、カニエにナイキ時代にはなかった権限を与えており、今後はカニエがデザインする本格的なパフォーマンス・シューズが生産される可能性も否定できない。実際、カニエはカリーを引き抜きたいようで『Yeezyアスリートとして迎え入れたい』という趣旨の発言をしている。

 

 

👀 #YeezySeason #Yeezy750BOOST #Yeezy #teamadidas @adidasoriginals

Damian Lillardさん(@damianlillard)が投稿した写真 -

Yeezy 750 ブーストを着用するダミアン・リラード

 

また、以前よりアディダスはファッション・デザイナーの起用に積極的であり、10年以上続くヨウジ ヤマモトとの『Y-3』は、ファッショニスタの間で定番のブランドとなった。2008年にスタートしたジェレミー・スコットのラインもカルト的な支持を集め、近年では、ラフ シモンズ、リック オウエンスなど、NBA選手の間でも人気の高い大御所ブランド/デザイナーとのコラボレーションが好調だ。

一方、ナイキ/ジョーダンも昨今のラグジュアリーブームを受けてか、レブロン、コービー、KDのライフスタイル版シグネチャーモデルや、エア・ジョーダン11のソールを使用した『ジョーダン・フューチャー』、高価格帯の『ジョーダン・シャイン』などを発表。(ウェストブルック初のシグネチャーシューズ『ウェストブルック 0』もライフスタイル・モデルとなっている)。

加えて『シュプリーム』『ピガール』『フラグメント デザイン』『ドーバー ストリート マーケット』など、人気ストリート・ブランドやセレクトショップとコラボレーションした限定スニーカーは、コレクター垂涎の的となっている。

 

 

Getting ready for the Show #HisAndHers #Espn #StayTuned

Richard Hamiltonさん(@ripcity3232)が投稿した写真 -

『ジャスト ドン x エア・ジョーダン 2』を首にぶら下げ、引退発表を行うリチャード・ハミルトン

 

上海で開催された『ピガール x レブロン 12 エリート』のローンチ・イベント

 

冒頭で触れたように、ナイキ/ジョーダン王朝は盤石だが、3億4000万ドル (約408億円)の売上(SportScanInfo調べ)を持つトップアスリート、レブロン・ジェイムズが現役でいる時間も短くなってきている。

カニエは自身の歌詞の中で『YeezyはJumpman(※ジョーダンのロゴマーク)を飛び越えたぜ』と豪語しているが、着々と外堀を埋めるアディダス、レブロンと肩を並べる存在となったカリーが率いるアンダーアーマー、もしくはその他のブランドは、ナイキ/ジョーダンという巨人を越えて、新たな時代を切り拓くことができるのだろうか。

 


昨シーズン、MVP争いを繰り広げたカリーとハーデンのシューズ対決も必見

 

文:Yukee Abbé( UpscaleHype.JPTwitter: @YukeeAbbe Instagram: @YukeeAbbe

[関連記事]

[コラム]D・ウェイド、R・ウェストブルック、C・パーソンズ、A・スタウダマイアーに見る、NBAファッショニスタ流オフシーズンの過ごし方

[コラム]NBAイチ『スワッグ』な選手:ニック・ヤングが語る、お気に入りのブランド、スニーカー、スタイル・アイコン

[コラム]NBAのファッション事情に、ヒップホップ・アーティストが及ぼす影響

著者
NBA Japan Photo

NBA日本公式サイト『NBA Japan』編集スタッフ